EX・そのお湯を掛けて三分待つだけの料理を彼らは知らない
「では次にマイネフラン側の料理も出来たようです」
セルヴァティアチームの評価が始まったくらいでお湯を注ぎ込んで三分、携帯電話を見ながら計り、全員の前にその料理をお出しした。
有名な緑色のうどんとかだと、確か七味使ってたはずなのでこっちの世界では毒物扱いになるんじゃないかと思って普通のコレにしたよ。醤油味のシンプル味付けである。
「これは、どうやって食べるのでしょう?」
「あ、はい、上蓋をはぐって箸で、あるいは備え付けのフォークでお食べください。良く混ぜてから食べると美味しいです」
僕の言葉に従い、皆が上蓋をはぐりとる。
ダイトザンは箸を、他のメンバーは箸が使えないようなのでフォークを使って食べ始めた。
「うましっ!?」
そしていつも一定速度で食べていたパイラの食事速度が急激に速まった。
「これはっ!? なんだこれは? 味が濃い、しかしその味こそがこの料理の肝だ。少しネギや角切りの……ジャガイモだな。これらは減点対象だ。一度乾燥させた物を湯で戻したのだろうが食感が新鮮な物と比べると幾分劣る。だが、だがソレをして美味いと言わざるをえぬこの不思議な感覚。なんだ? 箸が止まらぬっ!? それにこの四角い肉はなんだ? 何の肉なのだ? だが旨い、汁を吸って本来の持ち味以上の味を含んでいる。なんなのだこの料理は?」
「醤油ラーメンです」
「醤油、ラーメン!?」
はっと皆の動きが止まり、全員の視線が僕に向かって来る。
ひぃぃ、なんか怖い。
「ええい、後だ。評価は後だ。今は今はこの至福の時を味あわねばっ」
ずぞぞぞっと吸い込むように食べるダイトザン。
他のメンバーも先を争うように食べて行く。
おいおい、ネギ減点だって言うタマさんまで普通に食べきっちゃったよ。
食べきったダイトザンが箸をカップの上に置く。
そして両手を合わせたその刹那。
彼の身体が光り輝く。
「お、おおおっとぉっ!? こ、これは一体!? ダイトザン先生の身体が光り輝いたァ!? いや、それだけではない、あの厳つい顔がまるで全ての悟りを開いた賢者のように穏やかな笑顔になっているぅぅぅっ!?」
ダイトザン、覚醒。
いや、意味分からん。
チェブロフとアイゼンはうぁーさんが口元を布巾で拭いているその横で、仏さまのようにダイトザンが発光している。
……これってさ、料理勝負だったよね?
「よき、食事と出会わせて貰った」
あ、光が収まった。
ダイトザンが戻って来たぞーっ。
「ふむ。これはおそらくだが携帯食料の一種だね」
「ふぅむ。なかなか価値のある食事だ。美味いだけではなく携帯食としても使えるのか。ぜひともこの世界でも作りたいものだが……」
「獣人にはネギがダメな奴もいるんだがな、ダメだと分かってても一度味わっちまうと食べたくなっちまうな」
珍しくタマが上機嫌に喉をごろごろと鳴らしている。
厳ついライオン獣人なのに、なんか可愛く見えてくるから不思議である。
そう言えばラーメンとかうどん食べてる犬とかいたなぁ。動物にもラーメン人気なのかも? 高カロリーだから身体には悪そうだけど。
結果は? 15、8、10、10、10。合計53点。
ってこらパイラ。10点満点だろっ。なんで5のプラカードまで持ってんの!?
「あの、パイラさん?」
「10点じゃ、足りない」
そ、想定以上に気に入ったようだ。これ、もっと欲しい。という無言の視線が突き刺さる。
ああ、これはもうパイラさん日本美食ツアー確定な気がする。絶対連れてけっていうんだろうな。その内ラーメン大好きパイラさんになりかねん。
「あー、やっぱ無理かぁ。しかしだなぁ。カップラーメンはダメだろ。この世界に持って来ちゃ産業革命なんてもんじゃすまないだろ」
いや、でも麺料理っていったらやっぱこれっしょクーフさん。
「懐かしいから後で私にも一つくれないか」
「だと思いました。後ですからね。っというかクーフさん、なんか僕の歓迎会やるらしいんで後でアメリスかアカネに聞いといてください」
「なんだ、自分の歓迎会をやるから皆を誘っているのか。それ、鳥に招待状持たせればいいんじゃないのか?」
「ですよねー。でも顔見せも兼ねて行って来いって」
「なるほど、折角だから歓迎会には王ともども参加させて貰おう」
僕はクーフと熱く握手を交わして会場を後にした。
本日の闘いはこれで終わりだ。
明日はベストフォー、そのまま準決勝と三位決定。決勝戦を行うそうだ。
まぁ、どこまで通じるか分かんないけどやれるだけやってみようか。
ね、リエラ、アーデ。
といっても僕もリエラもアーデも殆ど料理はしないんだけどね。
「なんというか、ズルしてる気がしますね。これで勝ってるの皆さんに申し訳ないというか」
確かにそうなんだけど、でも自分で作れるか? っていうとさすがにちょっと、無理だしねぇ。
ま、犯罪犯してる訳じゃないから問題ないよね。




