EX・その実家帰りが何を齎すのかを誰も知りたくなかった
「あら? リエラさん?」
「え? あぁっ! エンリカさん! バズさんも!」
うっわ、懐かしいというかほぼ最初にバグっちゃった二人がやってきた。
元々はアルセの護衛に一緒について来たオーク族のバズ。今ではエルフのエンリカに襲われ、お前がお父さんになるんだよぉーっとあっというまに子沢山の一家の大黒柱になってしまった可哀想な? オークさんだ。でも、おかしいな。可哀想なのに僕の中の何かがリア充爆死すべし。とざわめいている?
「どうしたんですか二人とも」
「久しぶりに実家に帰ろうかなって思って。最近全然帰ってなかったし」
「ぶひ」
ご両親が心配だから様子見に来たって? 親孝行だね二人とも、でも顔見せに来ること自体が親不孝だって気付いてないのかい?
既に精神崩壊しちゃってるお父さん、この大軍団見たらどうなっちゃうんだろうか?
見渡す限りオークです。
まるでこれからエルフ村を襲撃して欲望の限りを尽くさんばかりの圧倒的スタンピードが起こってるくらいの大人数、一万匹くらいいるんじゃないかな?
「えーっと、このオークたちは全部、エンリカさんとバズさんの?」
「ええ、可愛いでしょ? 皆私のお腹を痛めて産んだ愛しい子供たちよ」
ぶひぶひぶひと凄い鼻音だ。ここはエルフ村だっけ、オーク村だっけ、どっちなのか分からなくなりそうだ。
「あ、そうだ。せっかくなのでエンリカさん、バズ、これどうぞ」
忘れる所だった。エンリカとバズに招待状を渡しておく。
「あ、はい。ところで、貴方は……?」
「ぶひ」
「え? 貴方それはどういう……えぇ!? 貴方がアルセの保護者さん!?」
エンリカの驚く顔とか初めて見たんじゃないか?
血染めの女拳帝でも驚くことあるんだな。
「今はもうアルセに見守られる側だけどね」
この世界全てを見守ってるからね、神だし。
「我が子の成長を見守るの、良いわよね。貴方の気持ち、分かるわ」
なぜかエンリカさんと一緒にほろりとしてしまった。
バズも一緒に、大きくなって、と子供の成長を見守る親の目になったので、ロディアとノノが何だこの三人? といった呆れた顔をしている。
「それにしても、なんて数。凄いですねエンリカさん。アルセ姫護衛騎士団の初期メンバーでしたっけ」
「あはは。私なんて殆ど所属してないけどね。加入するか結婚するかだったし。でも、リエラさんたちには凄くお世話になったもの。バズとも出会わせてくれたし」
やべぇ、目の前で惚気られたら僕の精神力ポイントがクリティカルでブロークンハートするっ。
やめて、バズにしな垂れかかってアーマー越しに指先でもじもじしないで。砂糖吐くぞっ。
「で、でも、エルフとオークって、普通は嫌がる気がするというか……」
ちょっと変わってますよね、とロディアが言ってしまった。
ああ、これはマズい。禁句言っちまった。
いや、血塗れにされるとかじゃないんだよ。モテない同盟に加入する男達が聞いたらあまりの衝撃で強制昇天させられかねない強力な攻撃が来る。
僕はバズに一度別れを告げて、リエラとルクルを連れてそそくさとエルフ村に侵入する。
何かを察したらしいアーデとのじゃ姫、そしてノノも直ぐに後を付いて来た。
あれ? ノノちゃんよかったの?
「何か、あそこに居てはいけない気がしましたので」
成る程、危険を察して地雷を踏み抜いたロディアを見捨てたか。なかなかに黒くて聡い子だよ。
「いいことを聞いてくれたわね、あなた! そうなのよ。普通のエルフたちはオークは汚らしいとか、オークの苗床になるくらいなら舌を噛みちぎって死ぬ。とか言ってるけどね。バズは違うのよ。紳士なの、すっごくカッコイイの。見てよこの容姿、ただのオークだと思う? ねぇ、そうでしょ、目元の傷がチャーミングよね。ぷりんっとしたお尻とか、あの丸まった尻尾とか。でね、初めの出会いは……」
げに恐ろしきは言ってはいけない言葉を言うことで始まる惚気話。
独り者には酷な話だよ。
いや。僕もなんか沢山の妻がいるらしいんだけどさ、実際に結婚した訳じゃないし、書面でこいつ等と結婚したから、とか言われても実感わかないって言うか。
僕も結婚したらリエラとあんな感じのラブラブバカップルになるんだろうか?
……いや、ないな。
アレはない。
あんな誰かれはばかることなく絶えずキャッキャウフフとか絶対無理だ。
というか気のせいかエンリカさんお腹おっきくなってないですか? ……まだ、産むのか?
と、いうわけで、僕らは惚気話を始めてしまったエンリカにロディアという生贄をお供えし、プリカの自宅へと向かうのだった。
問題はエンリカが自宅に戻った時、だな。親御さんたちどうなることやら。
発狂して死んだりしないよな?
 




