EX・その妖精が喰らっている罰についてを僕らは知る気はない
ヴィゾフニールに別れを告げて、僕らは妖精郷の方へと向かう。
妖精さん達は散々アキオ君を弄んで満足したらしく、やるだけやったらさっさと撤収してしまった。
残されたのはボロボロになった鼻眼鏡掛けてクラッカー持ったアキオ君だった。それ、どっから貰ったの?
なんだろうねこいつ。なんでこんなに妖精に好かれてるんだろう?
本人は嫌われてると思ってるようだけど妖精たちめちゃくちゃ楽しそうだったし。
僕の隣を歩きだした食い倒れ人形……じゃなかった。なんかへんな恰好の不良君は溜息吐いてナイフを取り出す。
「なんかよぉ。こいつ舐めると気持落ち着くんだよ、なんでだろうなぁ?」
知らないよ。ただの危ない人だからでしょ。
ナイフで舌斬らないようにね。
あれ? なんか甘い匂いがナイフから……
「ふへへ。なぁんで甘いんだろぉなぁ?」
ぎゃあぁ!? アキオ君がトリプってるぅ!?
え? ネフティアがナイフ舐めてて美味しくなさそうだから? 蜂蜜塗ってあげた?
どうりで甘い匂いの筈だよ。何時塗ってるの? え? この前塗ったの一週間前!?
大丈夫なのか、このナイフ舐めて……
妖精郷に入ると、無数の妖精たちがこちらに意識を向けて来る。
アーデが手をあげて挨拶すると、向こうも挨拶してそのまま去っていった。
アーデは妖精として認識されてるのかな?
それにしても妖精って種類が多いね。
おや、アーデ達の元に子供大の妖精さんが。
これは多分だけどリュタンかな?
悪戯好きだけど子供と遊ぶのは大好きな妖精さんだ。
そんな彼らをパイプ咥えてハシバミの木の下から眺めている姐さんはメルヒ・ディック。
あそこにいるのはヘッドリー・コウだって。なんで名前分かったかって? 近づいて来たヘッドリー・コウが目の前で女の子に化けでアキオ君を誘惑して来たんだよ。あそこに居るのも私と同じヘッドリー・コウよ。って教えてくれたのである。
ちなみに女の子に成る前は緑色のゴブリンみたいな容姿だったよ。
御蔭でアキオ君も騙されることなくふざけんなっ。ってナイフ舐めて威嚇していた。
まぁ、全く威嚇効果はなくて楽しげに笑ってたけどねヘッドリー・コウさん。
そんな妖精たちの間を抜けて、妖精女王の元へと向かう。
そこには……バケツを両手に持たされて通路に立たされたアニアがいなさった。
っていうか、妖精女王の代わりにエイケン・ドラムがいるんだけど。もしかして世代交代したの?
「あ、皆さんこんにちわ。料理勝負以来ですね」
「エイケン・ドラムさん、妖精女王は?」
「今日も私に妖精郷任せてレーシーさんの所に行ったみたいです。そろそろ、オシオキしなきゃですよね」
なんかいま黒い笑み浮かべたように見えたんだけど。
というか、エイケン・ドラムさん滅茶苦茶疲れてるな。
「私としてはパン作るだけでいいんですよ。それだけで毎日楽しいんです。なのに、なぜか私に妖精女王の仕事が舞い込んで来て、しかも悪戯好きのお馬鹿さんたちが毎日のように問題起こしてくれて。ねぇ、アニア?」
「ひいぃ!?」
あのアニアが、怯えている!?
僕らは戦慄した。
あの恐いもの知らずで悪戯好きのアニアが、怯えている!?
ということはエイケン・ドラムは怒ると怖い。ってことですね。
よし、怒らせないように気を付けよう。
でも、妖精女王はそんなエイケン・ドラムを怒らせた訳か。……あいつ、死んだな。
「あ、これ、料理勝負の時に渡し忘れてたから」
知り合いの人数分の招待状を配る。
妖精の知り合い結構いるからね。アニアの分もついでに渡しとこう。
ところでアニア、何やったの?
「わ、私悪くないし。悪い妖精じゃないよ?」
「私が作ったパンを無断で食べたでしょ」
「あ、アレは美味しそうだったから黴てないか味見をしようと……」
語るに落ちたな。
出来たてパンが黴ってたら大問題でしょ。
初めから食べる気満々だったのはこの話だけで普通に分かるや。
「これは、ギルティですね」
「うん。私でもアニアさんが悪いと思う」
「そんなっ!? 味方が居ない!?」
そりゃそうでしょ。これで君の味方するのは何かしらの悪意持ってる奴だけだよ。
「それにしても、どうしてアニアさんはこっちに居るんでしょう?」
「え? あー、女王が居ないから臨時で雇ったのよ。アニア、一応優秀みたいだし。でもやっぱりダメね。羽、毟り取ってやろうかしら」
やばい、エイケン・ドラムさんがブラック・ドラムさんになっとる。
本気を感じたのかアニアが全身ガタガタ振るわせている。
僕らが来るまで何度もブラック・ドラムさんを見ちゃったんだな。
可哀想にトラウマに成りかけてるみたいだ。物凄い、罰だったんだな。バケツ持って立ってるのなんてどうでもいいくらいに。
まぁ、彼女には良い薬だろうから放っておこう。僕には関係ないし。




