後日談・オリーの森
「いやー。ようやく元の生活に戻れるな」
門番であるケヴィンは青空広がる空を見てふはぁっと息を吐いた。
眼に見えている場所は青空だが、少し横に視線をずらせば夕焼け空が混在している。
未だに世界はバグっており、無数のバグがそこいら中に生まれては消えている。
「しっかし、良かったのかプリカ?」
同じく門番をしている隣のエルフに語りかける。
そこには、プリカ・ドゥ・にゃるぱが立っていた。
本日はケヴィンとプリカが門番役なのである。
プリカが村に戻り前門衛兵業を行い始めたことでルイッグが暇になり、本日はドリアデスに連れられてどこかへ遊びに行ったまま戻ってきていない。
そのルイッグについてはどうでもいいので放置して、プリカはケヴィンに視線を向け、うん。と苦笑いで肯定する。
「まぁ、ね。おじいちゃんが頑張ってるの見てたら、肉親が危険なことしてるのって凄くはらはらするんだよ。私が外に出てる間、お爺ちゃん達もそんな思いだったのかなって思ったら、ちょっと外に出づらいというか、ね」
「ほんとお前お爺ちゃんっ娘だよな。そんなに好きなら結婚しちまえよ」
「えー。ダメダメ。おばあちゃんがいるもん。あ、そう言えば最近おばあちゃん帰って来たんだよ」
「……へ?」
ケヴィンは一瞬どういうことか理解できずに間抜けた声を出す。
何しろプリカの祖母は既に死んでいた筈だ。
確かどこだったかのダンジョンアタックの時に不意を打って死亡してしまい、ランツェルが冒険者業から足を洗う切っ掛けになっていたはずである。
その祖母が、帰って、否、還って来た?
一瞬、スプラッターゾンビがケヴィンの脳裏を掠めた。
「なんかね、お爺ちゃんの死んだ仲間たちが蘇ってるんだって、最近家賑やかだったでしょ?」
一瞬、スプラッターゾンビが家に犇めく映像がケヴィンの脳裏を掠めた。
そして徘徊するゾンビたちと抱き合い噛みつかれるランツェルの姿。
ゾンビ化したランツェルはプリカに噛みつき、そして村へ……
エルフ村ゾンビパニックで滅びる。
がくぶると震え始めたケヴィン。その後ろの前門から若い女性が出てくる。
一瞬びくっと焦ったが透き通るような綺麗な姿にケヴィンは思わず魅入る。
こんな綺麗な人、村にいたっけか
「あ、ストーリアさんおはです」
「ええ。ちょっと森で採取してくるわ」
「はーい。気を付けて」
すぅっとストーリアと呼ばれた透き通った人が去っていく。
ばいばーいと見送るプリカの襟首を掴み引き寄せ、驚く彼女に詰め寄る。
「い、今の! 今の綺麗な人誰!?」
「け、ケヴィン?」
「紹介してください、マジで! プリカ様!!」
土下座を披露するケヴィン。眼がマジだ。
「え? でも、彼女既に死んでるよ?」
「……へ?」
意味不明な言葉に顔を上げる。
「さっき言ったお爺ちゃんの知り合いのクレリック、だっけ? 確か冒険中に食べた毒キノコが原因でばたんきゅ~したんだって」
「じゃ、じゃあ……幽、霊?」
「実体はあるから幽霊族とか? バグった世界のせいで死者も普通に生活してるからなぁ。どう告げるのがいいのかな?」
「神は、死んだっ」
ケヴィンの心の叫びが轟いた。
「ねぇーロッテアぁ。そろそろ許してぇ」
「だぁーめーでーっす」
ロッテアが管理する妖精郷で、今、一人の妖精が罰を受けていた。
と言っても両手に水が一杯入ったバケツを二つ持たされているだけで、後は気を付け姿勢で立ちっぱなしなだけではあるのだが。
これは罰である。ロッテアの管理する妖精郷の権限を一時的とはいえ奪い取った重罰だ。
なので尻叩き百回を行った後こうして妖精郷の中心で両手にバケツ持って立たされているのである。
彼女アニアはプルプル震える両手で頑張って罪に耐えながら、必死にロッテアに許しを請うていた。
「幾ら非常時だったからといっても皆の命を危険に晒した事実は消せません」
ふんすっと両手を組んで空中に仁王立ちするロッテア。
今のアニアと比べると大人と人形位の差があるのでどう見てもアニアの方が強そうなのだが、アニアが下剋上する様子は無く。粛々と罰を受け入れていた。
「うぅ、プリカに付いて来たばっかりに、辛いよぉ。きっとこの後小指から一つづつ潰されて手首二の腕肘肩って順にボキンボキンって折って行くんだわ。ああ可哀想な私。ロッテアの人非人っ」
「そ、そんなことしないわよっ!?」
アニアの妄想に慌てるロッテア。発想が怖すぎてビビッたようだが周囲の妖精はロッテアならやりかねないと引いた様子で彼女を見つめていた。
「違うっ、違うからっ!? そんなひどいことしないからっ」
「ああ、そんな。私が憎いからってオークの巣に放り込んで嫌がる私を無理矢理苗床にしてしまうのね。四肢を折られて抵抗も出来ずああ。なんて非道なのっ」
「やめてっ!? 許すっ。許すから私を酷い人にしないでぇぇぇっ!?」
アニアが妄想を始め、垂れ流された妄想の酷さに、ロッテアは慌ててアニアへの罰を解除するのだった。




