EX・その卵料理が世界初だということを彼らは知らなかった
「ふむ、この親子丼は素晴らしい出来だ」
「まさに親子の調和が……」
ダイトザンさんが空を見上げて涙をこぼしている。
息子よ。とか言ってるけど子供居たの?
もう一口食べたら娘よ。に代わったんだけど、四人家族なの?
「なんとダイトザンさんお子さんがいらっしゃったのですか?」
「何を言っている? 私は妻すら居ない一人身だが? ああ、今のは鶏の気持ちになっていたのだ」
待て、鶏の気持ちも何も、多分その親の鳥と子供の卵は赤の他人だと思うよ。
そもそも卵は雌鶏が生み続けるから親は肉として殺されることはない。雄鶏か卵を産む役目を終えた雌鶏が食肉にされる筈だ。
「こう、瞳を閉じるとな、鶏の背後を歩く卵の殻を破ったひよこ達が浮かぶのだ」
だから赤の他人だよ。そもそもひよこになったら生まれちゃってるから卵じゃないよ!?
「さぁ、今回は食べ比べだからな、次はこの生玉子を使ったマイネフランの料理を食べるとしよう」
「生玉子を喰うのは何気に初だな」
「普通の卵は生だと腹を痛めて死にますからね。正直恐怖があります。しかし、毒ではないと対戦相手が言うのですから、信じましょう」
僕の証言信頼性ないんだね……?
ブツクサ言いながら卵を割って言われたとおりに掻き混ぜ始める面々。一応食べ方教えはしたけど卵かけご飯だから混ぜて食べるだけなんだよね。
「っ!? こ、これは……」
「生玉子は、こんな味なのか!?」
「割った瞬間黄身から零れ出る黄色い液体が周囲のふわふわと混ざり合い、さらに掻き混ぜることで茶色とご飯の白が複雑な色合いに……」
ごくり、ダイトザンさんがスプーンで混ぜられたご飯を掬い取る。
見たことない初めて食べる料理に自然喉が鳴る。
この世界では生玉子を食べるということ自体が初なのだ。
僕らの世界じゃ当たり前に食べられている生玉子、その未知の味を今、実食!
一口口に含んだ瞬間だった。
目を見開くダイトザン。
否、ダイトザンだけではない。他の面々もまた、初めて食べた味に目を見開く。
「これが、これが生玉子!?」
「おかしい、手が、口が、止まらないっ!?」
恐れ慄く審判員たち。
その腕と口が彼らの意思に反するようにただただひたすらにMTKGを体内へと取り込んで行く。
おかしい、そう思いながらもひたすらに食べて行く。
隣のタダシさんの親子丼はまだ一口食べただけだ。
さすがのタダシさんもおかしいと気付いたようで、僕の隣にやって来て小声で話しかける。
「ひ、一つ聞いていいかい?」
「あ、はい」
「あれ、悪い物入ってないよね?」
「全部コンビニで買った奴ですよ。パックご飯のコリヒカリをレンチンして貰って、卵の卵白を掻きまぜてメレンゲにして、その上に卵黄落として、卵に良く合うって言われてる醤油を垂らしただけです」
「……普通の、卵かけご飯だね」
「僕はその上に胡椒振りますけどね。今回はしてないです」
すごい勢いで瞬く間に無くなって行くTKG。皆の茶碗が一斉に金属音を響かせる。
どうやら何も無くなってしまった茶碗にスプーンを打ちつけてしまったらしい。
それでも何も乗っていないスプーンを口に掻きこもうとしている。
正直怖い。僕、なんか変なもん混ぜたっけ?
「ああ。ない。もう無くなってしまった?」
「止まらん、まだ止まらん。もっとだ。もっとこの食事を、生玉子を!」
「生だ! 生玉子を寄こせぇ!!」
チェブロフ、アイゼンはうぁー、タマの三人が血走った目で叫びだした。
まるで麻薬中毒者だ。なんでこうなった!?
「ほ、本当に、何も混ぜてないかい?」
「混ぜてない混ぜてない」
タダシさんがかなり引いた顔でもう一度尋ねる。
当然首を横に振る。僕だって意味がわかりません。
そして、ただ一人まだ食べ切らずに一口食べたまま呆然としているダイトザンさんの茶碗に皆が首をぐりんと向けた。何気にパイラも同時に振り向いていた。
「「「「ナマタマゴォォォ!!」」」」
一斉に飛び付くゾンビのようにダイトザンに飛びかかる審判員たち。
「コォォォォ、アァァァァァッ!!」
次の瞬間ダイトザンがその場で両手を広げる。服が飛び散る。衝撃波が走り抜け審判員達を吹き飛ばす。
一人バトルロワイヤルでもやってるんだろうか? ライバル達を吹き飛ばし、上半身裸になったダイトザンは雄叫びと共にTKGを掻きこんだ。
「「「「あああぁぁっ!? ナマタマゴがァ!?」」」」
「フシューっ」
鋼鉄の肉体を見せびらかせ息を吐きだすダイトザン。
咆哮と共に口から目から怪光線を噴き出した。
なんだろう、滅びを齎す邪神が復活したかのようである。
「「「「オノレ我ガナマタマゴヲ!!」」」」
って、パイラさん?
なぜか審査員達が協力してダイトザンに打ちかかって行った。




