その●★がΔ∵たこToを(ノД`)ノシも知らNai
ああやってしまった。
これで僕はこの世界から排除されてしまうだろう。
とりあえずそれまでは……そうだな。ぼぉっとしてるのもアレだし、ピアノでも弾いて待っとくか。その内来るでしょグーレイさん。
僕はアルセの大樹のすぐ側に、ポシェットからグランドピアノを取り出す。
調律を行い、満足のいく音が出始めたのでようやく弾こう。そう思った時だった。
背後に気配を感じる。
ペンネ、ではない。彼女はグランドピアノのすぐ側で、いつもの白けた瞳で僕を見つめているからだ。
「もう、来ちゃったかぁ」
「やってくれたねバグくん」
やっぱり、グーレイさんの声だ。
「じゃあ、僕はやっぱり?」
「ああ。君を駆除しに来たよ。折角警告したのに、まさか最後の一回で世界をバグらせるとは思わなかったよ」
「アルセがこれ以上悲しむのは見たくなかったんだ。僕の内部にあるバグなら、アルセが嫌がるバグは起こさないって確信できるし」
「バグはバグだよ。予想外の致命傷を与えて来るからバグなんだ。この世界はもう駄目さ。私では制御不能だ」
「アルセなら制御出来るさ。いいや、アルセにしか制御出来ないよ。多分」
言いながら、僕はピアノの前に椅子を取り出し座る。
「ねぇグーレイ神」
「なんだいバグ君」
「一曲だけ、良いかな?」
「……そうだね。一曲だけ、許可しよう。終わると同時に問答無用で駆除するけど」
「そっか……ありがと」
「それに、多分そのくらいしかもう君は持たない。今の自分の姿、理解してるかい?」
僕の姿? いつもどおりじゃないか? いや、少し透き通ってるか?
「形作っていたバグが全て無くなったせいで君は剥き身の魂になってるんだ。神聖魔法喰らったら一撃昇天だよ」
そりゃ怖い。でも神聖魔法なんて誰が僕に唱えるんだか。後数分くらいしか居ないんだから心配する必要もない。どの道すぐに消えるんだし。
はぁ、短い人生だったな。いや、終わらせた人生の延長だったんだ。充分、僕は楽しんだんだと思う。
さて、最後の曲か。僕がピアノで弾ける中で、何を弾こうかな?
ドナドナ? 翼をください?
いいや。今、この時、この瞬間。僕らの人生を振り返るなら。
僕がお爺さんで、アルセが古時計。かな。ああ、決めた。弾くのは古時計だ。
僕とアルセの歩んだ軌跡。その全てを思い出しながら、ゆっくり、ゆったり弾いて行く。
僕がこの世界にやって来た日、僕はアルセと出会えた。
その日からずっと一緒だ。一緒にアルセの成長を見守って来た。
いつまでも、いつまでも一緒に。チクタク、チクタク時を刻みながら。
アルセは僕の自慢の義娘だ。その成長する姿が凄く楽しみだった。
リエラと出会って、皆が集まって、エンリカやネッテの花嫁姿も見れたっけ。リエラの花嫁衣装が見れなかったのは残念だったかな。
アルセのは……アルセが結婚なんてことになったら僕は相手を許せるだろうか? 多分バグ弾撃ちこんでただろうなぁ。
そして今、アルセは大樹になった。
もう、二度と動くことの無い巨大な神木。
世界の為に、皆の為に。
気が付けば、アルセの木が呼応するようにざわめき、同じ旋律を紡いで世界へと届けていた。
まるでこの曲の三番目のように。
お別れの日がやって来たことを、皆に教えているようだ。
そうか、僕は、この世界から消えるから、天国じゃないけど、居なくなるんだ。
アルセとも、リエラともパルティとも会えなくなる。
ああ、辛いな。
こんな素敵な夢から覚めなきゃいけないんだ。それが凄く、辛い。
曲が最後に近づく。
後少し、もう少し、引き延ばし、最後の一音……
そして、僕は……――――
小高い丘に立った一本巨大な大樹。
アルセが化生した大樹の木蔭に、ひっそりとグランドピアノが鎮座する。
先程まで、独りでに音を鳴らしていたピアノ。その曲が終わると共に、音が消える。
気が付けば、すぐ側に居た銀色の生物が消えていた。
少女は一人、椅子を見続ける。
座り手を失った椅子を、ただ一人。
彼が今、つい先ほどまでそこに居たことを、今、たった一人だけ知っていた魔物。
ペンネはただ独り、ひっそりと佇むピアノを見づつけた。
そこで待っていれば、また音がなるのだと告げるように。
座り手が再び鍵盤を鳴らすのを今か今かと待ち望むように。
「ペンネ、どうしたの?」
はっと、我に返ったアニスが近寄ってくる。
未だ佇むペンネを抱き上げ、誰もいないピアノを見る。
「さっきまで音がなっていたわねこのピアノ。いつの間に出現したのかしら。あるいは……アルセがお別れを言ってくれたのかしらね」
少し寂しそうに、彼女は告げた。
無言でピアノを見続けるペンネ。その瞳から、滴が一つ、流れて落ちた――――




