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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 そのバグが意思を持っているのかどうかを誰も知らない
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その葛アル餅セなのっぴょろんことほ知ら友愛

 カレーニャーの森は無数の声で彩られていた。

 男達の戦場。否、そこはもはや友愛場。

 発展場と化したその場所に、もうヒャッハーもカレーニャーもガルーも居なかった。

 魔物たちはルクルを追ってコルッカの別戦場へと向かったのである。


 だから、ここに残っているのはハッスルダンディ。

 そしてサファリ洞窟部隊であるボノー、にこぽなでぽ、マーキスとその従者たちであった。

 帝国兵は悲鳴を上げ続け、やがて力尽きるように消え去る。

 彼らの進軍を阻めるものなど、存在していなかったのであった。




 そんなカレーニャーの森とは別方向。

 やってきたルクルたちはその光景を見て息を飲んでいた。

 戦闘機が空に固定され、戦車が跳ね回る。

 歩兵は増殖を止めてその場で回り出し、あるいは踊り出す。


「クソ、どうなってる!?」


「おい、電車ごっこなんざしてる暇ねーだろ!?」


「知るか、俺だってやりたくねーんだよ!?」


 一人の男の肩に両手を置き、背後に陣取る帝国兵。

 その背後に次々陣取り電車ごっこをし始める帝国兵たち。

 あまりにも愚かしい姿に、敵であるルクルたちもただただ呆然と見ているしか出来なかった。


 何やってんだこの人たち。そんな思いのレックスだったが、ルクルがはっと気付いて遠くマイネフランに視線を向けたことで何かを察してしまった。


「るぅぅぅぅ―――――っ」


 泣きながら叫ぶルクル。

 それは一体どういう心情なのか、レックスには分からなかったが、まるでもう、大切な何かに二度と会えなくなってしまったかのような悲痛な叫びだった。


「ルクルさん、行って来なよ」


「る?」


「ここはもう、バグってるみたいだから、多分もう俺たちの勝利だ」


 少し迷い、でもルクルもそう感じたんだろう。


「る!(ありがと、行って来る)」


「うえ!?」


 お礼を言ったルクルがぴゅいぃと指笛を鳴らす。

 その頭上に大きくありがと、行って来る。と白い文字が現れていた。

 すぐに薄くなって消えていく。


「あれ、多分ルクルさんの言葉が訳されてるんだよな……何で急に上にでてきたんだ?」


「るーっ!(今行くよダーリン)」


 痛々しくも言葉が頭上に浮かんでいることに気付かないルクルが空軍カモメに乗って去って行く。

 その後ろ姿を見送ったレックスは、直ぐ横のランドリックとライカ、そしてレーニャとその頭の上に乗ったネズミミックを見る。


「さぁ、最後に向けて気張って行こう」


 残った帝国兵向けて、彼らもまた迎撃に向かうのだった。




 ロディアは戸惑っていた。

 ノノを守りながら闘っていたのだが、基本自分が動くより早く葛餅が動いて脅威を排除してくれるので動く必要すらなかったりする。

 それも世界から何かが壊れる音が響くまでだった。

 びくりと震えた葛餅が周囲を見回し始める。


 帝国兵の銃弾を受けた生徒が斃れ、そしてすぐに起き上がる。

 驚いたように自分の身体を確認し、回復してる? と呟いているのが見えた。

 あるいは、ビルグリムが運悪く被弾。しかしノ―ダメージで潰れた弾丸が地面に落ちたのを見て周囲からビルグリム先生すげぇ!? と称賛を受けていた。

 増殖も止まり、帝国兵が戸惑いを浮かべている。


「く、葛餅先生。これは一体」


 尋ねたロディアにしばし考えた葛餅は、器用にプレートをロディアに見せながら近くの帝国兵を薙ぎ散らす。


「世界が、バグった? どういう意味ですか葛餅先生」


 葛餅は知っていた。

 そいつが居た事実を知っていた。

 何しろ葛餅を英雄に仕立て上げてくれた存在だ。


 アルセに捕まえられた時は殆ど知恵などなかった。

 しかし、アルセ達と生活する中で徐々に知識を蓄え、魔王を討ったことで一気に賢くなった。

 だから、彼のことは絶対に忘れない。

 自分をここまで成長させてくれた存在なのだから。


 そんな存在が、世界規模で能力を使った。

 神は黙っちゃいないだろう。彼はこの世界から駆除される。

 その直前の、まさに最後の一撃だ。


 自分は強くなったと自覚する葛餅だが、世界規模に影響を及ぼせる強さだとうぬぼれたりはしない。

 せいぜいこのコルッカ学園で教鞭を振るい、未来のアルセ姫護衛騎士団候補を発掘するのが関の山。鉱物でしかなかった自分を快く迎え入れてくれたアルセ達への恩返しなのだ。


 だから、戦友が一人、消えた事実を知って悲しみを覚える。

 涙を流したりはしない。しかし、哀しいと言う感覚を、葛餅は初めて味わった。

 だが、心配そうにしている生徒たちにそれを悟らせる訳にも行かない。


 問題ないとプレートを掲げ、再び帝国軍撃破を始める葛餅。

 誰にも知られることはない。何しろ葛餅は声を発さない、表情もないのだから。

 既にこの世から消えてしまっただろう一人の存在を思い心の中で涙するのであった。

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