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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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後日談・トルーミング、ゲーテリア、ロックスメイア

 トルーミング王国。

 それは普通の王国の筈だった。

 国内王城横に巨大な塔が建っており、白く巨大な塔であることから、よく聞くような巨塔と呼ばれ人々に親しまれている。


 ただし、一般人が入ることはできなくて、そこには居る事が出来るのは、この国の王子ととある団体のみである。

 そんな巨塔をリアッティとアンディは呆れた顔で見上げていた。


「しっかし、オーギュストの旦那は治らなかったっすね」


「まァ本人がいまさら変化され直されても困るでしょ」


 塔の上方から聞きたくない声が聞こえる気がする。

 気が滅入って来たリアッティは溜息吐いて踵を返す。


「そろそろ行きましょうか」


「そうッスね。まずはマイネフランでいいんすか?」


「ええ。ついでにどの土地に支部があるか聞くことにしましょ」


 リアッティとアンディが去っていく。

 天に突き立つ巨大な白き塔からは、本日も濡れた男の嬌声が響くかのようだった。




「ふむふむ。人間食、結構美味いわね」


「ん。満足」


 本日ゲーテリア帝国にある食堂では、可愛らしい少女と綺麗なお姉さんが物凄い量の食事を食べている光景が見られた。

 小柄な少女の側にはそこまで皿は置かれてないのだが、綺麗なお姉さんは楽しげに大量の食事を食べている。


「パイラ。どうかしらここ?」


「中の上。アニスは?」


「そうねぇ。初心者としては美味しい、かしら」


 本日パイラとブラックアニスの二人はゲーテリア食べ歩きツアーを行っていた。

 ツアーと言っても、二人がゆっくりと食事を楽しむだけのものであり、他の面子は今日はいない。


 今いるのは宿屋の一つである。

 酒場を兼ね備えたここは隠れた名店と名高い食堂だったので喜びながらやって来たパイラだったが、期待はずれもいいところであった。


 だが、美食からは遠ざかるものの、大衆食堂としては申し分ない美味さがある。

 つまり、舌の肥えたパイラからすれば問題にもならないが、アニスとしては大満足だったようだ。

 平民にとっても充分上手い料理で、貴族でも地位が低ければコレよりマズい飯を食べているのだ、ここで食事が出来る冒険者や平民にとっては美味食品を取り扱う店として申し分ないだろう。

 でも、パイラにとってはありふれた食材なので食事を終え次第店をでることに決めた。


 パイラにとっての美味しい店ならばチップの一つもだしたものだが、この程度では満足できない。

 もっと美味い物を持ってこい。そう思いながら酒場で美味しい店の場所に聞き耳立てていく。

 その間も、アニスはひたすらに食べ続けているのだった。




 ロックスメイアでは、今新聞社が話題になっていた。

 なんでも新しく出来た新聞社はアクセルタイガーが所長となっているらしく、遠くで起こった事象でもすぐさま駆け付け報道に変えてくれるそうだ。


 元所長は副所長となっているが、基本他のメンバーは変わらず新聞作成を行っている。

 ツバメの命令により街中を駆け巡る魔物達と連携しての新聞作成は今までよりも濃い内容で、かなりの新聞ファンを作りだした。


 そんな新聞紙一つを広げ、ツバメははふぅっと息を吐く。

 彼女は今自分の屋敷にある裏庭で近くにお茶の入ったお盆を一つ、正座で縁側に座っていた。

 空を見上げれば茜色の空に青海が混じっている。

 空を飛ぶのはカラスだろうか? いや、黒い兎だ。

 

 所々がバグってしまった世界。それはきっと二度と戻ることは無いだろう。

 しかし、この世界にとってはむしろ良かったとすら思える。

 神が本当に存在し、世界の危機に世界を破壊してでも対抗した証明となったのだから。


 そのまま世界が戻っていないということは、このままの状態で生活してくれということだろう。

 そのせいか新聞の内容は事欠かない。

 どこそこで誰かが突然死したとか。気付いたら見知らぬ街に居たとか。

 転移させられた絶死ダンジョンから奇跡の生還をした子供の話など英雄譚も生まれている。


 内容も濃い新聞紙を読みながら、ツバメはふふと笑みを零す。

 戦争は大変だった。でもこの平和がその先に待っていたのだから、生き残った者たちにとっては良い経験だったのかもしれない。

 御蔭で他国からの侵略もなくなり、世界全てで平和への動きが徐々に高まっている。


 マイネフランから先日、全世界会議なるモノを開かないかと提案が来たので乗っておいた。

 おそらく開催国はマイネフランとなるだろう。

 今回は、正真正銘世界平和の為の国家会議になるだろう。

 何しろ新日本帝国を滅ぼした英雄王がいるのだ。わざわざ彼が存命の時に戦争を行おうとする国が出る訳もない。


「今日も、平和ですねぇ」


 新聞を折りたたみお茶を手に取る。

 熱めのお茶にしたのだが、どうやらバグっていたお茶はむちゃくちゃに甘かった。

 ツバメは噴き出し一人むせる。

 ロックスメイアは本日も平和であった。

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