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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その抗う者たちを彼らは知りたくなかった
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その後門の闘いを父は知らない

「うわあああああああっ」


 唯野隆弘が雄叫びと共に駆け込む。

 鋼鉄の勇者は突撃する少年を蹴り飛ばす。

 面白くない。折角腕力に任せて国を蹂躙してやろうと楽しみにしていたのだ。


 実際には四人家族の相手をさせられ、油断し過ぎたせいだろう。父親に腕を切り裂かれるという始末。

 その憎い男には顔面挫傷の一撃を負わせたが、全く釣り合わない。

 捻り潰してやろうとしたところに、息子が後ろから襲いかかって来たのである。

 煩わしかったので鎧袖一触。吹き飛ばすと、今度は姉が邪魔をする。


 魔法が唱えられ、鋼鉄の勇者の足を凍らせる。

 面倒臭いことこの上ない。

 母親だけは呆然としているが、子供達がうっとおしい。


「ちっ。先にこいつ等蹴散らすか」


 服を破り無くした腕を縛る。

 血は止まったが痛みは続く。

 小物と思った存在に手傷を負わされたイラつきは抑えきれない。

 再びつっかかって来た小僧を殴り飛ばし、小石を拾って女に投げつける。


「きゃぁ!?」


「隆弘!? 沙織!?」


 悲痛な叫びを発したのは母、静代。

 その場に座り込み、ただただ子供たちの名を叫ぶ。

 自分だけは何もしていない。それはただ目の前の男が恐ろしいから。

 そして下手に攻撃すれば自分が攻撃対象にされるから。


 子供がどれ程傷めつけられようとも自分の方が大事な女らしい。

 くっくと笑みを浮かべ、鋼鉄の勇者は思いつく。

 この女の前で子供達を捻り殺した方が楽しい悲鳴が聞けそうだと。


 まずは……さっきから突撃して来るクソガキだ。

 その後はお楽しみ。母親の前で娘を犯し、絶望した母を犯して全員の首を折る。

 最後に気絶した父親の前に遺体を並べ、笑いながら殴り殺すのだ。


 そうと決まれば。

 突っかかって来た隆弘の頭を掴み持ち上げる。

 手にしていた武器は腕を捻り上げて落とした。

 捻り過ぎて腕が曲がってしまい、隆弘の悲痛な絶叫が響いたが、別段すぐ殺す子供だ。どうでもいい。


 だが、ふと気付いた。

 悲鳴こそ上げたが泣きわめく気配がない。

 涙目に鼻水が出ているのは痛みのせいだろう。

 自分の腕が無理矢理曲げられ捩じられたのだ。骨がバラバラにされている以上痛みは相当あるはずだ。

 しかし隆弘は無様に泣き喚こうとはせず、下唇を噛みしめ痛みに堪えていた。


「何だ小僧? 普通は泣き叫ぶもんだろうが」


 しかし隆弘は何か返答することは無く、怒りの視線で彼を睨むだけだ。

 その瞳に妙なイラつきを覚え思わず投げ捨てる。

 ごろごろと隆弘が転がり、静代の前に飛ばされて来た。


「隆弘っ」


 駆け寄ろうとして腰を浮かしかけ、近づいて来た鋼鉄の勇者に驚きぺたりと座り込む。

 そんな静代の目の前で、ぼろぼろになった隆弘が首を掴み取られて持ち上げられる。


「隆弘……」


「はっ。面倒なクソガキだが丁度良いアングルだよなぁ。おいクソババァ。テメェの息子をテメェの目の前でぐちゃぐちゃに壊してやるからよぉく見てな」


 空いた腕で隆弘の無事な腕を握る。

 何が起こるか気付いた静代が止めてと叫ぶ。

 必死に沙織が魔法を唱え、隆弘が覚悟を決める。


「ぎ、ぃぃぃっ」


 血が滲むほどに唇を噛みしめ隆弘が痛みに耐える。

 両腕が曲がってしまっても、彼はひたすらに耐えきった。

 その耐久心に鋼鉄の勇者は「ほぅ」と感心した声を出し、ならばと更なる痛みを与えてやることにした。


 それは隆弘が殺されるのを少し伸ばしたが、代わりに絶叫する痛みを彼に与える。

 右足が捩じられる。

 白目をむきそうになりながらも、意識を保つ。

 痛い、辛い、楽になりたい。そんな思いが彼にあるだろう。ニヤつく鋼鉄の勇者だったが、隆弘は敵意だけを向けて睨み続ける。


「なんだテメェ? 痛いだろ? 四肢捩じられてんだぞ? 普通激痛でショック死だろうが。なに耐えてんの? バカじゃねぇ?」


「父さんは……お前になんて……負けない」


「は? 父親?」


 眼を見開いて驚く。

 次の瞬間心の底から笑いが駆け上がっていた。


「くははははっ。バッカじゃねぇか? あの伸びてるおっさんに何が出来る? テメーは親父が起きるより早く死んで、親父が眼を覚ました時には家族の遺体とご対面なんだよッ!」


「違うッ。父さんは負けないっ。お前みたいな偽勇者を、本当の勇者になって倒すんだ」


「はぁ? ああ、そんなありえねぇ希望に縋りつくしかできねーか」


「父さん、寝てる場合じゃないだろッ! 待ってるから、僕がこいつの相手をして待ってるから、悪い奴をやっつけてッ」


「私も、私も待ってるッ。負けないで父さんっ、こいつを倒してッ」


 何度も魔法を唱え、必死に相手を凍らせて、それでも無視され続ける沙織も叫ぶ。

 息子が、娘が心の底から父に助けを求めた。

 そして……


「一緒に、一緒に帰るんでしょ……家族をやり直すんでしょ……アナタぁッ」


 二人に触発されるように、静代が叫ぶ。


「ああもう、ウゼェなテメェら。もぅいい、遊ぶのも面倒だ。さっさと首ねじ切って親父の前に並べてやる」


 鋼鉄の勇者が隆弘の首を持つ手に力を込める。

 その後方で、倒れていた忠志の指が、ぴくりと動いた。

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