その旋律を紡ぐ者を彼女達しか知らない アルセだゾ(>_<)ノシ
丘の上のグランドピアノ。
そこへゆっくりと進み寄る。
まるでそこに彼が居るかのように、辿り着いたリエラはピアノに縋りつく。
「リエラ……来たのね」
気付けば、いつの間にか周囲に仲間が集まっていた。
涙で滲む世界に、パルティが、ルクルが、アカネが見える。
きっとピアノに向かうリエラに気付いて集まって来たのだろう。
「私達に挨拶もなく、逝っちゃったみたい……酷いよね」
儚く笑みを浮かべるパルティ。無理して笑おうとして、涙が溢れる。
少しずつ、各地から仲間たちがやってくる。
まるでここが集合の地だというように、アルセ姫護衛騎士団のメンバーがやってくる。
「リエラ?」
皆が集まってくる。
アルセの元へ、あの人の元へ。
だったら、だったら自分は何をすべきか。
今までの思い出を掘り返したら、一つしかなかった。
皆が集まる時、そこにはいつも、宴があった。
楽しい宴の一時。勝利の美酒に世界の平和に酔う時だ。
自分はリーダーなのだから、率先して楽しさを伝えなければ。
涙を拭いて、彼が残してくれたピアノの椅子へと座る。
自分は聖女だ。音楽の聖女。皆を元気づける曲を紡いで、皆が気落ちしないようにしなければならない。
あの人が居ないからと、嘆き悲しむ訳にはいかない。
あの人たちが守り通したのだから、そのことを賛辞しなければならないのだ。
だから、曲を……
グランドピアノを弾く。
弾き方は彼に習った。
少しだけだけど、拙い弾き方だけど、音楽の聖女なんて呼ばれる巧さは一つもないけれど。
曲名は、やっぱりソレだった。
翼をください。
拙い指捌きでゆっくりと弾く。
弾く。弾く。……弾きた、かった。
動かない。
思い描いた曲にならない。
涙で目の前が見えなくなって、手元もおぼつかなくて。
「リエラ……もう、いいわよ。無理しないで」
「弾けないよ……パルティ。私一人じゃ弾けないの……」
手は止まり、涙が止まらない。
自分は聖女じゃない。聖女なんかじゃないのだ。
あの人がいなければ、ピアノも弾けない情けない女だ。
「やだ……やだよぉ。なんでいないの透明人間さん……っ」
寄り添うパルティと抱きしめ合い。リエラは泣いた。
その場の誰も、何も言えない。
勝利はしたのだ。女神の勇者を撃退はできたのだ。
けれど、失ったモノが、彼らにはあまりにも大き過ぎた……
どれだけの時間、泣き合っただろうか?
不意に聞こえた旋律に、二人は声を無くして顔を上げる。
聞き覚えのある旋律。
それはアルセの樹から聞こえてくる。
ざわめくように揺れる木の葉が振動するように、リエラが弾きたかった旋律が世界へと広がっていく。
「アル……セ?」
空を見上げれば、まるで世界が祝福するように、青空が広がる。
旋律が流れる程に、風がそよぎ草木が揺れる。
ハーモニーを奏でるように皆が同じ方向に揺れ動く草木。
周囲の魔物が立ち止まり、己の出せる音量で歌い出す。
世界中でアルセイデスたちが同じ歌を歌い出す。
世界中のバグがアルセの樹を中心に消えていく。
正常へと戻っていく世界に、リエラ達はしばし呆然と空を見つめていた。
旋律が世界へと響いて行く。
アルセの思いを告げるように。
アルセの願いを叶えるように。
翼をくださいと、世界を越えて、あの人の元へ辿り着く力をくださいと、叶わぬ願いを歌う少女の願いが世界を駆け巡る。
バグ達が思いに答えるように世界を正常に戻して行く。
いくらか居残るバグもあったが、軒並み世界は元の姿を取り戻し始めた。
闘いの終わりを告げる旋律が、哀しき少女の願いの歌が、世界を包み込む。
気付けば、リエラの視界を滲ませていた涙は止まり、丘の上に集う仲間たちが見えた。
カインの側にネッテが寄り添い、二人の赤ん坊を抱き上げたルルリカとセインがいる。
五体の熊、ハーピーの群れ、エルフとオークの夫妻、古代人たち。
ツッパリ、レディース、スマッシュクラッシャー、ヒャッハー、孤児部隊、ネズミたちにレーニャにペンネ、オッカケ達に空軍鳥部隊。
アニスにアニア、プリカとお爺さん、そしてその仲間たち。
パイラに吾輩はサルである、イエイエ康、葛餅と付いて来た学生たち、アメリス、にっくん、にっちゃん、ミルクティ。
マリナ、バルス、ユイア、アンサー、ケトル、チグサ、ジャッポン同盟軍。
デヌ、Gババァ、ステファン。
アカネ、ルグス、アネッタ、セキトリ、クルルカ。
リファイン、メイリャ、テッテ、コータ、ハイネス、ローア。
ネフティア、アキオ、ハロイア、ロリコーン至高帝。
のじゃ姫、ワンバーカイザー、ギリアム、ジョナサン、アフロ好きガニ、ニンニン、セネカ。
リフィ、ヲルディーナ、ファラム。
影兵たちにルクル、パルティ。
来ていない者もいるが、そこには沢山の仲間たちが集まっていた。
皆、アルセとの冒険で出会い、リエラの元へ集った仲間たちだ。
こんなに沢山の出会いがあったのだ。
今更ながらに自分の旅路を突き付けられた気がして、リエラは嬉しさに涙を流すのだった。




