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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その抗う者たちを彼らは知りたくなかった
1327/1818

その海洋の魔王行進を帝国兵は知りたくなかった

「よぉし、次だ次!」


 ファラムが楽しげに叫ぶ。

 魔王軍を引き連れるようにして潜水艦に向かって行く。

 彼が率いている訳ではないのだが、皆一斉に向うせいと、彼が一番に動いているせいで彼に従う魔王軍のような様相になっていた。


 戦功を言うならば古参の魔王達が勲功第一だろう。

 特にイカのような体躯のクトゥールフや海蛇が無数に繋がったようなアジ・ダハーカの働きはすさまじく、彼らだけで敵軍勢を駆逐する勢いだった。

 だが、敵は一筋縄ではいかなかった。


 何故かと言えば潜水艦ごと増殖を始めたからである。

 物凄い速度で潜水艦が増えていく。

 本来ならば悪夢のような光景だったが、魔王達が追い付いてからは完全に拮抗してしまっている。

 増殖する先から粉砕されて海の藻屑になる潜水艦多数。

 増殖を行う兵士達も海に投げ出され溺れ死にながら増殖。そして増殖した先から溺れ死ぬ。


「流石に、すごいなぁ……」


「この光景を願っていたんでしょ。全くファラムに持っていかれたわね」


 リフィとヲルディーナは隣り合って魔王たちの闘いを見守っていた。

 実力は完全な役不足なので見学するしか出来ないのだ。

 時折魚雷が迫ってきたりはするのだが、彼女達を守るように四聖獣プレシオが侍っているので問題はない。

 水流を操作しあらぬ方向に魚雷を向かわせ、海底で爆散させてくれていた。




「クソ、やってくれるあいつらッ」


 潜水艦の一つに収容された操船の勇者は濡れた髪をタオルで拭きながら悪態を突く。


「全く、海洋生物風情が無駄に邪魔してくれるものだ」


 増殖の勇者の言葉に操船の勇者は頷く。

 帝国兵たちが操舵するこの潜水艦は、今は戦場から少し離れた場所に逃げ込んでいる。

 今は増殖を重ねて反攻作戦を始める準備を行っている所だった。


「お前を増殖させられりゃぁなぁ」


「勇者同士の力は使えないだろ。それで、後どのくらいだ?」


「数分で数万の大軍に戻る。流石にこの大軍勢になれば海洋生物といえども駆逐できるだろう。上は完全にやられたが、海中は負けはせん。奴らの死骸を海に漂わせてやる!」


 たかが力士一人に粉微塵にやられたイージス艦の骸が沈み始めている。

 彼らの側にもマストと思しき物が一つ落下して来ていた。


「良し、充分出来たぞ。反攻作戦を開始する!」


「ようやくか、今度こそ俺の操舵テクを見せてやる!」


 操船の勇者を筆頭に、無数の潜水艦部隊が展開される。

 膨れ上がった第二陣が、ついに魔王軍へと動き出した。




 リフィもヲルディーナもファラムも思わずそれを見た。

 少し離れた場所から突然のように現れた無数の船団。

 数が数だけに流石に対応し切るのは不可能に思える。


「お」


 しかし、アルセ二号は大丈夫、とばかりにプレシオの頭に乗って彼女の頭を叩く。

 何か、と思ってそちらを見れば、巨大な何かが猛スピードで近づいて来ていた。

 その背後からも無数の魚影。


「お、おいおい、今度はなんだ?」


「アレは……お母様!?」


 リヴィアサン率いる大軍勢が援軍に駆け付けたのである。

 奇しくも、船団同士の実力は拮抗していたようで、折角の増援も互いに喰らい合ったせいで拮抗してしまう。

 巨大な海蛇のような体躯で潜水艦を弾き飛ばしリヴィアサンがリフィの元へとやってくる。

 その間にも長い体や尻尾が潜水艦を薙ぎ払っている。


「お母様!」


『ずいぶん楽しそうね。私達も混ぜて貰えるかしら?』


「喜んで!」


 魔王軍は既存の潜水艦駆逐を、新たに現れたリヴィアサン軍は同じく現れた増援部隊を相手取る。

 砲弾ザメの大軍が潜水艦へと突撃し、人食いカレイたちが外に出て来た帝国兵に食らいつく。

 ドリルチンアナゴたちが船体に穴を開け、潜鯛船長が鯛の中でお茶を飲む。

 リヴィアサンが動くごとに水流が船体を揺らし、無数の魔物や魚類が群れを成して潜水艦に突撃して行く。


 ファラム達も負けてはいない。

 魚雷の雨を潜り抜け、機雷の森を避け走り、潜水艦に巻き付き、薙ぎ払い、殴り壊す。

 無数の魔王達による夢の饗宴。

 まさにSAN値直送の地獄絵図。


 普段は深淵にしか居ない魔王達も、本日ばかりはその奇怪な体躯を存分に見せつけ帝国兵を駆逐する。

 魔王達も闘いながら戦慄していた。

 自分たち以上の魔王たちの実力に、そして彼らが自分たちを相手にしていないという現実に、さらに意外と旧魔王たちが仲が良いと言う事実に。


 ファラムとしても意外だったのだが、魔王達、特に古いものほど連携を取って闘っているのだ。

 力強い者たちが連携を取ってくれるので下手に指示出しをするよりも楽に闘えていた。

 それでも、帝国兵の増殖応力は高く、徐々に拮抗状態へと戻って行くのだった。

 海の闘いもこれ以上の抵抗はなく、増殖力にモノを言わせた増殖の勇者が徐々に強くなり始めていた。

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