EX・その王からの依頼を彼は知りたくなかった
「へぇ、思ってたよりはマシな面じゃねぇか」
謁見の間、ではなく客間と思しき場所に案内された僕ら。
カインに会いに王城に訪れると、折角会うんだから謁見の間で仰々しいのは嫌だからって理由で応接用の部屋に通された。
やってきた部屋には既に三人の人物が待っていて。僕が部屋に入ると同時に掛かった言葉が今の言葉である。
「ちょっとカイン、一応初顔合わせなんだからもうちょっと言いようがあるでしょ」
「はっ、今まで一緒に旅してた仲だぞ。そんな遠慮して他人みたいなこと言えるかよ」
ちょっと驚いた。カインはちゃんと僕の事を旅の仲間として認めてくれていたらしい。
「リエラ、ようやく会えたんだな」
「はい。カインさん」
リエラは笑顔だ。
ルルリカに促され、僕がカインの対面に座ると、右隣にリエラ。ノノに促されてロディアが僕の左隣に座る。ノノはその横に座った。
アーデがちょこちょことやってくると、僕をよじ登って太ももに座ってくる。
胸元に頭を預けて来ると、こちらを見上げてにぱっと笑みを浮かべた。
アルセじゃないけど普通にアルセみたいだ。
可愛いなぁ、と思いながら頭を撫でておく。
カインの隣にはロディアの対面にネッテ、その横にルルリカが座っている。
やっぱりカインよりネッテが好きなんだなぁ、あの変態娘。
「しかし、懐かしいわね、初めて会ったのに初めてな感じがしないし。やっぱりずっと一緒に冒険してたのを感覚で覚えてるのかしらね」
「ネッテお姉様、この男は初めて見たんですが、知り合いで?」
「ルルリカ気付いてなかったのか? アルセの傍にずっといたぞこいつ?」
「……へ?」
「お前と初めて会った時もずっと居たし、俺とネッテが落ちた時はアルセともどもアイテム出して助けてくれたんだぞ」
「やっぱり、あの魔物の死体とか金銀財宝が真下にあったのって貴方の仕業だったのね」
懐かしいなぁ、あの時は必死だった。二人を助けようってできることはアイテムボックス内で眠ってるブロック・オリーの遺体とか水晶勇者の遺跡で手に入れた財宝とか全部出してたからなぁ。ブロック・オリーの遺体が一番有効だった気がしなくもない。何にせよ助かってよかった。
「さて、いろいろ積もる話もあるんだが、ソレを後回しにしても頼みたいことがある」
「へ?」
「悪いな、本当なら今までの旅の話とかして楽しく過ごせりゃよかったんだが、ちょいとマズいことになった」
「どうしたんですカインさん? マズいことって……」
「すまん、何も聞かずに料理大会にでてくれ!!」
ホワッツ。料理大会? え? 僕が? れありぃ?
意味が分からないよ。なんで料理大会。どういう過程があって料理大会っ!?
そしてなぜ僕に頼んだ!? 簡単な料理すら出来んぞ、どーすんの!?
「えーっと、なにがどうしてそうなったんですか?」
僕が呆然としていると、苦笑いを浮かべながらリエラが尋ねる。
さすがに王様と対面してるだけあって緊張してるノノとロディアは多分話しすら聞いてないし理解してないみたいだな。
がっちがちに固まってて虚空を見つめていらっしゃる。
あ、こらアーデ、ロディアの揉み上げ引っ張っちゃダメだよ。
「おっ」
今グキッて言わなかったか!? ちょ、大丈夫ロディア?
「ああ、いや、その……」
「国王陛下、さすがに説明も無く受けろと言うのはどうかと思うんですよ。では私から説明しますね」
やっぱりルルリカは宰相とかだと思うんだ。前王からの宰相さんがいるみたいだけど絶対ルルリカ宰相より宰相してると思う。
あ、アーデダメだって。これ以上引っ張ったら……って、そっち逆の揉み上げっ!?
「おっ」
またゴキッて!? すごい、治った!? でも気絶してないかこの娘!?
「実は最近各国で会合が開かれるようになりまして、今年はコイントス闘技場で料理大会を行うことになったんです。各国腕自慢の料理人を用意しているそうなのですが、我が国に張り合えるような料理人がいないのです。前王に聞けば、数年前にぽっくり行った食聖という方がいたらしいのですが、その弟子はフィグナートに店を出しているそうで、つまり大衆食堂向けの料理人はここに居ますがそれ以上の腕を持つ料理人がいません」
「で、でも、私達に頼む必要性が……」
「聞けば異世界から来たというではありませんか。異世界料理でなんとかしてほしいのですよ」
ああ、アーデ、ダメだよ。そんな首に掴まってぶらんぶらんしないで、首が、ロディアさんの首ががっくんがっくんなってるからっ!?
「……と、言う訳なのでよろしくお願いしますね?」
「あ、はい……へ?」
ごめん、反射的に返事したけど、え? どゆこと?
「よし、言質取れましたし料理人として登録しときますね。あ、助手として二人まで連れて来ていいらしいです」
え? なんのこと?
僕は知らないうちに料理人にジョブチェンジさせられたらしい。どうしろと!?




