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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1359/1818

その勇者たちの最後をアルセ神は知らない

 言葉は無かった。

 ただ、呆然と、増殖の勇者は遠ざかっていく巨大隕石を見送っていた。

 数万光年と離れている筈の太陽向けて、一直線に吹き飛んで行く。


 それは光すらも越えていた。

 全身全霊、アカネの一撃だ。

 それでも数分の時間があった。

 数分の時間で達した。


 星すら溶かす超高温の太陽に、隕石が取り込まれ溶け消える。

 そこで終わりだ。

 隕石が再びこちらに近づいてくる様子はない。

 完全に消え去った。


「ば、ばかな……」


「ありえませんか? 私には予想出来てましたよ」


 増殖の勇者がそんなはずあるものか、とリエラに視線を向ける。


「予想できた、だと? ふざけんなッ! 俺が負けると、どうして分かる!」


「だって、この世界にはあの人がいたから。貴方は闘う前から負けていた。負けるためにこの世界に来た。だから貴方が負けるのは分かり切っていたことだったの」


「なん、だ? 何だそれはッ!」


「ハッ、認めろよ増殖の勇者。テメーはアイツを本気にさせた。初めから勝てる筈の無い闘いを始めてたんだよッ」


 意味が分からない。増殖の勇者はふざけるな。と床を叩く。

 もはや全て詰んだ。

 増殖能力も他の勇者の助けも期待できない。隕石でリセットすることも無理。もはや八方塞りだ。


「さて。んじゃ、トドメを刺させて貰う」


 リエラに剣を突きつけられ、真上にカインが剣を振り上げる。

 終わる。

 このままでは本当に終わってしまう。

 何か、何か質問、そうだ。とにかく二人の隙を突いて逃げなければ。


「な、なぜなんだ!? 俺は、なぜ負けた。お前らの言う彼ってのは誰だ? 神か? 英雄か? 俺を倒せるような、こんな世界規模の変化を起こせる奴は、一体誰なんだっ!!」


 必死に話を続ける。その分だけ寿命が延びるとでもいうように。


「俺の部隊は最強だった。俺のチートはお前らを越えていた。世界も神も、俺は制したはずだった。俺は……何を敵にした? 何に、負けたんだ?」


 リエラもカインもその質問に、きょとんとした顔で互いを見合う。

 クスリ、どちらからともなく笑みを零し、小さな子に言い聞かせるように優しく告げた。


「バグだ」

「バグです」


 二人同時に、教えてやる。

 その彼が扱う能力を。

 その彼が使ったスキルを。

 むしろその者こそがソレであったことを。


「バ……グ?」


「お前が敵に回したのはアルセを側でずっと見守ってたバグさ。あんたがどれ程のチートを手に入れようが、相手はそのシステムを破壊するバグだ。そんなもんにまともに敵対して勝てるわけねーだろ」


 バグを相手にチートで対応したところでバグるだけ。バグを制するのはいつだって外側からのバグ除去システムだけである。バグを除去する力が無ければ、相対した時点で自分もバグるだけなのだから。だから、相対するだけ無駄な存在だ。そんなモノに喧嘩を売ってしまったら、バグるだけに決まっている。増殖の勇者は、戦う前から負けていたのだ。


「バグ……はは。バグ? 俺が、チートを手に入れ神すら黙らせた俺が、バグに喧嘩売ってバグって負けた? あは、あはははははははっ」


 狂ったように笑いだした増殖の勇者は涙を流しながら項垂れる。

 女神より強い神が相手であるのなら、諦めも付いただろう。

 この世界の勇者が相手なら、自分は魔王でしかなかったと思えただろう。

 あるいはこの世界の住民であれば、抵抗勢力に負けたのだと納得もできる。


 だが、相手をしていたのは、バグ。

 バグってしまった存在に幾ら攻撃を仕掛けたところで無意味だ。

 相手の存在自体がバグっているのだから、ダメージを受けてるかどうかすらわからない。

 自分の始めたゲームは最初からバグっていたのだ。クリア出来る訳がなかった。

 それに気付いた彼にはもう、反撃する気力も、逃げる気力もなくなっていた。


「次の生があるならよ、慎ましく生きるんだな」


 見上げた瞳に銀光が煌めく。

 カインの一撃が増殖の勇者を切り裂いた。

 女神の勇者、最後の一人がここに潰える。


 本体の消失と共に世界に散らばっていたコピー体達が一斉に消えていく。

 バグっていた存在も、その全てが等しく無に帰る。

 しばし、剣を振り下ろしたままカインは死体を眺める。


 消える気配はない。

 こいつこそが本当に増殖の勇者本体だったようだ。

 消えないことを確認し、カインは剣をしまった。

 リエラも同じく剣をしまい、ふっと笑みを浮かべる。


「帰りましょうか、カインさん」


「ああ。戻ろうか、皆の元へ、アルセたちの居る場所へ」


 二人は揃って昇降機の元へと向かう。

 そしてふと、気付いた。

 気付いてしまった。

 その昇降機が、外側からしか操作できないという事実に。

 二人揃って昇降機に入り、いつまで経っても動かないことに疑問を浮かべ、そして気付いてしまったのだ。

 どちらか一人がこの場に残らなければならないという事実に。

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