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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1352/1818

そのアルセがアルカセネとアネッタ化することをアルひたちは知らない

 リエラたちが地下へと向かった。

 それを見届けたアカネはニタリと笑みを浮かべて黒い日傘を差す。

 久々にゴシックロリータファッションでの魔法だ。

 思わず緩む顔を真剣っぽく装うのが面倒臭い。


「ふふ、最高の気分だわ。バグ、最後の最後で良い置き土産よ」


 だから。最高の魔法で見送ってあげる。

 にぃと笑みを浮かべたアカネの背後に無数の魔法が作られる。

 今までのような連弾用の小さな球体などではない。


 一つ一つが大魔法。

 大軍を一瞬で壊滅させる大魔法が群れを成して犇めきあう。

 もはや勝敗は決しているのだ。魔力を温存する意味もない。

 派手にぶちかまして帝国軍を粉微塵にしてしまおう。それが、せめてもの手向けになると信じて。


さぁ、地獄のカラップス蓋は開かれたプレリュード!!」


 火炎の渦が降り注ぎ、津波がそこへ押し寄せる。

 炎と水が混ざり水蒸気爆発が巻き起こり、そこへ暴風が吹き荒れモロ共に消し飛ばす。

 大地が溶ろけ帝国兵を飲み込んでいく。

 あるいは雷撃が地を走り兵士達を穿ち、闇が蔓延り光が全てを覆い尽くす。


 一撃一撃が数百の兵士を消し飛ばす大魔法。

 それが数十数百と降り注ぐ。

 固定砲台と化したアカネはその光景が楽しくて、知らず笑いが漏れていた。


「このッ」


 パシュン。

 気の抜けた音が一発。

 気付いた時にはアカネの額に向けて放たれた銃弾が、彼女の眉間を打ち抜いた後だった。


 あまりの衝撃に仰け反るアカネ。

 が、倒れない、エビ反になりながらも腹筋のみで身体を戻す。

 その額にくっつくように銃弾がひしゃげていた。


「ルグス、今のどこから来た?」


「奴のようだな」


 すぐ隣で魔法連弾を放っていたルグスが視線を向ける。

 そこに居たのは一人の女だった。

 知識創造の勇者。逃げようとした彼女だったがアカネとルグスが大暴れしていたため、巻き込まれを恐れて逃げるに逃げれず隙を見て殺すことにしたらしい。


 しかし、狙いを付けて撃ったまではよかったが、アカネの特殊能力物理吸収が存在したことを知りはしなかった。

 無傷のアカネに驚き、その場にぺたんと座り込んでいる。

 当然、アカネとしては反撃に出るに決まっていた。


「やってくれんじゃない。死ぬ覚悟は良いかしら?」


「待てアカネよ」


「何よルグス?」


「丁度良い具合に女だ。アレを試す」


 そう、そのスキルを手に入れてから試してみたくて堪らなかった。


「おお、アネッタ。アネッタぁぁぁぁっ!!」


 そのスキルの名はアネッタの渇望。

 ルグスがあまりにもアネッタを渇望したが為にバグってしまったスキルである。

 そのスキルはアルセ姫護衛騎士団には効かないが、他の女性であれば、そう、女性であれば、可能なのだ。


「来たれ、アネッタあぁぁぁぁぁっ!!」


 光がルグスの全身から知識創造の勇者へ向けて放たれた。

 気付いた知識創造の勇者が悲鳴を上げる。

 しかし、彼女が光線を避けることなど出来はしなかった。

 逃げようとして光に呑まれ、その姿が消失していく。


 悲鳴が途切れ、光が消える。

 果たしてそこには……


「あれ? ここは……?」


 幼い少女がそこに居た。

 知識創造の勇者が消し飛び、代わりに彼女が現れたように、くりくりおめめの可愛らしい少女。

 何が起こったのか理解できずに自分を見て、周りを見て、こてんと小首を傾げる。


「あ……アネッ……タ?」


「え? その声……ルグスお兄ちゃん?」


「おお、おおアルセお嬢様感謝いたします。おおアネッタ。アネッタぁぁぁ」


「うっ、そぉ……?」


 アカネが呆然とする目の前で、骸骨と少女は抱きしめ合い再びの再会を喜び合うのだった。


「って。いやいやいや。どういうこと?」


 魔法を放ち殲滅を続けながらアカネはルグスの肩を掴んで正気に戻す。


「ええい何をするアカネ。我はアネッタとの再会を……」


「それは分かるけど、今の何よ!? アネッタの渇望ってそんなスキルだっけ?」


「バグっていたと言われただろう。このスキルを女性に当てれば全員アネッタになるのだ」


「いやいやいや、おかしいおかしいっ」


「我が記憶の中に居る死ぬ前のアネッタだ。ああ、懐かしい。なんという奇跡か」


「よ、よくわかんないけど、久しぶり? でいいのかな? ずいぶんスリムになったねルグスお兄ちゃん」


 スリムっつか骨だろ。アカネは心の中でツッコむが、ルグスは照れ臭そうに頭を掻くのだった。


「今までいろいろあったのだ」


「うん。痩せるくらい大変だったんだね?」


 だから骨になってるっつの。アカネの心の叫びは誰にも届かなかった。


「また、お前と過ごしたい。罪深き私を許してはくれまいか?」


「ルグスお兄ちゃん何か罪を犯したの? ダメだよ罪は償わないと。仕方ないから一緒に償おうね?」


「おお、おおおおおおおおっ」


 少女に頭をよしよし撫でられ泣きだした骸骨に、もはや白けた眼のアカネが掛ける言葉など存在していなかった。

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