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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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後日談・セルヴァティア

 コーカサスの森の奥、壊れ掛け、風化した王国があった。

 銃弾に穿たれ穴だらけの家々から、本日は祝勝会として国中をあげての大祭のため、皆が集まっていた。

 森に住む魔物達もほぼほぼ参加しており、国王アルベルトの御名の元、皆が楽しげに笑いあっていた。


「よーう、飲んでるかー」


 既に出来上がっているのはオークのプリケツを愛でる会ギルバート。近くで立食用の肉を手に取っていたスマッシュクラッシャーリーダーに声を掛ける。


「きゅー」


「おーそうか。大いに楽しめよー」


 といいつつ、近くに居たオークの尻を触るギルバート。


「ぶひぁ!?」


 バズに誘われ、オーク村から遊びに来ていたオーク推定40代のおっさんが悲鳴を上げる。


「おぅ、あんたいい尻してんなぁはっは」


 既に酒に呑まれ気を大きくしているギルバートがオークの尻をぴしゃんとたたく。


「ぶ、ぶひ……」


 俺、男なんだが……

 やや怯んだオークに、がははと笑うギルバート。

 もはやプリケツであれば男女の垣根など彼にはどうでもいいようだ。


「ぶ、ぶひぁ……」


 や、優しくしてくれ……

 照れたように告げるオーク。

 酔ったままのギルバートは前後不覚に陥りながらオークの肩を抱いて歩き出す。

 そんな光景を、スマッシュクラッシャーリーダーは白い眼をして見送るのだった。




「貴方、あーん」


「ぷひふごっ」


 バズにエンリカが野菜を口に放り込む。

 むぐむぐしているバズの顔を逆方向に向け、セレディが肉を口に突っ込む。

 妻妾同禽な状況を見せつけるリア充オークに、アルベルトはうわぁっと泣きそうな顔をしている。

 視線を別の場所に向ければクーフと隣に座って真っ赤な顔を伏せているモーネット。

 なぜか姿勢を正し、正座してクーフの隣にちょこんと座っている。

 両手に力が籠っているのがいじらしい。


 さらに別の場所。

 う○こ座りしている一団の側でバイクに二尻で乗っている辰真とれでぃーすの頭、確か女番長だっただろうか? 辰真の背中にべったりくっつく姿はどう見ても番いである。


 悔しいが、どこもかしこもカップルだらけだ。

 自分の側には? 女が一人もいない。

 一応、昔は居たのだ。狂おしいほど自分を求めるストーカーのような巨漢の女が。

 クーフ曰く、既に破壊してしまったミイラではないかとのことで、アルベルトにとっては幸いであったが、不幸でもあった。

 ここまで彼女が出来ないと、そいつでもよかったかな。受け入れてしまえばよかったかな? と後悔の念が押し寄せる。


「すいませーん、取材、良いですか国王陛下?」


「ん? あんたは?」


「ロックスメイア新聞社の者です。今各地の戦後に付いて取材してまして……」


「俺と結婚を前提に付き合うがいい。玉の輿だぞ」


「えぇぇぇぇぇっ!?」


 そして彼女は逃げるように立ち去り、クーフとモーネットの取材に向かってしまった。




 そんなセルヴァティア王国近くにそいつらはいた。

 髭もじゃのドワーフ、黒光りするほど鍛え上げられた黒き巨人、物静かながらも鍛えられた細マッチョ。

 ハードモット、モンド、マイケルの三名である。


 どうやら罪が無くなったことで自由の身となった彼らは、一応周辺でお世話になった人々への挨拶回りを行っていたらしい。

 本日もセルヴァティアに居た友人に別れを告げ、こうして森の外へと出て来たのである。


「さて、アニキ、どうします?」


「ああ。この近辺じゃ俺らの名も知れ渡っちまってる。幸いにも東大陸には増殖野郎が居なくなったことで植民が始まったらしいじゃねぇか」


「確か各国が競って領地拡大をしているとか?」


「カインのあんちゃんからせっかくなら一国おっ立てちゃどうかっつわれてな」


「え? 国を!?」


「おぅよ。楽しそうじゃねーか。男の楽園ヤロウゼキングダムなんてどうだ?」


「はは、そりゃぁ壮大な計画だ」


「当然、お伴しますぜアニキ」


「向こうでアルセ姫護衛騎士団を通して知り合えた同じ穴の狢と合流出来るらしい」


「へ? そいつぁ楽しそうだ。どんな奴で?」


「なんだったか? 確かハッスルダンディとかいうチームから派生した奴ららしいんだが……」


 詳しくは現地で会うだろ。とハードモットはがははと笑う。

 もはや彼らに枷はないのだ。

 存分にいつでも楽しめる。

 そう、作るのだ。男達の楽園を、男達だけの酒池肉林を楽しむ王国を作るのだ。


「イくぜ野郎共。新たな冒険の始まりだ」


「「おうよ!」」


 そして男達は動き出す。

 ハードモットを筆頭に、決意とヤる気に満ちた表情で、光差す東大陸へ向け、ついに歩み始めた。熱き漢たちの背中を森に見せつけ、颯爽と立ち去って行くのであった。

 彼らの旅は、まだ始まったばかりである。

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