その止まらない食事を帝国兵は知りたくなかった
トルーミング王国は今、物凄い数の魔物に囲まれていた。
といってもトルーミング王国自体に悲壮感は無い。
何しろ魔物達が襲いかかっているのはトルーミング王国に攻め寄せた新日本帝国軍だからである。
とはいえ、彼らは増殖を始めたせいで魔物たちの数を一瞬で上回り、今は魔物と国防軍が協力して敵を駆逐し始めているところである。
問題は増殖する敵が初めから武器を持ったまま増殖することだろう。
折角一人を倒して武器が一つなくなったと思ったら別の敵が増殖して武器も増えるのだ。面倒なことこの上ない敵である。
しかも時間が経つごとにネズミ算式に増えて行く。
「クソ、オーギュスト殿下だけじゃ無理か!?」
「一人で300人相手取ってるだけでも凄いわよ。アンディ、なんとかしなさい」
「出来たら苦労しませんがね! 魔物に頑張って貰うしかねーでしょう」
増え続ける帝国軍に、拮抗する戦力は徐々に押され始めていた。
「なので、援軍に来た」
「へ?」
空から聞こえた声にリアッティは思わず見上げる。
そこには、空軍カモメから落下して来る少女が居た。
「あ、あんたは!?」
「ゲーテリアが片付いたのでこっちに来た。ご飯沢山で私は嬉しい」
相手が増殖する前に全員食べきったパイラは、トルーミング王国の救援に来たのであった。
流石に今回は全部を食べきるのは不可能に思えるが、まだまだ腹は空いたままだ。
「アレ・キュイジーヌ」
「いや、意味わからないんだけど」
「とりあえず新日本帝国軍を食べる。話しはそれから」
言うが速いか近くの兵士に走り寄ると、口を大きく開く。
顔だけが巨大化するように兵士の上半身に食らいつくと、そのまま丸ごと捕食した。
ごきゅり。体格に合わない食事を終えて、パイラは次の獲物へと視線を向ける。
「銃、うまし。次は戦車食べる」
基本金属系の方が歯ごたえがあって美味しいとパイラは率先して装甲車を捕食して行く。
その姿はまさに悪夢であった。
銃弾を打ち込んでも全て食べられ、近づかれれば自身が捕食される。
国食らいパイラ。その真価が徐々に発揮されようとしていた。
コイントスではバルスが窮地に陥っていた。
帝国兵指揮官を目指していたのだが、増え出した兵士に押され始めたのである。
目の前に居るのに近づけない。
あそこに、あそこにアホ毛があるんだ。もう少しなんだ。
叫ぶバルスに銃弾が襲いかかる。
絶えず動きながら敵を切り裂くバルス。その周囲に味方は居ない。
否、魔物達が彼の周囲に展開し、彼を後押しするような形になっていた。
彼らが手伝ってくれる。ならば自分は負ける気がしない。
バルスは魔物達と共闘しながら、少しずつ前に進む。
そんな彼を心配しながらも、兵士一人確保する事を目指しているのはアンサー。
死体に一撃加えてみたが、すぐに消え去った遺体は彼にとって遺体としか映らなかったようで、死に掛けていた帝国兵が一緒に消えたぐらいだった。
これでは意味が無い。
一撃で敵全てを倒せる可能性があるのは自分だけなのだ。
なんとか、無傷の帝国兵を確保して斬らねば。
「うぅ……」
「ユイアさん!」
「うー、どうなったの?」
こめかみに銃弾を詰め込んだユイアがふんっと力をいれると銃弾がぽーんとはじき出される。
「ご無事で!?」
「まぁ、そうみたいね」
ユイアは被りをふってふぅっと息を吐く。
戦場を見回し、バルスが遠くで闘っているのを見つけた。
「これはまた、バルス張っちゃけてるわね」
「貴女の為でもあるんですけどね。それよりユイアさん、あいつらを一人でいいので何とか確保できませんか?」
「おっけー、なんとかやってみる」
「とー!」
空からマリナが落下して来る。
その手には帝国兵が一体。
「おお、マリナ女王、ナイス!」
「とー!」
「よし、くらえ!!」
マリナが帝国兵を投げると、アンサーが思い切り切り裂く。
周囲一帯の帝国兵が突然血を噴き出し倒れた。
「クソ! この一撃は失敗だ」
「見える範囲しか撃破出来てないわね」
「次だ! バルス君に出来たんだ、私にだって出来る筈だ! 範囲を狭めるな。敵は世界中の同一人物。新日本帝国兵全員を、一撃で!!」
「とー!」
じゃあ次持って来る。
とマリナが去って行く。
そしてすぐに一体の帝国兵をドロップキック。倒れた男を引きずってやってきた。
「そりゃぁ!」
アンサーの一撃が男を切り裂く。
半径1キロ程の帝国兵が同時に死亡した。
「次!」
少しづつ、範囲が上がっている。
「まだまだッ!」
もっと効果範囲を広げなければ。
「これでどうだッ!!」
アンサーの会心の一撃。
帝国兵32000名に80000のダメージ。帝国兵を倒した。
「ダメだ! 次!」
「残念だけど……この近辺の帝国兵は今ので消えたみたい。バルスも助かったわ。ありがと」
「バカな!? 私はまだ殲滅させてない……」
いつの間にか付近一帯の帝国兵を増殖中諸共撃破してしまったらしいアンサー。悔しげに唸った次の瞬間、狂気の瞳で指笛を吹いた。
「次だ。次の戦場で必ず全滅させてやる。マリナ、来い!」
「とぉ!?」
驚くマリナを無理矢理引き連れ、アンサーは次の戦場向けて空へと羽ばたいたのだった。




