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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1351/1818

そのアルセがアリエルラとアルセるあるせをアルセたちは知らマルセ

「世界が……変わった?」


 不意に、リエラは顔を上げた。

 空に不吉な目玉がギョロリと覗いている。

 夕闇が迫っていた筈の空は青空と茜色が入り混じり、あるいは蛇行しながら夜空を染めている。


 戦闘機がくるくると捻り曲がり、地面にきりもみ回転しながら落下する。

 戦車はキャタピラだけが前進し、取り残された胴体部は空中に停止している。

 帝国軍最後の部隊は戦場に辿り着く前にバグってしまったようだ。


 兵士たちは突然増殖能力を失い、武装は攻撃力を失った。

 どよめき起きる兵士たちにアカネとルグスの魔法連弾が襲いかかる。

 戸惑う影兵たちの側で、リエラだけは何が起こったのか理解して全身を震わせていた。


 バグって、しまった。

 しかも世界丸ごとだ。

 これでは神が彼を見逃すわけがない。

 十中八九。駆除されてしまう。


 そうならないように、一人先行して敵を討とうとしたはずなのに、結局リエラでは増殖の勇者を仕留め切れなかった。

 自分の力の無さが憎い。

 でも、悔しいけれど、今は彼の元へ向かえない。


 全てを放り出して向ったところで合わせる顔などないのだ。

 ここに居る増殖の勇者を倒し、世界を救わないと、あの人がバグらせた意味が無くなってしまう。


「私が……やらなきゃ」


 ふいに、呟いた時だった。

 何かが見えた。

 白い線で地表に向けて矢印が見える。


「アレは……?」


 思わず目をこする。


「なんだ嬢ちゃん、どうした?」


「何か、見えます。白い、矢印?」


「俺らにゃ見えないが、なぁシャロン、カミュ……カミュ!?」


「ふぇ? 何……ん? あれ? なんかおまたすーすーする?」


「ちょ、カミュ、胸、胸育ってるであります!?」


 バグでカミュが女体化したらしい。

 どうでも良かったのでリエラはそれを無視する。

 姦しく喜び合うシャロンとカミュ。ケンジがやべぇ修羅場になるんじゃねぇかこれ?

 とか言っていたが、どうでも良かった。


「行きます」


「だな。何か見えたってんなら神様の導きだろ。最後まで手伝うぜ」


「ケンジさん……ありがとうございます」


「ああ。とりあえず今は他のこと考えずに任務遂行したいんでね」


 と、二人の姿を見て溜息を吐く。

 現状の彼女であるらしいシャロンと女性になったために正式に奪いに来るだろうカミュ。どう見ても修羅場になることは目に見えている。


「後で頑張ってください」


「人ごとだと思いやがって」


 ちっと舌打ちしたケンジは真剣な顔に変えてリエラの視線の先を見る。


「あの辺りに居るのか」


「わかりません。ただ矢印が見えるので、おそらくあの辺りに何かがあると思います」


「了解、そらシャロン、カミュ、仕事再開だ。行くぞ!」


「「はい!」であります!」


 リエラを筆頭にケンジ、シャロン、カミュが続く。

 近くに居た帝国兵はなんとかナイフで攻撃しようとしてくるが、銃弾を使えないド素人の群れではリエラ達を止めるに至らない。しかもリエラが動いたことに気付いたアカネとルグス、セキトリとクルルカが露払いを進んで行い始める。


「リエラ、どこ行くの?」


「それが、こっちに向かうよう矢印があって……」


「それバグじゃない。何も無い場所に矢印表示されてるとか」


「いえ、待ってください。違いますアカネさんリエラさん。魔物図鑑にはリエラさんの能力にボス敵ナビというのが追加されてます。おそらく増殖の勇者がその先に居ます!」


「クルルカ? まぁあのバグならそれくらい起こっても不思議じゃないわね」


「あとアカネさん、魔法使って服が飛ぶデメリットが消えてます」


「マジでッ!! ひゃっほーぅバグ愛してるっ」


 アイテムボックスから自分の服を取り出し早速着込むアカネ。

 魔法使っても弾け飛ばなくなった服に満足げに頷く。


「ふふ、やっぱりこうでなくちゃ」


「私には? 私には何かスキルはないか?」


「ルグスさんは……アネッタの渇望? スキル内容が変わってますね。アルセ姫護衛騎士団以外の女性に使用するとアネッタになる? なんでしょうコレ?」


「よくわからんが、アネッタになるとはどういうことだ? ふむ、誰か適当に試してみるか」


「バグってるみたいだからあんまヤバそうな能力は止めなさいよ。どうなるかわかったもんじゃないんだから」


 軽口叩きながら魔法連弾を叩き込むアカネ。

 そのアカネが不意にリエラの前にやって来て右手を出す。

 掌をリエラに向けたアカネに、リエラは小首を傾げた。


「アカネさん?」


「私の世界じゃね、こういう時ハイタッチで思いを託すの。あんたに託すわリエラ。こっちは任せて、あんたは増殖野郎にトドメを刺しなさい。バグの奴がお膳立てしてくれたんだもの。行って来なさい」


「……はいっ!」


 アカネとハイタッチを行い、リエラが走りだす。

 その先にルグスが現れ左手を差し出す。


「アルセお嬢様の願う世界を救え」


「当然っ」


 ルグスとハイタッチを交わす。


「リエラさん、ご武運を」


「ええ」


 クルルカとハイタッチ。


「こっちは俺らが受け持ちます。マターラが珍しくやる気になってますから。そっちは任せます」


「任せて!」


 セキトリとハイタッチ。

 矢印の場所に辿り着く。


「隠し階段か、嬢ちゃん下だ!」


 地面に隠れた隠し扉をケンジが開き、シャロンとカミュが先に入る。

 安全を確保してリエラ、そしてケンジが入り込んだ。

 その隠し扉を守るようにセキトリたちが陣取る。

 託した者、託された者、最後の闘いが始まろうとしていた。

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