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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1370/1818

後日談・ダリア連邦、消えた国?

 戦争が終わった。

 アルセ神の奇跡が敵を打ち破ったのだ。

 世界中が目撃した巨大な星の接近を押し返した光の柱。

 アルセの鉄槌と呼ばれることになるこの奇跡を目の当たりにし、ステファンはついにダリア連邦に巨大アルセ神殿を設立することを確約させたのである。


 この後ダリア連邦会議が行われることになる神聖なる施設。

 巨大な柱の群れが門として出向えるアルセ神殿の最奥には、円卓が設けられ、そこで会議が行われることになる。

 今後ダリア連邦議会はアルセ神像が見降ろす円卓で、これからの行く末を議論していくことになるのである。


 神の寄代となる神像に見つめられながらの会議、不正を行うおうとする者の精神をゴリゴリと削ってくれることだろう。

 着工される神殿の候補地を見つめ、ステファンは満足げに祈りを捧げるのだった。




 ダリア連邦最南の農村でデヌとGババァは自宅の畑を耕していた。

 幾度か住処を移動したが、ここは老人が多いためかGババァがいてもそこまで嫌悪する者はいない。

 むしろ若い旦那を手に入れたGババァはお婆様連中の憧れの的になっていた。

 本日も長椅子に腰かけた御高齢の方々がプルプル震えながら世間話をしている。

 妙に筋肉質なお婆さんも若干名いるが、コレはバグによるものらしい。


 デヌはそんなお婆様達を横眼に見ながらクワを片手に畑を耕す。

 毎日が充実している。

 魔族の地位向上は諦めた訳ではないが、こうして妻とゆったり日々を過ごすというのは掛替えの無い日常であるのだろう。


 そろそろ子供を作るのもありかもしれんな。

 お婆様連中に混じり談笑するGババァに視線を向けて、そんな事を思うデヌだった。




 グーレイ教国跡地に、アカネとルグス、そしてアネッタはやって来ていた。

 もはや更地と化したこの大地に、確かに彼らは存在したのである。

 グーレイ教国の信者たち、そして、にゃんだー探険隊の面々。


 ルグスは持って来た花束を大地にそっと置いた。

 墓標などない。この地全てが彼らの墓標なのだ。

 さらばにゃんだーたちよ。ルグスの胸に去来する複雑な思いに、彼はしばし瞑目する。


「にゃー?」


 なにしてるんだ? と声が聞こえた。


「ああ。ここに我が友にゃんだー探険隊が眠っておるのだ」


「にゃー?」


 寝てる隊員は居ない筈だぞ? そう告げる背後の誰かに、ルグスは小さく首を振る。


「何を言う。私はこの目で見たよ。原爆が落ち。彼らが影として焼きつく姿を……」


「にゃー?」

「にゃっにゃ」


 お前死んだか? 

 バカ言うな。お前の目の前にいるだろ。

 そんな会話を聞いて、アネッタは黙祷を止めて背後を見る。


 そこには、白い帽子にジャケット。探検家ルックの猫が十匹立っていた。

 きらきらと眼を輝かせ、猫の群れにダイブ・イン。

 にゃーにゃーと驚く彼らの頭を撫で、顎をごろごろし、警戒を解いたにゃんだー探険隊に群がられて行く。


「ちょ、ルグス、後ろ」


 気付いたアカネがルグスの肩をちょいちょいっと指摘。

 なんだまったく。と全然気づいていないルグスが振り向けば、にゃんだー探険隊と戯れる最愛の少女の図。


「激ラブリーんっ!? っは!? というか、なぜここににゃんだー探険隊!? し、死んだのではなかったのか!?」


「それは僕から説明しますよ、ルグスさん、アカネさん」


 そう告げて、地面を押し開き、隠しドアを開いて身をせり出す一人の少年。

 驚くルグスとアカネの目の前に死んだ筈のグーレイ教最高司祭ポンタ・クン・グーレイが姿を露わした。


「ポンタ!? 生きてたの!?」


「ええ。グーレイ神から事前に作られていた核シェルターなる場所に案内されまして、今まで信者たちと地下に避難していました」


 ぱらぱらと舞い落ちる砂を払いながら地下通路から完全に身体を押し出すポンタ。

 周囲を見回し教国が消え去った事実を認識しはぁっと溜息を吐く。


「国は完全消滅かぁ。でも人が居れば国はできる。これからまた再建ですね」


「何よ、あんたたち生きてるじゃないっ。ああもうっ。完全に死んだと思ったのに、ちょ、泣けて来た……」


「クク、ハハハ。ああ。素晴らしい。コレ程素晴らしい日があるものか。アネッタが居てにゃんだーたちがいる。ああ。ようやく、ようやく我が日々が恵まれた気がするぞアカネよ」


「よかったわねー。はは。ほんとよかった……」


 ポンタが出て来た地下通路から、一人、また一人と街の住民が現れる。

 グーレイ教国は誰一人欠けることなく、全員がグーレイ神の命を受け地下に籠って待っていたのである。

 帝国兵が全滅し、放射能がバグり無効化され、こうして平和が訪れるのを、じっと待っていたのだ。

 久々の外だと皆が背伸びをして自身の生還を認識し、互いに声を掛け合っている。

 その奇跡的な姿を見ながら、アカネとルグスは涙目で微笑み、喜びを噛みしめるのだった。 

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