EX・その妖精女王がどうなったかを僕らは知らない
「すいませんねわざわざ」
「いえいえお構いなく」
妖精郷でエイケン・ドラムに妖精たちへの招待状を渡したのだけど、せっかくだから妖精女王連れ戻すの手伝って、ということで、急遽行く予定の無かったドドスコイに向かうことにした。
皆でヴィゾフニールの背に乗せて貰っての移動である。
なんか話を聞いたエアークラフトピーサンの転生体がだったらあんた連れてっておやり。といった具合にヴィゾフニールの尻を蹴ったようだ。
今から尻に敷かれてるのかヴィゾフニール。
そんなんじゃこの先苦労するぞ? え、理解はしてる? それでも娘であり妻だから?
あー、うん。まぁ、がんばって。
ヴィゾフニールに送られた先はレーシーの森。
ここには無数の変てこ生物が生息していて、その全てがレーシーの眷族なのである。
レーシー自身は麻雀好きのギャンブラーなだけだけどね。
「ふっ、日寄ったな妖精女王! これが必殺、緑一色!!」
「げぇ!? 振っちまったっ!?」
「あらあら、またレーシーに振り込んだのね」
うわー。切り株で作ったテーブルで麻雀やってる四人のお姉さんたち。
レーシー、妖精女王、暇潰しに来てたスクーグ・ズヌフラ、そしてエスティール・ファイアドラゴン・ドドスコイ。ってオイ!? 王妃の一人がなんでここに居るの!?
「ありゃ、皆揃ってどーったの?」
麻雀やりながらこちらに気付いたエスティールが小首を傾げる。
「お久しぶりですエスティールさん。なんでここにいるんです?」
「いやー、私って王妃じゃない。毎日やることなくて暇なのよねー。この時間旦那は兵士相手に訓練中だし」
なるほど、確かにこの時間エスティールは暇そうだな。
「そこで私が誘ったのよ、面子が少ないからあんた来なよって」
「時間潰しになるし、旦那からしても浮気の心配が無いから安心されてるのよね。森の守護者とあってる訳だから城に居るより安全だし。送り迎えはトサノオウがやってくれるから」
城に居るよりってところが怖いところだな。
というかレーシーがエスティール麻雀に誘うとか、その過程がちょっと見てみたかったなと思うのは僕だけだろうか?
まぁいいや、レーシー、唯野さんから招待状貰った?
「あー、貰ってるよ旦那ー。結婚式はいつにすんのー」
「えー、っと、それはまたおいおいで」
そう言えばレーシーはアメリスに賭け麻雀で負けて僕の妻にされたんだっけ。
えっと、それ、嫌じゃないの?
「人間と結婚って言ってもたかだか数十年でしょ。だったら問題無いわ」
うわーお、守護者なレーシーさんはそう言えば寿命が長いんでした。
そりゃ僕は最長でも100年前後、その程度の時間なら暇で暇で麻雀しか毎日の楽しみが無いレーシーにとっては暇潰しのアクセントでしかない訳か。
うん、なんか複雑だ。深く考えないようにしよう。
「あ、あらぁ、エイケン・ドラムさんじゃーあーりませんか」
「はぁい女王様。迎えに来ましたよ。さぁ、行きましょうねー。死出の旅路に」
ぎゃあぁ!? 最後、最後豹変した。エイケン・ドラムさんがしていい顔じゃないよその深淵覗くような蔑みの笑顔。
エイケン・ドラムがゆっくりと歩きだす。
「折角帰って来たと思ったら、なんでまたここに来てるんですかね? 郷のこと、放置しすぎじゃないですかね?」
「あ、いや、その、ほら、エイケン・ドラムに正式に女王になって貰おうと思ってだね、私が居なくとも充分に回るようにたまに出歩いてる訳で……」
「ええ、無理矢理女王代行させようとしてるのは理解してます。が、一度の外出で一週間以上音沙汰無いとはどういうことです? か・り・に・も、現・女王が! ねぇ、なんで? なんで? なぁんでぇぇぇぇ?」
つかつかと歩き、妖精女王の目の前まで来たエイケン・ドラム。
物凄い顔を近づけドスの利いた声で冷酷に怒鳴りつける。
その間僕らもレーシーさんたちもただただエイケン・ドラムの豹変ぶりにガクブルするしかできなかった。
やっぱり、怒らせちゃダメだったんだよ。
妖精女王は禁忌を犯してしまったんだよっ。
可哀想だけど僕らではどうしようもないんだよ。
エイケン・ドラムによりお口にフランスパン突っ込まれて気絶した妖精女王が襟首掴まれたままずるずると連れて行かれる。
僕らはただただナムーと彼女が連れ去られるのを見送るしかなかったのである。
「あー、まぁ、今回はそろそろおしまいにしとくかー」
「そう、ね。あー、女王様の負け分どうしよっかなー」
「今請求したらあの娘殺されるんじゃない?」
「そ、それは確かに……しばらく落ち付いた後で請求しておくわ」
そっかー、妖精女王それだけの負け分があるのかー。
ギャンブルはするもんじゃないね。失う物が多過ぎる。
レーシーたちに別れを告げて僕らは次の目的地へと向かうことにしたのだった。
えーっと何処行こうかな?
メリケンサック公国でいいかな?
 




