EX・その混沌とした家族を僕らは知りたくなかった
プリカに招待状を渡した僕たちは、プリカの家から脱出した。
家から脱出っておかしい気もするけどワンバーちゃん連れ出そうとしたらプリカが襲いかかって来たんだよ。
前に聞いてたプリカの禁断症状がぶり返したっぽくて無駄に強く凶悪になってた。
なんで可愛らしいぽえぽえ系エルフが四つん這いでかけずり回って涎垂らしながら噛み砕こうとしてくんのさ。何アレ、恐いっ。
なんかワンバーちゃんだけじゃなくて僕らまで喰い殺そうとしてるようにすら見えたんだけどもっ。
当然、リエラの超人的実力の御蔭で撃退出来たけどね、後はもうランツェルさん達に任せたわ。
なんかまた懲罰房入れとくとか言ってたけど、そんな場所あったっけ?
「うぁ、なんかヤバい」
思わず口に出てしまったのは、エンリカの家、周辺だった。
家じゃない。その周辺だ。重要だから二度言っとく。
だって、オーク軍団が群れなしてんだもん。
入りきらないオーク達がぶっひぶっひと屯っている。ここだけオーク村である。
凄いなオーク。何匹いるんだろ。
知ってるかい、これ、全部拳系エルフが産んだんだぜ?
行き交うエルフたちが物凄いぎょっとした顔でオーク達を見ている。
中には露骨に顔を顰めている奴もいるけど、止めとけ、ヘタに関わると死ぬぞ。主に母親による物理的抹殺で。
「そう言えばロディアどうなったんだろ?」
「あ、あそこに居ますよロディ」
エンリカの地雷を踏み抜き夫自慢を聞かされた哀れな贄は、魂の抜けた顔でオーク達に埋もれていた。
よっぽどすごかったらしいなエンリカのバズ自慢。
周囲のオーク達が大丈夫? と凄く心配そうにしている。
放心状態のロディアは完全にオーク集団の中心に居るのに微動だにしていない。
これがエンリカの子供じゃなく普通のオークだったら確実に襲われてるフラグである。
よかったねロディア。エンリカに感謝しろよ。あの人子供への躾けは行き届いてんだ。
「ロディアがオーク塗れになってる……」
「普通なら絶望モノなんですけどねぇ……エンリカさんの子供たちロディアちゃんに優しい……」
僕等に気付いたオークたちがわざわざロディアを持ち上げ、えっさほいさと運んで来た。
って、なんで僕に渡すの!? ちょ、これお姫様抱っこって奴じゃ、めっちゃ重……おっとお口チャックだ。これは思っちゃいけない言葉だ。特に女の子相手には。
でも、鍛えてない僕にはこれ無理だって、足と腕プルプルして来たんだけど!?
「……んぅ?」
そしてタイミング良く復活するロディア、目の焦点が合い、僕と視線が合う。
「あぇ?」
可愛らしい小顔に紅茶色のさらさらヘア。溌剌なショートヘアがさらりと零れくりっとした瞳が僕を見つめる。
数秒の交錯。
恋が芽生える五秒前。
「は、はわわわわわっ!?」
「あら、ロディったらさっそく未来の旦那様に甘えてるわ」
「ち、ちちち、違うからっ!? え? なに、どうしてこうなってるの!?」
凄い否定された、なんかショック。
座り込んでのの字を書けば、アーデとのじゃ姫が寄って来て僕の頭をよしよし撫でる。
そしてリエラがそんな僕らを見て苦笑い。
「あ、ちょっとワンバーちゃん舐めないでっ、油付くからっ、美味しくなっちゃうから」
元気づけようとワンバーちゃんも参戦。でも舐められると肉汁塗れになっちゃうんだよ。やめてよぅ。美味しくなっちゃうよぅ。
「ハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ッ!!」
それは唐突だった。
なんかエンリカの家からおっさんの狂った声が響き渡ったのだ。
混乱中だったロディアも含め、僕らは思わずそちらを見る。
「ぶひぃーっ」
エンリカをお姫様抱っこしたバズが子供たち共々転がるようにして家から出て来た所だった。
遅れ、両手にガリアンソードを持ったエルフが飛び出して来る。
血走った眼と物凄い鬼の形相。般若なんてまだヌルいといいたくなる、この世全ての怒りを詰め込んだ顔で、リカード・エル・ぱにゃぱがバズを追い掛ける。
口からは殺す殺すと漏れていることからどうやら童心に返っていたリカードの精神をまたぐちゃぐちゃにしてしまったようだ。
「あ、あなたぁーっ」
遅れ、家から皆を追って出て来た母親のルイーズさん。
逃げまどうオーク達を蹴り飛ばしながらリカードを追う。
「死ねぇオークぅぅぅっ、潰れて死ねェッ!! アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ッ」
っていうかガリアンソードって、確か西洋だかの懲罰官が持ってた拷問用の武器じゃなかったっけ?
って、言ってる場合じゃないな。
そもそもエンリカを動ける状態にすれば拳帝様が何とかしてくれるだろ。
なんでエンリカは逃げるまま……お姫様抱っこか!
あの野郎、バズに抱きしめられるの堪能してやがるっ!?
バズだけが一人デス鬼ごっこさせられてるよ、動き出してエンリカさんっ。




