EX・そのスキルが破滅的なことを僕らは知りたくなかった
アメリス邸で妻候補リストを確認し終えた僕らは、次の目的地を決めることにしたのだった。
といってもアメリス達が相談して決めているので僕は暇になる。
トイレ行ってくると告げて部屋を後にする。
ついでに神様に聞いてみよう。
トイレを終えてからグーレイさーん。と呼びかける。
しばし待っていると、目の前に出現する銀色肌の生物。
アーモンド形の巨大な目と申し訳程度の小さな丸メガネ。
当然ながら目に合ってないメガネである。
「何か呼んだかい? 今知り合いの世界に掛かりきりになっててあまり構えないんだけど?」
知り合いの世界って、またこの世界みたいに危機救ってんの?
「まさか? 危機というか、バグ取り作業? 新しい世界ってバグが多いんだよ。一つ一つ調べて行かないといけないからね」
ゲームのデバッグ作業かな?
「それで? 何か用かい? 用が無いなら作業に戻りたいんだけど」
「実は、夢を見たんだ」
「はぁ?」
「ま、まぁそんな嫌そうな顔せずに。えっと、その夢ってのがちょっと気になって……」
夢の内容を話して聞かせる。
最初こそ胡乱な態度だったグーレイさん。
話を聞くほどに顎に手を当て考え始める。
「一つ、思い当ることがある」
「思い当ること?」
「リエラのスキルだ。確かあっただろ? 今まで一度も使ってなくて、変な設定しか書かれてないスキル」
あったっけ? そんなスキル?
「救世の一撃」
あぁ、確かにあったな。
なんだっけ、世界を救う一撃、そして伝説へ、だったっけ?
「アレね、私が作ったスキルじゃないんだ」
「え? じゃあ誰が作ったの?」
「……駄女神」
一瞬、確かに僕らの時間は止まった。
何かヤバいスキル感がひしひしとしてくる。
「あいつさぁ、普段は取り返しのつかないダメさ加減なんだけど、たまぁに致命的なことやらかすんだ。自分の世界でも魔王と勇者システム作りだして魔王出現したら勇者も出現して勇者が魔王倒したらその周辺から次代の魔王が生まれるように、ってプログラム作ったせいで世界滅亡の危機になってたんだよ。アレは酷かった」
世紀末かよ!? ってことは、あのスキル、ネタじゃなくてやらかしてる場合もあるのか。
「ちょっと聞いてくるよ」
そう告げて、グーレイさんは神界へと戻る。
グーレイさんに告げておいたし、トイレも終わったので部屋へと戻る。
すると、既に次の目的地が決まっていた。
今の所向かった国はマイネフラン、セルヴァティアは行く必要なかったし、ドドスコイはもうタダシさんたちに渡したからいいとして、エルフ村、トルーミング、コイントス、フィグナート、ダリア連邦、グーレイ教国だ。
これから向うのはゲーテリア、ダーリティア、コットン、ゴーラ、ギルメロン、ナーロイア、ペズン、メリケンサック、妖精郷、海にも行くらしい。あと東大陸の復興中の街。名前はまだないそうだ。アルセの街とかでいいんじゃない?
とりあえず一番遠い東大陸から攻めることになるようだ。
その後海の中でリフィ探して、妖精郷行ってメリケンサックとか遠くから回っていくらしい。
四聖獣も回るの? じゃあロックスメイア行かなきゃじゃん。
「バグ君、リエラさん、ちょっといいかい?」
さぁ出発しようか、と思った矢先に再びやってきたグーレイさんが血相変えて現れた。
なんかマジヤバいスキルだったのか、それとも別の意味で駄女神がやらかしていたのか。
なんか二人だけに話す事があるってことなので、皆を中庭に残して二人適当な部屋にグーレイさんと向かう。
「リエラさん、まず最初に誓ってくれ、一生、救世の一撃は使わないと」
「え? いきなりですね。まぁ、構いませんけど、試しで使ってみる気にもならなかったですし」
説明文がヤバいもんね。伝説へとか、意味不明だし、なんか死にそうだし。
「死ぬよ。もちろん。駄女神仕様だからさらに酷い」
「「え゛?」」
リエラともども血の気が引くような顔でグーレイさんに返す。
「救世の一撃の詳細を聞いて来た。それは文字通り世界を救う一撃だ。ゆえに例え相手が高次元生命。私のような神であろうとも討ち滅ぼせる一撃となる」
「そ、そんな凄い一撃を私が!?」
「ああ。だが、人の身で世界規模の災厄を滅ぼすんだ。デメリットが酷過ぎる」
ごくり、知らず喉を鳴らしたのに気付く。
あの夢の顔がフラッシュバックする。
アレは、アレはやっぱり……
「救世の一撃、それは肉体、魂、存在、己の全てをたった一度に集約して放つ至高の一撃。その一撃は遥か高位の次元人すらも消滅させる。ゆえに使ったが最後、その者は敵対する何かと共に消え去り、存在すら使ったがゆえにその人の生きた証は人々の記憶から消え、救世主たる誰かが世界を守ったという事実だけが伝説として残る。名もなき救世主と成り果てる。駄女神が作りだしてしまった最悪のスキルだ」
予想以上に最悪なスキルだった……
まだまだ先なのですが、予告編
それはアルセ姫護衛騎士団記念式典で起こった。
皆が集まる宴の最中。
不意に光り輝く名もなき一人の男の足元。
驚く男にアーデが飛び付く。
異変に気付いたリエラが手を伸ばす。
思わず逃げようと飛び退く男、後ろに居た神、グーレイに激突する。
そして、光が彼らを包み込んだ。
そこはアルセが治めるグレイシアとは全く別の異世界。
とある王が儀式を行った。
現れた魔王を討つための召喚の儀。
現れたるは古より伝わる12の英雄。
イレギュラーが起きつつも、ついに最後、■■■の勇者が召喚された。
剣の英雄、斬星英雄
異世界召喚に憧れを抱く19歳。
槍の英雄 月締信太
魔物を始めて見たことで興味を抱く動物好きの17歳。
弓の英雄 矢田修司
女好きの俺様主義者。24歳。
彼と肩がぶつかったが為に襟首を持たれた拍子に召喚された巻き添え人 尾道克己50歳
斧の英雄 リックマン=アックスフォード
豪快で面倒見のいい割れ顎のおじさん。36歳。
料理の英雄 小玉陸斗
朴念仁だが料理は絶品の料理人22歳。
食の英雄 杙家檸檬
陸斗の知り合いだが陸斗よりも食事に夢中の16歳。
盾の英雄 ピピロ=バックラ
引っ込み思案の黒人少女。華奢な12歳。
騎乗の英雄 シシリリア=A=ライドノット
走るの大好き天真爛漫少女15歳。
魔法の英雄 灼上信夫
不細工なれどオタ知識で皆を助ける童貞魔術師32歳。
闇の英雄 朝臣美樹香
死んだ目をした18歳
光の英雄 光来勇気
自身こそが勇者だと勘違いしているイケメン少年14歳。
???の英雄 グーレイさん
アーデと共に異世界召喚され、皆の度肝を抜いたメガネを掛けた地球外生命体(笑)
12の勇者が召喚された。
グーレイを巻き込んだことで本来召喚される筈だった彼は再び皆から認識されない存在となってしまっていた。
彼を認識出来るのはグーレイとアーデ。そして、リエラ。
「■■さん、今回は、私も一緒ですよ……って、あれ? 名前呼んだ筈なのに」
彼の名もリエラの名もこの世界ではグーレイのせいでバグってしまったようで、呼ぶことすらできなくなってしまっていた。
グーレイが英雄として皆と行動し、アーデのお守をすることに。
見えない彼とリエラはグーレイを補助しながら新たな世界へと旅立つことになったのだった。
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「テメェ盾なのにぜんっぜん使えねェじゃねーか!」
「わ、私、盾とか、扱った事……」
「うるせぇ、使えねぇ奴はいらねェンだよッ!」
いきなり闘えと言われても英雄たちは素人集団。
数々の不協和音が鳴り響く。
「俺が勇者だ。お前みたいな役立たずが勇者な訳が無いだろッ、消えろよ雑魚野郎!」
「お、俺は、俺は強いんだ。強くなるんだ……だからっ」
無数に起こる衝突と不和。
「クソジジイッ、巻き込まれの分際で仲間になろうとか思ってんじゃねーだろうな!」
「で、ですが、他に行き場所が……」
「ブラック企業ですりつぶされる弱者だろうが、だったらそれらしく浮浪者やってろよクソが!」
あぶれた者たちが寄り集まるのは、特異な柱。
銀色の肌を持ち皆から敬遠され、人の言葉を解しながら凶悪な容姿のせいで腫れもの扱いだったグーレイ神だった。
華奢な盾少女、見かけ倒し英雄、巻き込まれたサラリーマンを引き連れて、グーレイ達が動き出す。
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――その一撃を放つ時、肉体、魂、存在、その全てを一撃で放つらしい。
つまり、放った時点で使用者は死ぬ。それはもう確実に。
何しろ使用者本人の肉体が使われるから。
使用者は輪廻転生すらも奪われる。
その魂を使ってしまうから。
使用者は人々の記憶からも消え去る。
その存在すらも使ってしまうから。
だから、その一撃は強力無比。
誰もが怯え、嘆き、悲しみ、絶望に打ちひしがれる時、たった一人巨大な敵を倒す救世主。
全てが諦めた中でただ一人だけ奇跡を成して全てを救う力を持つ存在。
世界を救うたった一人に許された、偉業を成す為のスキル。
だけど、その代償はあまりにも大きい。
たった一人で絶望の世界を救うが為に、あまりにも巨大な偉業を成すために、人の身に余り過ぎる奇跡を施行するために。
己が身体も命も存在も、あらゆる全てを引き換えにして放つ最終奥義。
誰もが倒せないあまりに凶悪な存在を確実に葬る必殺技。
だからこそ【救世の一撃】。
世界を救うために、己の全てを投げ打つ一太刀。
世界の敵を葬る代わりに、諸共に消える諸刃の剣。
世界の敵は多分輪廻転生するだろう。でも、世界を救った救世主は、未来永劫どの世界からも消え失せる。
ゆえに、ただ、世界を救った。その栄誉だけが世界に巣くう。
自分たちは誰もがその偉業を知りながら、名前すら言えない。
だって存在すらもたった一撃に込めるから。
世界中全ての人の記憶から、その存在すらも消え失せる。
ゆえにその一撃は絶大で、神すら恐れる最後の一撃。
人が放ちうる最初で最後の命の煌めき。
だから、名も知らぬ誰かが世界を救った。その事実だけが残ってしまう。
ゆえに、彼女は伝説となる。
「……やっぱり、こうなっちゃいましたね」
いつか見た夢のように、彼女は笑った。
泣きそうな顔で、決意を込めて、僕に向かってたった一度、微笑んだ。
「ダメだよ、それだけは、他に方法がある筈だッ」
僕は叫んだ。彼女は目元に涙をためて、それでも満面の笑顔を零す。
「だって、私がやらなきゃ、他に誰がやるんですか?」
本当は泣きたいはずだ。
本当は逃げたいはずだ。
でも、皆倒れてしまった。
あいつを野放しには出来ない。
闘えるのは彼女だけ。
倒せるのも彼女だけ。
でも、使えば確実に、彼女が消える。
その笑顔も、肉体も、存在も、記憶すらも。
彼女を形作る全てのものが消え失せる。
「――――ずっと、あなたが、好きでした」
万感の思いを込めて、少女はずっと言えなかった言葉を告げる。
呆然とする僕を残し、走りだす。
風に零れた雫が一つ、地面に落ちて弾けて散った。
彼女の涙が全てを物語っていた。
少女は駆ける。
自身の持つ最高の技を放つために。
肉体、魂、存在、その全てを一撃で放つために。
「救世の――――」
僕は手を伸ばす。ダメだ。やらせちゃダメだ。
それだけは使っちゃダメなんだ、リエラ―――――っ!!
その彼の名を誰も知らない
~その彼女の名を、誰も知らない~
鋭意制作中




