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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
 第二話 その町の名を彼は知らない
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その店の修理費用を、彼女たちは知らない

「はぁ。驚いた。野生のアルセイデスが人助けかよ。しかも空飛ぶってなぁ……」


 カウンター下で木の棒を振っているアルセに視線を落とし、おやっさんは感心したように言葉を吐く。


「で、買う剣は決まったのか?」


「硬い奴がいいんだけど。どれも高くて……」


「この子、剣の扱い悪いみたいで、すぐ壊しちゃうみたいなの」


「……なら、特別に打ってやろうか?」


「え?」


 予想外の棚から牡丹餅に、リエラは思わず目を見開いた。

 おやっさんはがははと笑うと、ニタリとある方向を指し示す。


「材料なら、そら。そこにおあつらえ向きの硬い蔦があるだろうが」


 と、未だにギガントパイルを縛り続ける蔦を指す。

 なるほど。確かにアルセイデスの蔦を加工するならかなり強力な武器になる。

 強度も桁違いらしいから壊れる心配も少ない。


 リエラのような我流剣士が無茶な扱いで早々剣を壊すとしても、蔦を加工した剣なら十分長持ちするのだとか。

 ただし、その金額は押して知るべし。である。


「で、でも10万ゴス……」


「その蔦が目の前にあるつってんだろ。いいもん見せてくれた礼だ。大負けにロングソードと同じ値段で売ってやる」


「タダにしろよ。材料費もないだろ」


「加工する技術料っつー奴だ。こっちも商売だからな。まぁ、さすがにあの蔦は高額だから滅多に打てねぇ。大量の仕入れだし武器屋冥利に尽きるっつーもんだ。一本造ってもまだまだ余るしな。アルセイデス様々だ。儲けた儲けた」


 と、豪快に笑うおやっさん。

 大盤振る舞いにリエラは感動して、泣きそうな顔をしている。

 なんだかそのまま、好きです付き合ってとか言いそうなほど感動した顔をしていた。


「さすがに今日すぐにって訳にゃいかねぇがな。加工自体は楽だから明後日にでもまた来てくんな」


「あ、ありがとうございますっ」


 リエラがお礼を言うと、再びおやっさんは笑いだす。

 自分の娘くらいの年頃の女性に感涙の表情を見せられたせいか、おやっさんの顔は紅い。


「そらカイン。これであの蔦斬りな。ああ、でもギガントパイル落として店壊したら弁償だからな」


「あれ落とさずにどう斬れと……」


 思わずギガントパイルを流し見るカイン。

 近い未来を想像して物凄く深いため息を漏らす。

 お店弁償に僕、100ゴス賭けるよ。

 いや、賭けたところで誰にもあげないし、貰えないけどさ。

 多分、いや、絶対ギガントパイル落とすね。断言しとくよ。


 おやっさんに緑色の鮮やかな刀身を持つナイフを受け取るカイン。

 おそらくあれがアルセイデスの蔦で造ったナイフなのだろう。

 刀身が普通の剣と違いそれほど輝いてはいないのだけど、なんとも神秘的なナイフだ。緑色のプラスチックナイフに見えなくもない。

 と、くぃっと引っぱられる感覚。見ればアルセが裾を引っぱっていた。


「どうした?」


 アルセは僕が気付いたことを悟ったのか、どこかに歩きだす。

 裾を掴まれたまま、僕もつられて移動する。

 さすがにこれ以上問題を起こす訳にはいかないのでアルセから目を放せない。


 やってきたのは……え? 銃?

 そこにあったのは、映画や漫画の世界でしか見たことない銃だった。

 黒塗りのものではなく、カラフルな色合いを持つ様々な銃がショーケースに入れられている。


「あ、こらアルセ、また問題起こす気?」


 リエラが目ざとく見つけてやってくる。

 しかし、銃を見つけて思わず感嘆を漏らした。


「ね、ネッテさん、コレ、なんですか!?」


「んー? ああ、それは魔導銃よ。魔法を込めた弾丸をセットして撃つと誰でも魔法を使えるの。でも、あんまし強い魔法は弾に込められないんだけどね。金額の関係で」


「じゃ、じゃあこれがあれば、私も魔法が……?」


「でも一番安いのでも8万ゴスはするでしょ。弾も高いし一発撃ったら幾らの損失になることか。よっぽど金持て余してるか、プロが追い詰められた時の奥の手として持ってるくらいよ」


「アルセイデスの蔦がかなりあるからよ。一番安いので良けりゃ一つやるぞ? 弾は買ってもらうことになるけどな」


「だからよぉ、そこまでやるなら弾くらい無料に……うおおっ!?」


 轟音響かせ、武器屋の床に穴が開いた。


「カイン、テメェはそれ弁償しろよ。1ゴスたりとも負けねぇからな」


「ちっくしょぉっ。だいたい最初っから無理だって分かってただろうが。つかこれどうやって立て掛けたんだよ」


 悪態いてギガントパイルを蹴りつけるカイン。

 さすがに硬かったらしく足を押さえて飛び上がる。


「業者の奴らと三人がかりで持ち上げたんだ。さすがに重いぜ」

「思うんですけど、重い方下にした方がいいんじゃ……」

 リエラがもっともな事を言うと、ネッテも同じ思いだったのだろう。

 頷いていた。


「見栄えの問題だぜ嬢ちゃん。でも、また床壊されちゃたまんねぇしな。それ斬りとったら手伝えカイン。上下逆にして設置するぞ」


「初めからそうしてりゃ良かっただろうが、クソッ」


 涙目になりながらもカインが吼える。

 りっぱな捨て台詞にしか聞こえなかった。

 負け犬の遠吠えはいつの日も空しいものである。

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