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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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後日談・東大陸

「全員整列ッ!!」


 その日、東大陸中央部、新日本帝国本国跡地に、彼らは集っていた。

 各国より東大陸解放ボランティア同盟として集められた荒くれ者共である。

 本来であれば犯罪奴隷に落とされる筈の者たちも、今この時は全員等しく一糸乱れぬ姿で整列していた。


 なぜならば、彼らを指揮するのはあまりにも厳し過ぎる美しき軍曹。

 アルセ姫護衛騎士団所属の鬼軍曹リファインなのである。

 巨大な剣を地面に突き刺し、馬鹿野郎共を前に全体を見渡す。

 頭一つ分突き出る台座に乗っている御蔭で、彼女からは全員の顔がしっかりと見ることができるのだ。

 だから真面目な顔になってない奴が居れば即座に分かる。


「セキトリ、寝るなッ」


「寝てません!?」


「口答えするなッ、ヒンズースクワット10000回!」


「ちょ、多過ぎ……」


「30000回ッ!! 返事は!」


「サー、イエス、サー!!」


 リファインに見付かったが最後。

 スクワット一万回のペナルティを負うとあってはさすがに歴戦のバカヤロウ共も反論など出来る筈も……


「おいおい、流石に酷過ぎじゃねーか?」


 某有名クランのリーダーが流石に見かねて口を出す。


「黙れと言ったぞ、アルフレッド、貴様もスクワット30000だ」


「ふざけやがれ!」


 喧嘩腰になるアルフレッドに、溜息吐いてリファインは剣を地面より引き抜く。


「一分だけ時間をくれてやる。地面に伏していなければ不問としよう」


「はっ? 何をいっ……」


 一瞬だった。

 リファインが地を蹴り真上からの振り下ろし。

 幸い鞘を付けていたためアルフレッドが二つになることはなかったが、無防備に頭に受けたアルフレッドはそのまま地面に倒れ伏した。


「三秒か。話にならん」


 舌打ちして倒れたアルフレッドの頭を踏みつけ、リファインは全員を見回す。


「貴様等はこの地を開拓しに来た戦士だ。ならばこそそれ相応の規律が適用される」


 だからっ。力説するリファイン。力を込めたことで足元のアルフレッドが地面にめり込む。


「私は涙を飲んで修羅と化そう。貴様等は我が配下としてふさわしい人材になって貰う。答えははいかYesのどちらかだ。無理だと思ったら言いに来い、教育し直してやる」


 彼らは今更ながらに気付いた。

 既に逃げ場をなくしていたことに。

 リファインからは逃げられない。


 地獄の東大陸開拓記、その幕開けは、まだ始まってすらいなかった。




 大地を耕しながら、コータは隣のローアを見る。

 紫炎蜉蝣ということでコータ達メンバーはテッテを除いて全員参加の東大陸開拓。

 その第一歩として眼に見える荒野全てを畑に変えるとか言いだしたリファイン。

 当然不満が殺到したが、実力で叩き伏せ、叩き伏された者たちは強制連行され、特別実習が施された。


 そして数日。

 サー、イエッサー。しか言えなくなった覚醒組を交え、コータ達はおおよそ二千キロに及ぶ畑作成を始めていたのである。

 女性だろうと使える者は使う。

 リファインの宣言で女性冒険者も、一緒に付いて来ただけの妻子も強制で労働させられてしまった。


 ローアもコータに付いて来た付き添い組の一人だ。

 この宣言により別れたりしたカップルも出たみたいだが、結局東大陸から逃げだすことが出来ず、互いに気まずい顔を合せながら畑づくりをすることになったりしている。

 逃げようとする者だって実際に出た。

 しかし東大陸を空軍カモメの群れがぐるりと取り囲んでおり脱出は不可能。

 見付かれば即座にリファインに報告が飛んでしまう。


 空を飛ぶウミネッコやペリルカーンに見つかっても終わりだ。

 逃げるにしても隠れる場所がない。

 背を向けた時点で走りだした時点で空からすぐに見付かってしまうだろう。

 だから、東大陸開拓部隊に、自由と言う文字は既にないのであった。


「くそ、何で僕まで……」


 ハイネスはブツクサ言いながらクワを地面に打ち降ろす。

 その隣ではクルルカ、そしてメイリャが同じようにクワを振るっていた。


「はぁ、ここに行くべきだとの占い、外れだったのかなぁ。セキトリ、ごめんなさい」


 てへぺろっと一人呟くクルルカ。

 メイリャに関しては嬉々とした表情で耕し続けている。

 もはやリファインが言うなら何でもしそうな彼女は、リファインの頼みであれば何でも楽しいそうだ。


「ちくしょう、参加すんじゃなかった……」


「ま、まぁいいじゃん。これはこれでサーロカッコいいよ?」


 そしてサーロとルーシャもまた、ボランティアで参加していた。

 まさかリファインに巻き込まれてこんな状況になるとは想定外ではあったが。

 あまりにも酷い現実にサーロは溜息を吐く。自分、救国の英雄なのに……男の呟きが虚空に消えていった。

 ただ、サーロの耕す姿を見つめるルーシャはとても満足な顔をしていた。

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