EX・その突撃を僕は知りたくなかった
コイントスの次に向かったのはフィグナート帝国。
ゲーテリアに行こうかと思ったんだけど、ここに居る予定になってたのってパイラだったんだよね。
パイラは既にマイネフランで会って手渡している。
王様には会う必要すらないので飛ばすことにした。
多分寄ることはまずない国だろう。
んで、やってきましたフィグナート。
一応あるってことは知ってたけど実際に来たのは今回が初めてだ。
帝国なためか街を囲う壁が物凄く高くて要塞みたいだった。
さすがにマホウドリたちで近づくと撃ち落とされそうな気がしたので、少し手前で降りることにする。
とりあえず全員来たか確認。
アーデとリエラ、ノノ、ロディア、のじゃ姫、ワンバーちゃん、ルクル、影からニンニンに僕を合わせた九人である。
うん、何度数えても九人……テメェ何者だァ!?
びっくぅっと影からニンニンが驚く。
そして周囲を見回し自分の背後を見る。
違うっ、お前だよお前! なんで居るの? ってか何時からパーティーに加わったの!? 野良なのそれとも僕の知り合いの影からニンニン? 確か二人いたけどのじゃ姫の眷族? え? 違う?
落ちこぼれニンニンの方? 下りてくるの見掛けたから合流した?
言えよっ!? さらっと合流しないでよっ!? いつの間にか一人増えててびっくりだよ!?
「あ、お久しぶりですニンニンさん」
リエラが普通に挨拶。
落ちこぼれニンニンもこれはどうも。と挨拶している。
いや、普通に受け入れないでリエラ。
「ま、まぁ知り合いみたいですし、街に行きませんか?」
「……そう、だね」
ノノの提案で僕らはフィグナートに向かうことにした。
そう、落ちこぼれニンニンも仲間なんだから着いてくることに問題はないんだ。
ただ、知らないうちにしれっと仲間に入ってるからツッコミ対象になるだけなんだ。
なんでもここ、フィグナートでは今影からニンニンたちの弟子であるケトルがニンニンたちに頼んで王国復興をしているらしく、忍者たちがジャッポンから大量に押し寄せているのだとか。
言われてみればそこかしこに隠れてる痕跡がある。
あ、あそこに居るピンクのニンニン、多分クノイチか何かだ。
屋根に同化してへばりついてるけど、屋根が藁葺なのでバレバレである。
城へとやってくると、門番さんに止められた。
リエラが代表で謁見許可を求める。
用事自体は隠す必要もないし、ただのパーティー参加のために招待状送るだけなんだよね。
アルセ姫護衛騎士団の名を出したので多分大丈夫だろう。
しばし城の前で待っていると、城の上部からシノビ装束のケトルが飛び出す。
驚く僕らの前で身体を開くと、風呂敷を広げてムササビの術で滑空。
そのままなぜか僕に突っ込んできた。
「何してんのケトル――――っ」
「ごぶぅっ」
後からバルコニーに出て来て叫ぶチグサ。
その声を聞きながら、ケトルの特攻を受けた僕は変な声を出して崩れ落ちた。
鳩尾が、鳩尾がやばいのよ……ガクッ。
「すいません、失礼しました。ちょっと久しぶり過ぎて猛ってしまいました」
確かにリエラに会うのは久々だったんだろうけど……なんで狙いあまたず僕に突っ込んだし?
なんとか意識を落とす直前で復帰した僕は、お腹押さえてしばしのたうち回ったあと、ようやく話を聞ける状態になった。
チグサも既にこの場にやって来ていた。どんだけ悶絶してたんだろう僕?
「貴方ですよね! 透明人間さん! 噂はかねがね聞いてましたよ!」
テンション高いな。
こんな娘だったっけ?
ケトルは凄く嬉しげに僕の両手を取ると、ぶんぶんと振りだした。
両手で包みこまれるように持たれたからちょっとドキッとする。
やめて、妻のリエラが見てるんだよ?
「未来の旦那様って聞いててどんな人かなってずっと夢想してました! これからよろしくですよ!」
はい? え? 未来の妻となるリエラの前で妻宣言。思わずリエラを見れば、苦笑している。
ああ、アメリスの仕業か。あの書類にケトルの名前も書かれてたのね。
「えっと、バグ君か透明人間さんとしか聞いてなかったからもうバグ君呼びが常になっちゃってるんだけど、私も妻になるらしいから、よろしくね」
そしてさらっと参戦してくるチグサさん。
……僕はリエラを見た。リエラは苦笑していた。
背後に気配を感じた。
るぅぅぅぅっと嫉妬に駆られた女の怨念めいた何かが肩に乗っている。振り返っちゃダメだ。
「アメリスさんから聞いてるわ。パーティー開くんでしょ?」
「あ、はい」
「夫になるんだからへりくだる必要はないでしょ。同じ異世界人なんだし」
クスリ、微笑むチグサさん。
僕の容姿見て婚約解消とか言いださないんだなぁ。いいんだろうか、僕なんかで?
いや、もしかしてこのパーティーのサプライズドッキリとかで実は嘘でした。って言うための布石なのかもしれない。
そう、だよね、僕なんかがモテるわけないよね。そもそも皆との絆も何も僕存在自体知られてなかったし容姿も見えてなかったんだし。妻が大量にいるとかきっとドッキリだ。
だからリエラも苦笑してるんだよ、きっと。
「えっと、じゃあ、うん。チグサ、ケトル。これどうぞ」
できるだけフレンドリーを意識して二人に招待状を渡す。
大丈夫。ドッキリって分かってるからその、意識してないよ。ホントだよ?




