表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1362/1818

その旋律を紡ぐ者を彼女達しか知らない アルセだゾ(>_<)ノシ

 丘の上のグランドピアノ。

 そこへゆっくりと進み寄る。

 まるでそこに彼が居るかのように、辿り着いたリエラはピアノに縋りつく。


「リエラ……来たのね」


 気付けば、いつの間にか周囲に仲間が集まっていた。

 涙で滲む世界に、パルティが、ルクルが、アカネが見える。

 きっとピアノに向かうリエラに気付いて集まって来たのだろう。


「私達に挨拶もなく、逝っちゃったみたい……酷いよね」


 儚く笑みを浮かべるパルティ。無理して笑おうとして、涙が溢れる。

 少しずつ、各地から仲間たちがやってくる。

 まるでここが集合の地だというように、アルセ姫護衛騎士団のメンバーがやってくる。


「リエラ?」


 皆が集まってくる。

 アルセの元へ、あの人の元へ。

 だったら、だったら自分は何をすべきか。

 今までの思い出を掘り返したら、一つしかなかった。


 皆が集まる時、そこにはいつも、宴があった。

 楽しい宴の一時。勝利の美酒に世界の平和に酔う時だ。

 自分はリーダーなのだから、率先して楽しさを伝えなければ。


 涙を拭いて、彼が残してくれたピアノの椅子へと座る。

 自分は聖女だ。音楽の聖女。皆を元気づける曲を紡いで、皆が気落ちしないようにしなければならない。

 あの人が居ないからと、嘆き悲しむ訳にはいかない。


 あの人たちが守り通したのだから、そのことを賛辞しなければならないのだ。

 だから、曲を……

 グランドピアノを弾く。

 弾き方は彼に習った。

 少しだけだけど、拙い弾き方だけど、音楽の聖女なんて呼ばれる巧さは一つもないけれど。


 曲名は、やっぱりソレだった。

 翼をください。

 拙い指捌きでゆっくりと弾く。

 弾く。弾く。……弾きた、かった。


 動かない。

 思い描いた曲にならない。

 涙で目の前が見えなくなって、手元もおぼつかなくて。


「リエラ……もう、いいわよ。無理しないで」


「弾けないよ……パルティ。私一人じゃ弾けないの……」


 手は止まり、涙が止まらない。

 自分は聖女じゃない。聖女なんかじゃないのだ。

 あの人がいなければ、ピアノも弾けない情けない女だ。


「やだ……やだよぉ。なんでいないの透明人間さん……っ」


 寄り添うパルティと抱きしめ合い。リエラは泣いた。

 その場の誰も、何も言えない。

 勝利はしたのだ。女神の勇者を撃退はできたのだ。

 けれど、失ったモノが、彼らにはあまりにも大き過ぎた……


 どれだけの時間、泣き合っただろうか?

 不意に聞こえた旋律に、二人は声を無くして顔を上げる。

 聞き覚えのある旋律。

 それはアルセの樹から聞こえてくる。

 ざわめくように揺れる木の葉が振動するように、リエラが弾きたかった旋律が世界へと広がっていく。


「アル……セ?」


 空を見上げれば、まるで世界が祝福するように、青空が広がる。

 旋律が流れる程に、風がそよぎ草木が揺れる。

 ハーモニーを奏でるように皆が同じ方向に揺れ動く草木。

 周囲の魔物が立ち止まり、己の出せる音量で歌い出す。


 世界中でアルセイデスたちが同じ歌を歌い出す。

 世界中のバグがアルセの樹を中心に消えていく。

 正常へと戻っていく世界に、リエラ達はしばし呆然と空を見つめていた。


 旋律が世界へと響いて行く。

 アルセの思いを告げるように。

 アルセの願いを叶えるように。


 翼をくださいと、世界を越えて、あの人の元へ辿り着く力をくださいと、叶わぬ願いを歌う少女の願いが世界を駆け巡る。

 バグ達が思いに答えるように世界を正常に戻して行く。

 いくらか居残るバグもあったが、軒並み世界は元の姿を取り戻し始めた。


 闘いの終わりを告げる旋律が、哀しき少女の願いの歌が、世界を包み込む。

 気付けば、リエラの視界を滲ませていた涙は止まり、丘の上に集う仲間たちが見えた。

 カインの側にネッテが寄り添い、二人の赤ん坊を抱き上げたルルリカとセインがいる。


 五体の熊、ハーピーの群れ、エルフとオークの夫妻、古代人たち。

 ツッパリ、レディース、スマッシュクラッシャー、ヒャッハー、孤児部隊、ネズミたちにレーニャにペンネ、オッカケ達に空軍鳥部隊。

 アニスにアニア、プリカとお爺さん、そしてその仲間たち。

 パイラに吾輩はサルである、イエイエ康、葛餅と付いて来た学生たち、アメリス、にっくん、にっちゃん、ミルクティ。

 マリナ、バルス、ユイア、アンサー、ケトル、チグサ、ジャッポン同盟軍。

 デヌ、Gババァ、ステファン。

 アカネ、ルグス、アネッタ、セキトリ、クルルカ。

 リファイン、メイリャ、テッテ、コータ、ハイネス、ローア。

 ネフティア、アキオ、ハロイア、ロリコーン至高帝。

 のじゃ姫、ワンバーカイザー、ギリアム、ジョナサン、アフロ好きガニ、ニンニン、セネカ。

 リフィ、ヲルディーナ、ファラム。

 影兵たちにルクル、パルティ。


 来ていない者もいるが、そこには沢山の仲間たちが集まっていた。

 皆、アルセとの冒険で出会い、リエラの元へ集った仲間たちだ。

 こんなに沢山の出会いがあったのだ。

 今更ながらに自分の旅路を突き付けられた気がして、リエラは嬉しさに涙を流すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ