そのアルのっぴょセ変態♂モテるのっぴょぴょぴょぴょぴょは知らニい
トルーミング王国は今、かつて無い脅威を前にしていた。
国食らいの魔人。七大罪の一人飽食のパイラ。
その姿はまさに国食らいと言われてもおかしくないだろう。
何しろ口を開いた姿が山のように変化しており、ただひたすらに吸い込みを続けているのだ。
帝国兵も魔物も区別なくひたすらに吸い込んでいく。
当然ながら前線で闘うトルーミング王国軍も吸い込まれるのだが、体内で寄り分けできるようで、スイカの種を吐き散らすように吐き出していた。
「ぷはぁー。あっちの一軍は放置でいいのね?」
「へ、へい姐さん。オーギュスト王子が頑張ってくださってるんであの辺は近づかないでください」
「いろんな意味でアウトになるからね。それにしても、凄いわね」
先程まで埋め尽くすほどに存在していた戦車や兵士、戦闘機すらも飲み込まれて消え去っている。
残ったのは千名くらい。
すぐに増殖を始めるがどれ程増えようとパイラには意味が無い。
一呼吸終えて次の食事を、と思った時だった。
何かが、変わった。
ん? と小首を傾げたパイラ。その身体が吸い込みを行わない。
「あれ? 食事出来ない?」
「……え?」
それだけじゃない。周辺にも異変が起き始める。
空が壊れ大地から水が染み出して来る。
夜の帳が空の半分を覆い、夕焼けがさらに上書きされるように半分を、そして黒い雲が現れ、大空を四分割、青海のような青空が南から西にかけてのみ広がって行く。
「な、なんだ!? 突然服が脱げ……」
「ぎゃぁぁ!? 手が、腕が伸びた。どれだけ伸びるんだこれは!?」
「ぐぎゃあああああああ!? 身体が捻じれ、捻じれるぅぅ」
「な、何が起こって……?」
リアッティが戸惑う。
その目の前では首が長くなっていく帝国兵が巨大な足に変化した帝国兵に踏まれて文句を言っている。
戦車が平べったく変化して、戦闘機が急激に重量オーバーで地面に落下、そのままめり込んでいく。
「アルセ……?」
「姐さん?」
「ん。私のステータス見れない?」
「ステータスっすか、えーっと、ああ、マイネフランからパクッてた奴がありますぜ」
魔物図鑑をパイラに向けて登録し、パイラ自身に見せるアンディ。
自身のステータスを見たパイラはなるほど、と納得した。
「七大罪、消えてる。これじゃ飽食できない」
「ええ!? ど、どうすんですか?」
「問題はない。もう勝負は付いてる」
そう告げたパイラはすっと指を持ち上げる。
「ほら、貴方たちも変化しているわ」
「「え?」」
指先を見て、アンディは自身の頭を触る。
ふさふさしていた。
「あ、ああ。まさか、まさかっ!?」
「ああ、服が、服が透明じゃないわ! ちゃんと色が付いてる!」
彼らもバグっていたのだが、これまでの貢献がアルセの加護を受ける者と判断されたのだろうか? あるいは偶然だったのかもしれない。
前回のバグがきれいさっぱり消え、普通のニンゲンに戻っていた。
「ああ、あっしの髪が、髪がぁ、おお、神よぉ!!」
ふさふさした髪を愛おしそうに撫でまわし、アルセ神へと祈りを捧げるアンディ。
隣では再び身体を隠せた喜びに、リアッティもまたアルセへと祈りを捧げていた。
「むぅ、私はかなり貢献してるのに、何でスキル剥奪。アルセ、納得できない」
そう告げて1ゴスを取り出し噛んで見る。
「う、マズい……」
ゴスも喰えなくなってしまったようだ。酷過ぎる。
が、スキル欄を確認して行くと、見覚えの無いスキルがあった。
「成る程、七大罪の代わりにコレか。まぁ、いいか」
スキル神の舌。本当の美食を味わうにはとてもいいスキルである。これで真の美食を味わえと言うことらしい。
同じく、覚えたスキル。美食ソナーを使えば隠れた美食も味わうことが可能だろう。
「食事時間が少なくなったし、胃袋も小さいけど、まぁ満足」
帝国兵たちはもうパイラが手を下すまでもなく、増殖できなくなった瞬間から駆逐される側へと回ってしまったようだ。
どれ程抵抗しようとも討伐から逃れようはないらしい。
増殖能力も失ってしまったらしく、なんとか逃げ切ろうとして魔物や防衛軍に倒されていた。
「にしても、オーギュスト王子は変わらずみたいだな」
「まぁ、別にいいんじゃない。本人も楽しそうだしモテモテね」
「アレ、楽しそうって言えるの? まぁいいけど」
立ち話を始めた三人の側を戦闘機がゆらゆらと落下、地面にめり込み飲み込まれるように消えていく。
銃弾がパイラの頬を掠める。
が、回復する弾丸だったらしく擦りキズは即座に完治してしまった。
「なんというか、カオスね」
「コレがアルセ神の本気か……」
「私達、恐ろしい相手に喧嘩売ってたのねぇ。戦争終わったら各地のアルセ神教会廻っとこうかしら。御利益普通に有りそうだし」
「それいいっすね。ご一緒します」
「え、嫌よ。女の子とだったらいいけどムサい禿げちゃびんとなんか」
「髪は生えたよっ!?」
力強く叫ぶアンディ。もはや彼らは勝利したモノと油断していた。
だがその油断に付け入るような存在もまた居なかった。
もはや本当に、勝利目前なのであった。




