その火山からの援軍を帝国兵は知りたくなかった
ダリア連邦では三部隊に別れた防衛軍と同じく三部隊に別れた帝国軍が争っていた。
既に戦車や戦闘機が投入されていたが、戦車にはデヌの魔法が、歩兵には高速移動するGババァが、そして戦闘機には翼を打って飛翔するステファンが対応する。
彼ら以外の騎士団や冒険者も充分に強く、アルセ神グッズで守られた彼らを銃弾で打ち抜くのは骨の折れる作業だった。
そうこうするうちに光の柱が立ち昇り、ババァ流星群がババァ賛歌と共に降り注ぐ。
戦場は一気に防衛軍優勢となり、帝国軍が駆逐されるかに思えた。
だが、その寸前、帝国兵が増殖を開始する。
全ての兵が一斉に増殖したために減っていた帝国兵は一気に数を取り戻し、さらに倍加するようにその数を増やし始めた。
初めこそ拮抗していたが、流石に膨れ上がる増殖の勇者相手にステファンたちは徐々に後退を余儀なくされていた。
数の脅威。
その力が存分に発揮され始めているのである。
なんとかしようにも今の戦力では拮抗状態に持っていくことがやっとだ。
ババァの援軍もゾクゾク集結しているので相手の増殖と消失がようやく拮抗し出したと言ってもいい。だが、疲れが見え始めた防衛軍のせいか、徐々に相手の増殖力が上回り始めていた。
「これだけの戦力を持ってしても脅威が上回るか。アルセ神様のお力より邪神の方が上だと言うのか? 先の嘆きはその為の……いや、違う。我がそんな不安に押しつぶされてはならぬ。アルセ神様こそ至高の御方。ならば手は打たれている。我らがすべきはそれまで持ちこたえること。神の御加護はすぐそこだ!」
気合いを入れ直し、ステファンはモーニングスターを振り被る。
空を滑空する戦闘機を叩き潰し、さらに軌道を変えて別の戦闘機を下から殴りつける。
モーニングスターの一撃を喰らった戦闘機は機体を揺らし、操縦不能で地面へと墜落して行った。
デヌの魔法が戦車を押しつぶす。
かなりの大魔法を連発しているが、戦車は増殖して増えているためまだまだ駆逐出来ないでいる。
Gババァにしてもそうだ。歩兵はさらに増える速度が速く。閃光のように敵を駆逐してもその倍のスピードで増えて行く。
このままでは疲れの見えるダリア防衛軍が敗北するのは目に見えていた。
それでも手を抜くことはできない。全力でこの状態なのだからどうにもならない。
突出した戦力の三人は必死に起死回生の一手を考える。
このままでは増殖力に押されてダリアが滅ぶ。それだけは……
「ぎゃあぁ!?」
「なんだ!? 後方から襲撃だと!?」
突如、帝国兵から悲鳴が上がった。
森から出現したクマが帝国兵に突撃する。
要注意魔物パルクールベアだ。
あまりにも高速に動き障害物をモノともせずに追ってくる熊である。
一度眼を付けられたら地の果てまで追い掛けて来る最悪の熊として有名なダリア特有の魔物だった。
それが、一体。だけではない。遅れ、森から出現するパルクールベアの群れ。
さらにフォレストウルフやジーパンジーと呼ばれるジーパン穿いたチーパンジー。金色の毛に長い鼻を持つゴールドテングザル。レッサーパンサーやスカイカジキが帝国兵へと突撃して行く。
別の場所からも多種多様な魔物達が帝国兵へと襲いかかった。
瞬く間に恐慌状態に陥る帝国兵。
増殖が止まった御蔭で一気に帝国兵の数が減って行く。
「マズい、増殖を止めるな!」
「敵だ! 全部敵だ! ぶっ殺せ!」
「か、カジキマグロが空飛んで砲塔に突っ込んでくるぞ!?」
「クソ、あの熊速過ぎる! 銃弾避けるとか何だあの動き!?」
「空からババァが降ってくるぞ! クソ、俺はあんなのに唇奪わせたりしね……んぶっ」
帝国兵が減って行く。しかしすぐに立て直し増殖を始めたため、再び拮抗が生まれる。
だが、魔物たちの増援も次々現れるため増殖の勇者たちが徐々に押され始めていた。
「ふざけるな! 数で負けるわけにはいかねェんだよっ!!」
増殖の勇者も負けじと増殖を繰り返す。
だが、その拮抗も、帝国軍第三部隊の出現で再び兵力差が変化する。
「くっ。さらに援軍……魔物の援軍も巨大な魔物は既に出て来た、これ以上の援軍は見込めな……」
「そうでもないぞ、羽根の生えたニンゲンよ」
「っ!?」
そいつらはさらに遅れてやって来た。
ダーリティアにある火山よりの来訪者。
有毒の山頂より降りて来たため時間が掛かったらしい魔物達を引き連れ、アクセルタイガーが現れる。
「援軍第二陣と言う奴だ。四聖獣アクセルタイガーが保障しよう。まだまだ勝負はわからんぞ」
「くく、ははは。素晴らしい。ついに四聖獣が来なされたか! ああ、アルセ神様。このような奇跡の瞬間に生を受けたこと、このステファン・ビルグリム、光栄の極みにございますッ!!」
これぞ神の奇跡だ。ダリア連邦を守るため、次々にやってくる魔物たちに、ステファンはアルセの力の片鱗を見て狂喜乱舞するのだった。




