EX・そのムチャぶりをしたことを僕は知りたくなかった
やってきましたダリア連邦。フィグナートではチグサとケトルに軽く挨拶しただけで直ぐに別れてこっちに来た。なんか忍者修行見てく? って流れになったから御暇することにしたのである。
正直ここには来たくなかった。
だってアルセ大好きな狂人がいるから。
「おお、いらっしゃいましたなアルセ様! いえ、アルセ様の端末でしたか、なんとお呼びすれば?」
当然のように僕らが降り立った場所に駆け付けて来たステファン狂というか卿。
「アーデです。アルセと区別するために名付けました」
「名付けたっ?」
急に血走った眼になるステファン卿。
「い、いくらリエラ殿といえども、ふ、不敬では……」
「あ、名付けたのは私じゃありませんよ。アルセの名付け親の透明人間さんです」
ステファンに僕の本名告げても分からないだろう。とリエラが透明人間と紹介する。
ステファンはそれだけで察したらしい。
僕に向かって倒れ込む。あ、これ、もしかして五体投地? お祈りの最上級で己の全てを神に差し出すという祷の方法だっけ? いや、知らんけど。
「世界をアルセ神と共にお救いになられたバグ様でしたかァッ! そうとは知らずご無礼をッ!!」
「いえ、あの……そこまでしなくとも、僕ってばほら、アルセの後ろから見守ってただけだし?」
「何をおっしゃいますか! 私は知っておるのです! 貴方様がマイネフランに蔓延ろうとした黒死病を駆逐した事実を! アルセ様の功績にしたようですが私の目は騙されませんぞ! そのアルセ様を神の座へと押しやった手腕。ただの人間などではありますまい。まさに現人神ッ」
んな大げさな。
「そして絶望に沈む世界をバグらせ救ったあの一撃。ババァどもが光の柱となり立ち昇る世紀末はあまりにも印象的な光景でございました!」
いや、それこそ僕のせいじゃないし。
世界はバグらせたけども。それはアルセが嘆く世界になってほしくなかっただけであって……
「姿はしかと覚えました。貴方様の黄金像をアルセ様の隣、いえ、背後に見守るように建てましょう!!」
止めてっ! それはマジで許して! 自分が像になるとか恥ずかしすぎるんだけどっ!?
「なぁに、心配なさいますな、資金は我が国が全て出しましょう。全てのアルセ教に設置いたします!」
「止めてくださいっ!? そ、その、ほら、僕ってば透明人間だった訳じゃないですか。つまりアルセを見守っていた時は見えていてはいけなかった訳で、ですね」
五体投地から起き上がったステファンさんはその場で傅き僕を見上げると、憑き物が落ちたかのような顔でぼろぼろと涙を流し始めた。
「わ、私が間違っておりました。アルセ様を見守る者は姿が見えない。確かにその通り、見えないけれどそこに居る。そしてアルセ神様を常に見守っている。その表現を忘れて黄金等と言う物で像を作ってはならんのですね!!」
なんかいろいろ間違ってるけど僕の像作らないならそれでいいよ。
「透明、いえ、見えない物質を探さねば! 見えない像を作れとは、このステファン目から鱗にございます! 我が人生を費やしてでもこの神命、必ず果たしてみせましょうぞ! しからば失礼!」
「あ、ちょっと? ステファンさんこれ!」
さっさと走りだそうとしたステファンをなんとか呼び止め招待状を渡す。
アルセも来るからねー。
「必ず向かいます、向かいますぞーっ!!」
そして去っていくステファン。
うん、まぁ、なんだ。
僕は止めてほしかっただけなんだけど、なんか凄い無理難題告げちゃった気がする。
というか見えない像作れってどんなムチャぶりだよ。かぐや姫さんもびっくりの無謀な試みだよ。
「うわー。黄金像かぁ」
「でもロディ、旦那様は黄金像は嫌だって」
「でも見えない像作れって方が大変じゃない?」
「うーん。そんな物質あるのかなぁ?」
うわぁ、ステファンさんの人生潰しちゃったんじゃないだろうな僕。有もしないもの探して出来ない物作らせようとかどんな鬼畜だろう。
「ステファンさん、大丈夫かなぁ」
「るー」
あ、ちょっとルクル。そんなことよりさっさと次行こうって、彼の人生掛かってるんだって。
あ、ちょっと、もう。分かった行く、次行くから。
「相変わらずアルセが好きだよねステファンさん」
リエラ、散々今のやりとり見といて感想がそれなの!?
ちょっとさすがにどうかと思うよ。
ステファンさんどう見てもおかしいでしょ。
誰かあの人止めたげてよ。ストッパー役居ないとどこまでも暴走しちまうぞ!?
「アルセ姫護衛騎士団のメンバーっていろいろ変わってる人多いですよね」
「あ、はは。ノノちゃんさすがに悪いよぉ」
その騎士団に所属してるの君等もだからね。というかステファンさんは所属してないからね。
アレはただのアルセ教信者でしかないから。
行動力があり過ぎるだけの狂信者だからね。
僕らアルセ姫護衛騎士団とはまったくこれっぽっちも関係ないからね!! ここ、重要だから!




