その旅団の存在を帝国兵は知らない
エルフ村周辺の森を、ランツェルは走っていた。
気を失ったプリカを背負い、背後には彼を追って来るアニアとスクーグズヌフラ。
そして周囲には帝国兵の群れ。
森に配置されたスプリガン達が相手をしてくれているが、倒しきった第一陣とは違い、戦車に戦闘機にと兵器に充実した第二陣相手では巨体のスプリガンでは良い的にしかなっていない。
「どうします、このままだと森諸共私達死にますよ」
「クソ、流石にこれは想定外だ。我々だけでは包囲を突破するのもキツそうだ」
「せめてプリカが意識取り戻せばなぁ、ランツェルお爺ちゃんの両手が開くんだけど」
「儂一人の実力などたかが知れておるよ。矢も心もとなくなっておるしな。このままじゃ……」
バキバキと、木々をなぎ倒し、何かがやってくる。
キュラキュラと聞こえる音に、ランツェルはプリカをスクーグズヌフラに預ける。
「どうやら、戦車とやらを無力化せねばならんらしいな」
「生身では無理だと思うよ。一応手伝うわ」
アニアが補助魔法を掛ける。
全て掛け終えると、丁度戦車が前方から出現した。
飛び込むように走るランツェルが砲塔が動くより先に内部にナイフを投げ入れ離脱。
側面に回り込みナイフをキャタピラに噛ませベルトを脱輪させる。
さらに真上を飛び越え逆のキャタピラに来ると、これもまたナイフ一本で無力化する。
そんな事には気付かない戦車はアニアたち向けて砲撃。
内部に異物があったが為に弾が暴発して砲身が爆散した。
内部から何だ? と慌てる声が聞こえる。
鋼鉄の棺桶から顔を出す兵士。その真上に立っていたランツェルは兵士がハッチを開き出て来た瞬間、その頭蓋にナイフを突き下ろす。
そのまま内部に入り込み、残りの兵士達を駆逐する。
全てを消し終えるとふぅっと息を吐いて戦車から出て来た。
「全く、随分と面倒な箱だな」
「ナイフだけで征圧するお爺ちゃんに驚きですよ?」
「ランツェルちゃん強いから。あ、ランツェル、後ろっ!!」
はっと気付いたランツェル。
どうやら二体目が居たらしい。砲塔をランツェルに向けている。
逃げようとしたがハッチから顔を出した状態のランツェルは、身体はまだ戦車の中だった。このままでは砲撃時に逃げ切れない。
焦るランツェルに砲塔が狙いを定める。
マズい、来る。
砲塔が砲弾を発射するその刹那。
戦車の真上からそいつは降って来た。
「グラビトン、ザンバーッ」
斧を中心に一撃。
戦車がひしゃげ、盛大に爆発する。
一撃を放った小柄な男は「ほっ」と一声。軽い掛け声を掛けながら飛び上がり、ランツェル前の地面に降り立った。
「よーおランツェル。随分と面白そうなことをしとるのぉ」
「おお、誰かと思えばドワーフのミッチェルか。久しいの。五百年振りくらいか」
「ラスフィー旅団解散した後は数回会っただけだったからの。いやー、世界危機と聞いてお前さん大丈夫かと見に来てやったわい」
ちょび髭の生えた子供くらいの背丈の爺さんがカッカと笑う。
「喜べランツェル。皆暇だったからお前さん助けに来てやったぞ。現存しとるの全員じゃ」
「なんと、それは心強い。久しぶりにラスフィ―旅団結成じゃな」
戦車から出て来たランツェルはミッチェルの横に来ると頭にぽんっと手を置く。
「オイコラ、また儂を子供扱いか」
「丁度手を置きやすい場所に頭があったのだ。許せ」
「そういう態度がお前さんは昔から好かんのだ。全く、耄碌爺が無茶しおって」
「孫が見ておったのだ。久々に滾ってしもうたわ」
「かー。そりゃ仕方ねぇわな。そら、付いて来い。皆が待っとる」
ミッチェルとランツェルが楽しげに笑いながら歩きだす。
アニアとスクーグズヌフラは顔を見合わせ小首を傾げ、二人に付いて行くのだった。
「凄い勢いで増殖しているな」
森を出た先では既に平原を埋め尽す程に増加した帝国兵相手に大火力の魔法を秒刻みで撃ち放つ魔族の女。
拳一つで戦車を吹き飛ばす巨漢の男。
指先を動かすだけで周囲を切り飛ばす糸目の龍人。
他にも幾多の種族が戦場を駆け巡っていた。
「おお、ルヴィーリアにガルグ、リンドも生きとったか」
「おや、そういうランツェルさんもお元気そうで」
「さすがエルフ。まだまだ若そうでいいわね。見てよこの身体。オバサンになってしまったわ」
「まだまだ魔王の娘と言える若さだぞルヴィーリア。流石に夫とは死に別れか」
「人間は千年生きれないわよ。でも、子供達が居るから私は幸せよ。ほいよ地獄炎の大地」
ルヴィーリアの目の前数十キロに渡る大地が急激に燃え盛る。
兵士達が叫び悶え息絶える。
「こら魔王の娘! 我を巻き込もうとしたか!?」
「あら、ごめん遊ばせガルグさん」
「ふん、次やったら殴り飛ばすからな」
ああ、この賑やかな感覚、懐かしいな。
思いがけず1000年前の旅団の皆に再会できたランツェルは、懐かしさに自然微笑むのだった。




