その神に出会ったことを誰もアルセらない
「カインさん、私が操作します」
「あ? バカ言ってんじゃねーよ」
外に出て操作パネルを開いたリエラ。
カインも外に出て来てリエラの頭に拳骨を落とす。
「あいたっ」
「このパネルの操作わからねェーんだろ。お前が降りな」
「だ、ダメです、私が……カインさんは国王でしょう!?」
「バーカ。あいつに会いたいんだろ。もう、最後かもしれねぇんだ。俺に気にせず会いに行って来い」
「カインさんだって、ネッテさんが……」
「どうせどっちが降りたって別の誰かに告げて迎えを寄こすだろ。つか影兵が動かしてくれるだろうから時間の問題って奴だ。俺はいつでも帰ってネッテに会える。だがお前は時間の勝負だ。違うかリエラ?」
「……カインさん」
「行って来な。後悔する前に」
「わ、分かりましたカインさ……あっ」
気付いたリエラ。カインの後にそいつが居た。
「ん? どうしたリエラ?」
リエラが驚いていることに気付いてカインもそちらを見る。
銀色の生物がそこに居た。
アーモンド形の目にのっぺりとした銀色スーツを着込んだような生物。
神、グーレイである。
「ぎゃああバケモノッ!?」
「誰がバケモノですか」
「あ、はは。グーレイ神様どうしました?」
「ああ、うん。女神の勇者の脅威が消えたのでね。報告を伝えに降りて来たんだ」
報告、と聞いて嫌な予感を覚えるリエラ。
カインも察したようで敵意を向ける。
「おい、まさか……」
「透明人間君はもう居ない。今会いに行っても君たちがこの世界で出会うことは二度とない」
「あ……そ、それって、透明人間さんは……」
「うん。私が駆除した。この世界に彼はもう……いない」
「て、めぇッ!」
相手が神であることなど気にもせず、カインは胸倉を掴もうとする。残念ながらグーレイの胸倉は掴む場所がなかった。
「警告は既に与えていた。それを破ったのは彼だ。どういう理由であろうとも、結果世界がバグってしまった。もう、この世界は何が起きても不思議じゃないんだ。次の瞬間には稼働を止めてしまうかもしれない」
「そうはなっていませんし、あの人の力です。なる訳がありません。分かるでしょう神様なら! あの人の思いが、私達仲間に酷いバグが与えられてないのが証拠ですッ」
「だが世界中がバグっている。悪人たちは重症なバグだ。いつまたモザイク人のようなバグが生まれるかも分からない。危険な世界になったんだよこの世界は。今までの法則は全て通用しない。雑魚だった魔物が魔王を瞬殺できる実力になってることもあるし、弱点だったものが無効化されてることもある。全ての攻撃を無効化出来る魔物なんて現れて見ろ、世界はそこで終わりだ」
「それは……」
「もう、この世界は終わったのさ。幸い、新しい神にとっては思い出の世界だから、私は彼女に譲り渡してこの世界を手放すことにした。神に見捨てられた世界だ」
「でも、アルセが見捨ててないんでしょう。なら……バグさんがここに居たって、よかったじゃないですか……」
弱々しく告げるリエラに、グーレイはゆっくりと首を振る。
「所詮時間の問題だったのさ。彼は自身を形作るバグ全てを使い切った。残ったのは彼の魂だけだ。そんな状態でこの世界に居続けるのは不可能だ。だから、この世界から駆除させて貰った」
「そん、な……」
力無く崩れ落ちる。
リエラにとっては絶望でしかなかった。
「とにかく、伝えたいことはそれだけさ。さぁ、操作は私がしよう。カイン君、リエラさんを連れて昇降機に乗ると良い」
「あ、ああ……」
まだ信じ切れないカインは、グーレイに言われるままにリエラを抱えあげて昇降機内へと連れ込む。
はっと気付いたリエラが行動に移るより早く、グーレイが昇降機を操作する。
「なぁ、神様よ、あんたはもう、降臨しないのか?」
「そのつもりだよ。何かしらの用事が出来れば来るかもですが、先ず来ないだろうね」
「そう、か。じゃあ今伝えとく」
「待って、待ってくださいっ、私は……っ」
暴れ出したリエラの口を手で塞ぎ、カインはグーレイを見る。
「今までこの世界を見守ってくれて、ありがとよ」
「……っ。ふふ、そんなお礼を言われたのは初めてだね」
スイッチが押され、昇降機が動き出す。徐々に真上へと消えていくグーレイにカインはジィっと視線を合わせる。
「あんたが透明人間をすぐに駆除しないでいてくれたから、俺たちはここまでこれた。だから、ありがとう、あいつに会わせてくれて。俺たちの冒険を見守ってくれて」
グーレイの姿が見えなくなる。
いつの間にかリエラももがくのを止めていた。
神が世界から居なくなるそのことを、たった二人だけが知っていた。
そしてカインもリエラも、このことを誰かに告げる気は、全く無かった。
だから、神が居なくなった日を、二人以外、誰も知ることは無かった。




