EX・その国の名を僕は知りたくなかった
ヤロウゼキングダムはソドムやゴモラのように一夜で消滅した。
おっさんたちは散り散りに消え去り、王であったハードモットは消息不明になったらしい。
僕は、といえばリエラに救出されて元の場所に戻ってきた。
新しい国を作る最中の場所だ。
ヤロウゼキングダム崩壊を行ったワルセイデスたちが付いて来て、王国建設を手伝い始めたのだ。
禍々しい黒いマーブルアイヴィ、いやヒヒイロアイヴィで瞬く間に無数の家を編み上げていく。
なんでだろ、グーレイ教国みたいに蔦で出来た建設物なのに、こっちの家々が禍々しく見えるんだけど。
どこの魔王城城下町? と思えるほどに禍々しい作りの家が群れを成す。
馬車馬のように働いていた人足工夫たちが俺らのがんばりってなんだったんだろう? と立ちつくしながら立ち並ぶ黒い蔦の家を見上げていた。
なんで蠢いてオオオオとか声を出しそうな家になってんだろう?
モンスターハウスかな? 屋根が魔物の顔みたいに見えるんだけど。
「な、なんか禍々しくないですかね?」
「私も思った」
「アルセイデスじゃなくてワルセイデスが作ってるからだよね? どうしよう?」
「構わん。よい家ではないか。地震が来ようと倒れんぞアレは」
はっ!? 貴女は!?
「リファインさん!?」
この国復興の総指令官に任命されているリファイン隊長が大剣を地面に突き刺し、その柄に両手を置いて仁王立ちしていらっしゃった。
「ひさしいなリエラ殿。そして、貴方が私の御主人か」
ぎゃあぁ!? 一目で看破された。マジで僕が貴女の夫なのですか!?
っていうかなんだ今の台詞回し、まるで運命に出会った、みたいな言い方は!? 魔術師同士の殺し合いはしませんよ、確かに大剣持ってるけどリファインさん。見つめる眼孔も鋭いけども。
「先程なにやら巻き込まれたそうだが、無事でなにより」
「は、はぁ……」
「ふむ。ワルセイデスたちが立てた国、か。ワルセイデス共和国、とでも名付けるか」
って、えええ!? 国の名前だよ、そんな簡単にリファインさんが決めちゃっていいの!?
「へー、ワルセイデス共和国かぁ。良い名前ですね」
待ってリエラ。それアレでしょ、ゲームなどで名前適当に入れても相手からの返答が全て良い名前ですね。となってしまう奴!
シリアス場面で変な名前呼ばれてうあああああって頭抱えて悶える奴でしょ!?
なんで僕はこの名前にしてしまったんだぁとか後悔しても遅い奴!
せめてそこはアルセ共和国とかにしようよ、それならアルセの国ってわかるし。
なんであえて悪落ちしちゃったっぽいワルセイデスの共和国になっちゃうの!?
禍々しいよ! なんか禍々しい城まで建ってるんだけど!?
なんだよあの風雲何とか城みたいな城は!?
え? 何か用ワルセイデスさん?
なんか僕がツッコミ入れてたらワルセイデスが一匹近づいて来た。
話を聞いてみると、あの城侵入者防止ようにいろいろ仕掛け作ったらしい。
ぜったい風雲なんとか城だろ。アスレチック一杯だろ!
やっぱ池の中にある石を飛び越えて行く奴あるんだろ、たまにすぐ崩れる石とかあるんでしょ!
禍々しい魔王城みたいなところに入り込もうとするのは勇者パーティーくらいだよ。
誰が好きこのんであんな場所に窃盗にはいるのさ?
絶対に御免被るわ。
「リファインさん、ここに居ていいんですか?」
「ああ、作業現場はメイリャに任せて来た。そもそもワルセイデスたちが動き出したのだ。人足はもはやいらん」
ボランティアで集まった人たちに謝れ。
皆わざわざ集まって来てくれたんだからさすがにいらんはないでしょう!?
そんな事を思いながらリファインに案内されて皆さんが働いているらしい場所へと向かう。
あー、なんかすっごい呆けた顔で皆が手を止めている。
何を見てるかって? 家に変化していく蔦の群れです。
自分たちの仕事って一体何だったんだ? そんな表情で皆が見上げていらっしゃった。
「あれ? そこの方々は……」
「ん? あは、リエラさんじゃーん。元気ー?」
「あ、はい」
リエラに気付いた女性がよっすと近づいてくる。
この人は確か……ルーシャさんだっけ? 隣のが、たしかサーロ。
現代世界からこっちに再度来た時に聞いたんだけど、サーロもアルセ姫護衛騎士団を名乗ってあの戦争を戦ったんだって。
しかもたった一人で大軍勢に立ち向かってドドスコイ軍を生還させた英雄になったらしい。
だけど、誇ることなく人々のためにってここの建設を手伝いに来たんだそうだ。
顔は失敗面なギャル男君なんだけど、やってることは本当に英雄的だよね。
そういえばバグって物理効かなくなってたな。それが分かってても大軍勢の前に一人で突出とか胆力凄いな。失敗面なのに。
ルーシャとサーロのテンションについて行けてないリエラが苦笑いしている。
とはいえ、そこに割って入れるほどリア充ではないので、僕はただただ会話を聞き流すだけだ。
「ちーす、リファインさん、なんかいきなりアルセっぽいのが建設し始めたんすけど、俺らどうしたらいいっすか?」
「仕事なら幾らでもあるだろう。開墾に回ってもいいんだぞ?」
「メイリャさんとこ行って来るッす!!」
サーロが慌てたように去っていく。
どうやら開墾はめちゃくちゃ面倒らしい。
皆も話を聞いていたようで、蜘蛛の子散らすように駆け去っていった。




