その増殖の真価を誰も知りたくなかった
「そろそろ諦めたらどうだ?」
忌々しげに吐き捨てる増殖の勇者。
リエラ、ケンジ、シャロン、カミュの四人はその言葉を無視して増殖を続けるコピー体を破壊している。
竜巻のような動きでコピー体を細切れにするリエラが徐々に近づいており、イラつきはピークに達しようとしていた。
トランシーバーからは各国で苦戦していると報告が矢継ぎ早にやってくる。
正直我慢の限界だった。
だから、彼は決断する。
「新日本帝国兵全軍に次ぐ。宝具解放! 無限増殖ッ」
増殖の勇者がそう告げた、瞬間だった。
シャロンの相手をしていたコピー体が二人に分身する。
今までコピー体が生み出されるのは増殖の勇者からだけだったからこそ数が増えても対処出来ていたが、コピー体全てが増殖を始めた今、その根底が覆る。
「くはははは。絶望しろよ勇者ちゃん。この俺、増殖の勇者の真価ってのはな、コピー体からもコピーを産みだせるんだよ! 世界各地の抵抗で新日本帝国軍が敗北寸前? こっちがわざと手を抜いてやってたに決まってんだろォが!!」
瞬く間に部屋を埋め尽し始める無数の増殖の勇者たち。
流石にマズいと思ったらしいケンジが即座に閃光弾を地面に放つ。
「嬢ちゃんこっちだ。急げ!」
「は、はい!!」
ケンジに引っ張られリエラが天井から脱出する。
事前に開けていた穴から外へと脱出すると、外にも無数の増殖の勇者が溢れていた。
「こりゃやべぇな」
「もはやどれが本物か分からないでありますね」
「逃げ場が……」
見渡す限り増殖の勇者だらけ、それをアカネとルグスが嬉々として潰しているのが見える。
「さってどうするか、このまま逃げるのが一番だが、あいつを放置する訳にもいかねぇよな」
「アカネさん達と合流しましょう。アレを駆逐するには大火力が一番ですし」
「それが一番か。……お? 光が一筋こっちに……」
近づいてくる光が一つ、ケンジ達へと近づいてくる。
間近に迫ると、その光が、中央に居る生物より放たれていることに気付く。
その姿が、ひょんひょんひょんとスプリンター走りする老婆。
「ば、ババァ――――――――ッ!!?」
光と共にババァが走る。
無数の光が付き従うように付いて来て、無数のババァが戦場へと参戦して来た。
さらに後方より帝国兵を薙ぎ散らし進む力士たちの群れ。
別方向からは爆風。
投下されたマターラが爆発しているようだ。
時間を開けつつも連続していることから、落下させて爆発させてから再召喚を繰り返しているのだろう。
「世紀末、だなぁ」
「増え続ける邪神の勇者対空埋め尽くす後光差すお婆さんの群れ……でありますか」
それはまさに世紀末。
天の御使いババァと地上を埋め尽す邪神の軍勢の戦争だった。
「まっほう!」
マホがやってくる。
どうやら復活できたようで、リエラの横にやってくると、乗れ。とばかりにジェスチャーしてくる。
「リエラさん、ここにマターラ落とします、マホウドリに乗って早急に脱出を!」
「セキトリさん。待ってください、ここにはまだ仲間が」
「あー、気にすんな。ここに来る時専用の鳥に乗って来たんだわ」
と、ケンジの言葉のすぐ後にシャロンが指笛を吹く。
どこに隠れていたのだろうか、ばっさばっさとやってくる空軍カモメが三羽。
なぜか皆涙目でケンジ達の側にやってくると、ケンジ達が即座に乗り、一斉に羽ばたく。
遅れ、マターラが国会議事堂に投下。
盛大な爆発と共に国会議事堂だったモノが一瞬で消し飛んだ。
議事堂内に溢れていただろうコピー体が爆散して周囲に飛び散る。
「おいおい、もしかして今ので撃破出来たんじゃないか?」
「いえ。だめです。というより、どうやらアレもコピー体だったみたいですね」
溜息と共にリエラが答える。
ケンジはマジかよ。と呆れた顔で周囲を見回すが、どれも同じ顔のコピー体なため本人がどこに居るのかすら分からない。
「振り出しに戻る、か。確かにコピー体自体がコピーできるってんなら本物が総統してる意味は無いよな」
これではそもそもこの近辺に増殖の勇者が居るのかどうかすらわからない。
完全に見失ってしまった彼を見付けるにはリエラ達では不可能だった。
「リエラさん、マターラで吹き飛ばせませんでしたか!?」
淡い期待を込めて近づいて来たセキトリに首を振って否定する。
「ダメですね。本体を倒せば死体が残る筈です」
「じゃあ、本体が偶然倒せるまで空爆を行うしかなさそうですね。行くゾマターラ!」
そう告げて、セキトリが去って行く。
「リエラさん、心して聞いてください」
「クルルカさん?」
セキトリと行動を共にしていたクルルカが告げる。
「タロットが告げています。カード名は世界。運命の輪が回り始めました」
「え? それってどういう……」
「貴女の運命に、幸運を……」
リエラの言葉に答えることなくクルルカはセキトリを追って去って行く。
けれど、なぜだろう。運命という言葉に、嫌な予感しかしてこなかった。
何か、大切なモノを失うような……そんな、気がした……




