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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1355/1818

その昇降機がアルセなことをア彼ル女セたちは知りたくなかった

「この先です!」


「敵が殆ど居ないのは助かるな。その先にも居ないみたいだ」


「居ない? 矢印はこの先なのですが……」


 誰もいない? と不安げな瞳を揺らすリエラ。

 増殖の勇者が居る筈なのだが敵性存在はこの先に居ないらしい。

 影兵の索敵スキルなのだ正確に周囲を調べているだろう。


 不安に思いながら部屋へと入る。

 中央に魔法陣の入った筒が一つ。

 人が数人入れる位の筒が遥か上へと伸びている。


「この部屋は、行き止まりですね」


「この筒は、エレベー……昇降機か」


「エレベーター? もしかしてグーレイ教にあった奴と同じ物ですか?」


「え? あ、ああうん。多分それだ」


 一瞬慌てたケンジに小首を傾げるリエラ。

 そんなリエラをその場に待たせ、昇降機を調べ始めたケンジは、その作りに「あー」と残念そうに呻く。


「どうしました?」


「ああ、一応使えるっちゃ使えるんだがな、操作できんのが外側からだけだ。つまり、一人は外に残らなきゃならねぇ」


「それは……」


 つまり、リエラかケンジ、上へ向えるのは一人だけ。


「一応影兵っつー訳だし、本当は俺が率先して行くべきなんだろうが……矢印も持ってねぇ俺が行ってもこの先行きつけるかわからねぇ」


「すいません影兵さん」


「いや、こちらこそスマン。折角護衛に来たっつーのに最後は嬢ちゃん任せになりそうだ」


「大丈夫です。私、必ず増殖の勇者を止めてきます!」


 右手を胸の前で握り、決意を述べるリエラ。

 ケンジもそのつもりだったようで、右手を差し出す。


「行って来な嬢ちゃん」


「はいっ」


 ケンジとハイタッチ。

 思いを託され、リエラは一人、昇降機へと入る。


「この先は最終戦だ。援軍も見込めねぇ。勝利したから帰って来れるって確信もねぇ。それでも、いいな?」


「覚悟はもう、出来てます」


 なら、行って来い。

 スイッチを押し込もうとしたケンジが咄嗟に振り返る。

 彼らしか居なかった部屋に、予想外の闖入者。


「俺も行くぞ影兵。リエラだけじゃねぇ」


「か、カインさん!?」


「国王陛下!? ちょ、なんでこっちに!?」


「増殖の勇者の元行くっつったからな。マジで行かなきゃこの世界の勇者として舐められたままじゃ終われないだろ」


 そう告げて、カインが昇降機へと入り込む。

 しっかりとケンジとハイタッチを交わし、彼の思いを汲み取った。

 お前の分まで俺がやると、カインは力強い目で頷く。


「カインさん……」


「本来ならネッテも連れて来たかったんだ。俺とお前とネッテ。アルセと初めて出会ったメンバーだ」


「あ……っ」


「決着は、俺達で。そういうのもいいだろ?」


「カインさん……はいっ」


 にかっと微笑むカインに嬉しさで涙が込み上げるリエラ。

 そうだ、自分にはこんなに心強い仲間が居てくれるのだ。

 一人じゃ無い。一人だけじゃ、なかった。

 皆、必死に闘っている。そんな彼らが向かえなかった思いがここにある。


「行きましょうカインさん。私達で、女神の勇者を倒しましょう」


 リエラも笑みを返し、ケンジが昇降機を起動させる。

 動き出す昇降機。

 カインとリエラを乗せた昇降機が魔法陣に記された浮上魔法を発動させ徐々に加速する。


「え? ちょ、長い!?」


「おいおい、なんか凄い勢いで上がって……今のは雲か?」


「ど、どこまで上がるんでしょうか?」


 透明な筒の中を二人が上がって行く。

 透き通った筒からは外が見え、バグった世界が徐々に下へと小さくなって行く。

 地を越え空を越え成層圏を突破する。

 黒く塗りつぶされた世界へと到達し、さらに先へ。

 彼らが居た世界が球状の綺麗な星へと変わる。


 ゴゥン……


 無機質な音と共に昇降機が止まる。

 透明なその場所は、宇宙空間が間近に見える宇宙ステーション。

 本来この世界にはあり得る筈の無い場所だった。


「そんな……私達が居たのは、この球体? じゃああの遠くに見える光は……全部私達のいた世界みたいな……」


「そいつは星さ。君等の居る星。遠くに見えるのは君たちが夜に見ている空から瞬いている無数の星々。こうして見るとさ、自分たちの存在のちっぽけさ、よく理解できないか?」


 不意に声が聞こえてリエラとカインが警戒態勢を取る。

 昇降機から出て真っ直ぐの場所に、そいつはいた。


「ようこそ、女神の勇者増殖の城、宇宙ステーションへ」


「宇宙……ステーション?」


「テメェがラスボスか」


「はは。ラスボスは語弊があるな。俺こそが勇者だ。女神に選ばれた増殖の勇者。君たちの世界を破壊し、全てを侵略し、この世界に唯一の俺の国を作り上げるために呼ばれた勇者さ!」


 両手を広げ、自分の偉大さをアピールするような男に、カインもリエラも無言で剣を構える。


「しかし、どうやってここに来た? この地にこの世界の住民が来れる訳がないんだがな。異世界人が加担したか? 昇降機の操作など出来る程の技術があるとは思えなかったんだが」


「ゴタクはいい。遺言を決めろ」


「貴方の野望はここまでです。理想と共に切り捨てさせて貰います」


「やれやれ、やはり原住民は野蛮極まりないな。話し合いもなしか。まぁいい。我が力を存分に味わい死ぬがいい」


 増殖の勇者もまた闘いに意識をシフトする。

 最後の決戦の火蓋が今、斬って落とされた。

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