その前門の闘いを帝国兵は知りたくなかった
「うおりゃあああああああ!!」
ひのきの棒が大ぶりに振られる。
アサルトライフルを撃ち放ち迎撃する男の頭をカチ割りひのきの棒が折れた。
ドドスコイ王国前門、サーロは一人、数千、数万の大軍に闘いを挑んでいた。
彼が手にするのはひのきの棒。アイテムボックスにいくつも用意しているので一つ折れてもすぐに装備し直せられる。
無数の弾丸が彼を通過する。
彼は物質透過スキルがあるため銃弾に撃たれて死ぬことは無い。
だからひたすらにひのきの棒を振るい相手を無力化して行く。
しかし、やはり一人だけ。
彼を無視すればドドスコイ王国を征圧出来ると理解した兵士たちは、彼を無視してドドスコイへの進軍を再開していた。
「クソ、俺だ! テメーらの相手は俺なんだよっ!! 無視すんじゃねーっ!!」
哀しいかな。彼の持つひのきの棒は攻撃力も殺傷力も最弱で、足止めはできても数人。
これでは進軍を止めることなど出来るはずもなかった。
だから、最前線部隊がついにドドスコイ前門へと辿り着く。
ドドスコイ王国の防衛軍も必死に魔法や矢を使って反撃しているが、雨嵐のような銃撃に、思うような攻撃が出来ないでいた。
アルセのくれた全身盾がなければ既に全滅していてもおかしくなかっただろう。
総指揮官を任されたオーゼキは喉を鳴らし覚悟を決める。
ここには居ない娘を思い、眼を閉じる。
「ミズイーリ……幸せに、なれよ」
眼を見開く。
もはや迷いはない。恐れもない。決死の顔で前を見る。
「総員白兵戦用意! 我らの命を持ってこの国を守り切る! 全員、死力を尽くせ!!」
総指揮官の言葉に、兵士達も覚悟を決めた。
あの全身盾が越えられた時、彼らの殆どが銃撃で死ぬだろう。
だが、それでも、自分の妻を、子を、愛する人々を殺させはしない。
決意を持って武器を握りしめる。
「総員、突撃ぃ――――っ!!」
前門を守る全身盾が蹴り倒されるその刹那。
横合いの森からそいつらは現れた。
「な、なんだ!?」
ドドスコイ王国へ攻め寄せる寸前だった帝国兵に、フォレストウルフの群れが飛びかかる。
驚く兵士達を薙ぎ散らし、チャウチャウちゃうねんがまとわり付く。
デンデンでんねんが雷撃をほとばしらせ、ある日のアルパカが唾を吐きかける。
突如として現れた魔物の群れが、横合いから帝国兵に突っ込んだのである。
そして、慌てふためく帝国兵に、トサノオウの群れが一丸となって激突した。
戦車部隊を粉砕し、ただひたすらに平野を駆け抜けるトサノオウたち、その先頭の頭の上にレーシーが乗って拳を突き上げていた。
「そら行けそら行けレーシー様のお通りだーっひゃっはーっ!」
「な、あれは……森の主?」
驚くオーゼキの隣に、くるんっと空から降ってくる耳掻き狐。丁度大きいのが取れたらしく、瞳を潤ませ嬉しそうにしていた。
「ふふ、これは僥倖。全員死力を尽くして生き残れ。我等には森の加護がある。ドドスコイ王国は魔物と協力して帝国軍を蹴散らすぞ!!」
鬨の声が上がった。
兵士達が魔法を唱え、矢を放つ。
デンデンでんねんの殻を盾にして突出する冒険者達が魔法で迎撃を始める。
「空飛ぶ鉄の鳥が厄介だ。アレをなんとか……」
オーゼキが上を見上げたその瞬間、戦闘機を光の筋が撃墜した。
なんだ? 驚くオーゼキの目に、光を纏った老婆の群れが映る。
編隊組んで光と化した老婆たちが、次々に戦闘機を撃破し始めた。
「はは。なんだこの戦闘。婆さんが空飛んでやがる」
とんでもねぇな……
心の底からそう思いながら、いつか見た緑の少女を思い出す。
まるで私に任せなさい。そう告げられた気がして、不意に笑いが込み上げるオーゼキだった。
「アルセちゃんには敵わんな。ここまで想定してくれてたのか君は?」
未だ一人激闘を繰り広げるサーロの周辺にトサノオウの群れが突っ込む。
「ぬはは。トサノオウ無敵過ぎっぜー」
「奴だ! あの先頭の女を狙え!」
「おっと私狙い? 5百億年早ぇ!」
無数の蔦がレーシーから伸びる。
向かって来た銃弾を蔦が絡め取り、しなるように撃ち返す。
さらに彼女を守るようにワーグウルフの群れが突っ込んでくる。
「クソ、魔物どもが!」
「増殖許可が出たぞ、増えまくって数で押し殺せ!」
兵士達が増殖を開始する。
間近で見ていたレーシーはその光景にうわぁっと思わず気色悪いモノを見た顔をする。
「トサノオウ、全員踏み潰しておしまい!」
そしてレーシーの指示のもと、サーロも纏めで押しつぶすトサノオウの群れ。
擦りぬけたサーロは心臓が早鐘を打つのを自覚しながら、恐怖を打ち消すようにさらに声を出して敵を殴りつけるのだった。
ドドスコイ前門、未だ破られることは無く、オーゼキも無傷のまま兵士達と共に戦場に居た。
ミズイーリと行った約束を、サーロはしっかりと守れていたのである。




