EX・その逆鱗が国を滅ぼすことを彼らは知りたくなかった
恐怖に怯え固まる身体。
迫り来る全裸の毛深い男。
絶体絶命のピンチに僕は叫んだ。
助けてっアルセぇ――――ッ!!
ドグァッ!!
「ぐほあああぁぁッ!?」
次の瞬間、地面を割り砕き、黒き蔦が飛び出した。
部屋の床を粉砕し、真上に居たハードモットをふっ飛ばし、その身体に巻き付きながら急成長。
そんなマーブルアイヴィーと思しき蔦の合間に、一人の少女が座りながら出現する。
天井を割り砕きさらに成長するマーブルアイヴィーから飛び降り、黒く染まったアルセイデスと思われる少女が床に着地した。
「あ、アルセ……?」
「クケ?」
振り向く少女。
深淵の覗きそうな黒い闇の眼。くぼんだように見える黒い瞳に赤く裂けた口。
こてんと首を傾げ、こちらを見つめる。
なんか怖い。
アルセイデスっぽいけどアルセイデスじゃない?
「ミケ、タ。ケタ? ケタケタケタケタケタッ」
ぎゃーっ!? 首が縦に180度以上曲がったぁ!?
ほ。ホラーだ、何コレ、どっかの井戸から出て来ちゃったの!?
「ぐ、ぅ、なんだ? 尻にすげぇ衝撃が来た気がしたが……」
うわっ、変態が起き上がった。
「ケタ?」
少女の壊れた笑い声が止まる。
次の瞬間、ぐりんっとハードモットに顔を向けるアルセモドキ。
いや、そうか、これが……ワルセイデス!?
「クケ、クケケ、クケケケケケケケケケケケケケッ」
「やってくれたなぁテメェ、俺の愛の巣に女が乗り込んでくるとはなぁ、地獄に行く覚悟は出来てるかァ」
「神、怒、怒、怒々々々々々々々々ッ」
なんだこれ、やっべ!?
SAN値ごっそり削れそうな少女と全裸おっさんの対決だ。
先に動いたのはワルセイデス。床を突き破った蔦をうねらせハードモットに襲いかかる。
その先端を掴み取り、ふんぬっとぶち抜こうとして、あまりの硬さに舌打ち。
投げ捨て蹴り付けベッドの下に置かれていた片手斧を二つ入手する。
「ウオラァ!」
「クケァーっ!!」
ドゴン、バゴン。と城の中からいくつもの破砕音が聞こえて来る。
ついでに無数のおっさんの悲鳴。
ズゴン、近くの床が吹っ飛び、もう一体のワルセイデスがぴょっこりと顔をだす。
僕を見付けて首を200度回転させた後、クケクケ笑いだした。
「クソッ! なんだ? 何が起こってやがる!?」
「何が起こった? 分かっていなかったの?」
その声は、ついさっき出て来たワルセイデスの蔦、その下から聞こえた。
誰だろう? そう思っていると、
蔦がせり上がり、大人の女性が現れる。
これもまた深く黒に近い緑の肌を持つアルセ系の魔物だ。
「初めまして愛しい人。ワルラウネと申します」
……ん?
「神の夫を拐したのだもの、貴方たちヤロウゼキングダムは神の怒りに触れたのよ。御蔭で近場のアルセイデスたちが私の眷族ワルセイデスへと変貌しているわ」
「神の、夫だぁ? なんだそりゃ?」
「そこにいるでしょう、我らが神アルセの夫、名義不詳のバグさんが」
「こいつが……?」
あ。これアルセがマジに助けに来てくれたってことなのか。
「アルセはお怒りよ? さっさと解放した方がいいわ」
「ふざけるなッ! そいつァ俺の獲物だっ! この俺が、神の夫を寝取ってやるんだァ!!」
ひぃぃっ!? 目を付けられた、これ、脱出しても絶対狙って来るパターンだ!?
「仕方ないなァ。衆道から触手道に踏み外してみるかァ。ア゛ァ゛ッ」
ヒィィ!?
ワルラウネもワルセイデス同様深淵が覗いて来そうな眼になったぁ!?
彼女の周囲でうねりだす蔦の群れ、たゆたい、重なり絡まり合う。
その姿、まさに触手の如く。
ヤバい、なんか恐ろしい絵面にしかならない気がする。
ここに居て大丈夫か? SAN値的なものが消失するんじゃないのか?
誰か、やっぱり助け……
「透明人間さんっ!」
遅れ、扉を吹っ飛ばしてリエラ達が雪崩れ込む。
うおおおおおっ、リエラぁーっ。
「大変です! この国ワルセイデスたちが唐突に攻撃を始めてて、このままだと国が滅んでしまうです」
テッテの言葉を聞きながらリエラに手を引かれて立ち上がる。
「リエラ、ここに居るとなんかいろんな意味で精神的に死ぬから離れよう!」
「あ、そ、そうですね。テッテちゃん撤収。皆も集めて脱出しよう」
「はいです!」
どうやらルクルさんがひそかに僕をスト―キングしていたそうで、攫われたのに気付いたリエラ達は即座にここに向かったのだとか。
でも女性の入国を許可していなかったので大暴れ、隙をついてリエラとテッテだけで潜入して救助に来てくれたそうだ。
城を出れば見上げた城は蔦だらけ、そこかしこの壁面を粉砕し、蔦の城みたいになっている。
あ、崩れ出した。
国の崩壊とどこかで聞いたおっさんの悲鳴。
神の怒りに触れた狂乱の国は一夜で滅び、おっさんたちは新たな扉を開いたそうな……




