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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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EX終話・その唐突な召喚を僕らは知りたくなかった

「それでは、創始者である俺、カイン・クライエン・マイネフランより、アルセ姫護衛騎士団の悠久なる栄光を願って、乾杯!」


 集まった皆が近くの人たちとグラスを軽くぶつけ合う。

 ついにパーティーが始まった。

 まずは代表ということでアルセの挨拶だ。

 アルセが皆の合間を縫ってカインの居る丘の上の壇へと上がっていく。

 僕はそんなアルセたちをグーレイさんとリエラ、アーデと共に見守っていた。


 近くではロディア、ノノ、ブラックアニス、パルティーが話し合っていて、少し離れたところでは新聞記者たちを見付けたアカネが突撃、ソレをセインとツバメさんが必死に止めようと羽交い締め。

 あそこは放置でいいだろう。

 触らぬアカネに祟りなし、だ。


 ルクルは皆にカレーを配って回っている。僕の母さんも手伝っているようだ。結構馴染んできたみたいだなぁ、初めは戸惑ってばっかりだったのに。

 始まったばかりなので給仕係をやっているようだ。

 僕も主催の一人だってことで、僕の役に立とうと頑張ってくれてるらしい。

 テッテも今は兄妹や仲間たちの元へ向かっているので、もうしばらくはこのゆったりした状況が続く筈だ。


「えぇー、と、皆さんはじめまして。アルセです」


 あー、緊張してるなーアルセ。

 まぁ、今まで演説みたいなことってしたこと無かったもんな。

 ガチガチに緊張してるアルセも可愛い。


「アルセ、そう緊張しなくていい。皆知り合いだ、家族に語りかけるみたいな感じでいいんだよ。お前さんのお義父さんに話すみたいに、な」


 近くに居たカインがくすっと笑って気楽に告げる。

 ソレを聞いたアルセも少し、言葉を止め、目を瞑り、一人、何かを考える。

 よし、っと目を開き、少し落ち付いた表情で語りだした。


「アルセ姫護衛騎士団は、私を助けるためにって皆さんが作ってくれました。カインが一番実力があったから設立はカインで、ネッテやリエラとお義父さんたちでパーティーを組んで、楽しく、本当に楽しい旅が始まりました」


 ちょっとアルセ、僕のことお義父さん呼びで固定しちゃうの!?


「カインとネッテが結婚で抜けちゃった後も、リエラが代表になって、ソレを皆が支えてくれて。お義父さん、姿も声も誰にも聞いてもらえないのに私をずっと見守ってくれました。だから、私は自我を持てた、成長できた。神に成れた。そして……こんなに沢山の皆と知り合えたっ」


 ああ、アルセが涙ぐんでいる。

 アルセが滲んで、あ、これは僕も涙ぐんでるせいか。

 ぐずっ。びぐっ、娘の成長を見守る父親ってこんな気分なのかなぁ。ねぇグーレイさん。


「アルセ姫護衛騎士団は私のためのクランであり、皆があつまり笑顔になるためのクランであります。いままでも、これからも、皆、楽しく行きましょうッ!」


 そう締めくくり、アルセがお辞儀する。

 話の中で何故か皆涙ぐんでいたのは、きっと今までの戦闘や冒険を思い出したからだろう。

 濃密な時間を過ごした、少ししか一緒に入れなかった人も居るけど、ここに居る皆は何かしらの関係でアルセ姫護衛騎士団に関わった人たちだ。

 だから、皆、アルセとの、仲間との思い出を思い返し涙ぐむ。


 万雷の喝采。

 皆がアルセを祝福する。

 僕もリエラも泣きながらアルセに拍手を送る。


 誰も彼もがアルセに感謝し、好意を抱く。

 だってここには悪意持つ誰かが居ないから。

 アルセが神としてこの世界を見守ってくれることになったのだ。あの奇跡を起こし、世界に平和を送った。そんな存在に、悪意を向ける存在はここに居られる訳が無い。


 アルセも感極まったようで、涙を流し、嬉し泣き。

 カインが良い演説だったっていいながら、背中を優しく叩いて送りだす。

 アルセが頷き、壇上から降りる。


 僕に向けて歩きだした。

 アカネさんも気勢がそがれたようで僕の元へと戻り始めた。

 ルクルも給仕を終え、テッテもそろそろ、と。

 パルティが仲間にまたあとで、と告げて僕に視線を向ける。


 そして皆が、目を見開いた。

 ……うん?

 どうしたの、皆?


「バグ君? その、足元のって、何?」


 グーレイさんの言葉で何の気なしに下を見る。

 光があった。

 六芒星に輝く魔法陣。

 光は僕が認識した瞬間ぶわりと広がる。


「バグさんっ!」

「へっ!?」

「おーっ」

「ちょまっ!?」


 異変に気付いたリエラが咄嗟に手を伸ばす。

 僕は慌てて逃げようと後ろに飛び退く。

 アーデがしがみ付いて来る。

 後ろに居た誰かに背中が当った。そのせいで魔法陣の光から逃げ切れな……――


 ああ、そうか、クルルカさんが言ってた僕等に何かが起こるって奴、これ、だったんだ……

 光に消える視界の中で、アルセが泣きそうな顔でこちらに走る姿が見えた。思わず手を伸ばし、そして……

 光が全てを包み、僕の意識が途絶えて消えた――

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