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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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後日談・コイントス、フィグナート

 コイントスでは想定外の状況に皆が慌てふためいていた。

 それと言うのもマリナが女王の座を退くと宣言したからである。

 慌てふためく宰相以下全ての臣下に一礼し、マリナは連れて来たアンサーを玉座に押し上げる。


「ま、マリナ? これはどういう……」


「とぉ!」


 アンサーに王冠を被せ、その腕に抱きつくマリナ。

 皆、呆然とそれを見つめていた。

 簡単に言うならば、アンサーに惚れたからアンサーの彼女になります。だから私の上に立つアンサーは今日から王様ってことでよろ。ということらしい。


 マリナさんは上機嫌。

 他のメンバーは大困惑。

 当のアンサーはよく分かっておらず、何故自分に? と困った顔をしていた。

 そして、ランスロットがマリナの足に縋りつく。


「ま、待ってくれマリナ。僕は、僕はどうすればいいんだ!? 僕は君じゃなきゃダメなんだ! 君の鞭が、足が、愛がなければ僕はっ」


「とぉっ!」


 近寄んな。とばかりに愛の無いドロップキックが炸裂する。


「あぁっん」


 喰らった瞬間満面の笑みで悶絶するランスロット。

 臣下たちが物凄く羨ましそうな顔になる。


「とぉ!」


「あー、まぁよくわからんが。本当に私が王でいいのだねマリナ。君を娶れというが、君はランスロットの妻だろう。形式的に」


「とーぉーっ」


 引っ張るよりも引っ張って行かれる方がいい。とマリナはアンサーを抱きしめる。

 本当によくわからない。よくわからないがマリナを引っ張って各地に向かっていたことで乙女感情を奪ってしまったようだ。


「はぁ、わかりました。正直複雑な気分ではありますが。再びコイントスの王を名乗らせていただきましょう。マリナ、手伝ってくれるかい」


「とぉー!」


「マリアネット」


「……なんですか国王陛下?」


「君が許せないのはランスロット、でいいのか。好きにしてくれて構わんが」


「この国自体が許せないわ。でも、まぁ貴方に罪はないのでしょうね」


「それはありがたい。ならば引き続き宰相を頼む」


 アンサーの言葉にマリアネットは意外そうに眼を開く。

 

「あら? いいの?」


「君の手腕は大したものさ。君は内からこの国を変えてくれればいい。私も平和な国になるよう努力する」


「ふーん。まぁ、いいわ。そういうことなら、貴方の実力を見定めてあげる。しばらくよろしくね王様」


 油断ならない宰相と共に、アンサーは国を収める決意をする。

 ありがとうアルセ姫護衛騎士団の皆さん。貴方達に出会えた御蔭で、私は国王に返り咲けたようです。

 もともと騎士団のせいで追われたというのもあるのだが、各地で闘いを行い見聞を広めたアンサーだからこそ、素直に感謝する事が出来たのだった。




 フィグナート帝国王は肘掛けに肘をついて困った顔をしていた。

 正直、自分は国を売ろうとしていた売国奴だ。

 おそらく息子であるジーンの取った行動は最善だったと言えよう。

 しかしながら、国王を無理矢理監禁し、臨時とはいえ自分が国王となり変わった事実は消し去ることはできない。


 おそらく、国王自身が開戦を唱えていれば、こんな事後処理は必要なかった筈だ。

 王位乗っ取りの大罪人ジーン。

 両手を縛られ、後ろに回し、腕も胴に密着した状態でぐるぐる巻きにされているジーンの姿を見ると、胸が痛んだ。


 国の為に大罪を犯した英雄にして戦犯だ。

 正直どう判決したものか、答えを持てあましていた。

 直ぐ近くで娘のケトルや救国の勇者チグサが立っているのも判決にプレッシャーを掛けて来る。


「ジーン、自身が犯した大罪を理解しておるか?」


「はっ。父上を軟禁し、国王を名乗り国を乗っ取りました」


「言い訳はせんか?」


「事実でございますので」


 あまりにも誠実。あまりにも熱血漢。

 昔のジーンが相手であればフィグナート帝国王も迷いはなかった。

 殺すには惜しい。いや、むしろこやつ以外に国を任せられる者はいない。

 なればこそ、今こそ決断の時だろう。


「よかろう。ならば判決を告げる」


 粛々と受けるつもりらしいジーンはコクリと頷き視線を国王に向ける。

 何が来ても受け入れる。そんな決意を感じた。

 彼は既に、国の一柱になることを覚悟していた。


「……と言いたいところだが、その前に皆に報告がある」


「報告?」


 宰相が小首を傾げる。

 事前に何の連絡もしていなかったからだろう。当然だ。今決めたことなのだから。


「戦時を持って私は国王を退いていたことをここに宣言する。新しい我が後継者の名はジーン。ジーン・エーゲ・フィグナートである」


 どよめきが起きた。


「よってジーンの処遇は我ではなく新たなる王ジーンが決めるモノとする。ジーンよ。お前の罪を自分で決めよ」


「ち、父上?」


「正直、今思えばお前が起こしたことは最適解であった。御蔭で我が帝国はこうして戦後に存在している。罪の意識があるというのならば、その全てをこの国の和平に注ぎ込んで見せよ」


 ジーンの瞳から熱き泉が湧きあがる。


「父……上」


「今のお前にならばこの国を託せる。儂を失望させるなよ?」


「必ず……必ずや私はこの国を発展させてみせます!」


 深く、深く臣下の礼を取るジーン。

 この日、旧世代の王はその身を完全に退き、新たなる若き国王がフィグナート帝国に立つのだった。

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