その敗北を少女は知りたくなかった
「はぁッ!」
気合い一線、飛びかかって来たコピー体を切り裂く。
返す刀で迫る二体を撃破し、バックステップと同時にもう一本のアルセ神ソードを引き抜き背後に一線。
遅れ前方に迫るコピー体を持っていた剣で斬り伏せる。
着地と同時に飛び上がり、前面の男の顎を蹴り抜く。
回転しながら周囲を切り裂き、真後ろの男に着地。
頭を圧し折り、彼を足場に飛び上がると、別の一角へと飛び込み周囲の首を切り裂いて行く。
次々に消えるコピー体。
しかし増殖をし続けるコピー体がその損失を補填していく。
一体が消えるたびに二体増え、二体を斬れば四体増える。
瞬く間に室内が増殖の勇者で一杯になる。
もはやリエラは彼らを足場に軽業を披露しながら切り裂いて行くしか出来なくなっていた。
少しでも地面に着地してしまえば即座に彼らに拘束されてしまうだろう。
幾ら剣技に優れ、速度を持っていようとも、男達の群れに拘束されてしまえば無力化させられかねない。
一瞬の油断も出来ず、同じ顔の中から総大将を見付け撃破しなければならない。
しかも、たった一人。そう、自分一人だけで、だ。
「負けられないっ」
「はっ。バカが。既にテメーは詰んでるっつの。増殖の波に呑まれて散れ。嬲りまくってやるぜ」
「アルセ。お願いっ」
懐から取り出す種をばら撒く。
地面ではなく床だったが見る見るうちに成長し、アルセギンたちが産声を上げた。
「なんだ? 幼女?」
「馬鹿野郎。それは……」
パン。
一人が破裂すると同時に連鎖して破裂し始めるアルセギン。
当然周囲に飛散するタマネギ臭と共に男達の眼と鼻にダイレクトアッタク。
「ぎゃああああああああああああああ!?」
眼を押さえのたうちまわる男達を斬り伏せる。
当然ながら状態異常の効かないリエラだけはこの状況でも普通に移動することが出来、増殖してはのたうちまわるコピー達を次々と斬り裂いて行く。
「これならっ、行け……」
自分ならばやれる。
どこかでそんな自信があった。
自分だけがやれる。
どこかにそんな慢心があった。
油断はしていなかったつもりだ。
ただ、眼が見えていないから大丈夫。そう思った男の一人が、リエラの足を掴み取る。
気付いた時には遅かった。
思い切り引かれ、床に投げ捨てられる。
慌てて身体を起こそうとするが、男達が覆いかぶさるようにして動きを封じて来た。
手から剣が奪われる。
全身が拘束される。
「確保……確保したぞ――――ッ!!」
「よくやった! はは。どうした勇者ちゃん。所詮一人の実力なんてこんなもんさ!」
「まだ……っ」
まだ、負けはしない。自分が動けなくなった程度でこの世界は……
「だが、お前は終わりだ」
ゾクリ。全身が粟立った。
ああ、そうだ。自分は、無理だ。
この状態から何かできる方法が思いつかない。
いや、一つだけ。
自分がどうなるかも分からないけれど、一つだけ、ある。
『グーレイ教本国襲撃ステルス2より、00へ! 投下! 本機は撃墜されるが投下しまし……』
『こちらステルス1、マイネフラン上空だ。バカ面下げた国民が全員俺を見てやがるぜ。そら、核爆弾投下ってなぁ! 死ね、異世界人共。ははははははっ』
デスクに置かれていたトランシーバー本機より二つの通信が入る。
「クク、聞いたか勇者ちゃん。グーレイ教のコピー体は撃墜されたみたいだが爆弾は投下。マイネフランも投下したらしい。両方、ドカン。お前の守りたい国が二つ消えたぞ」
その言葉に、愕然とする。
グーレイ本国にはアカネとルグスとにゃんだー探険隊が居た筈だ。
いや、それだけじゃない。ポンタを初めとしたグーレイ本国の人々が数千、数万といたはずなのだ。
マイネフランだって、カインやネッテが居た筈だ。
そんな国々が、消えた?
あり得ない言葉にリエラは自身が拘束されていることも忘れて呆然とする。
「信じられないって面だな。今の爆弾って奴はな俺らの世界で核爆弾っつーもんなんだぜ。半径数十キロに渡って吹き飛ぶ特別製。しかも以後放射能が大地を汚染し人の住めなくなるっつー代物だ。最悪だろ? お前らがどれ程個々に奮闘してもな、国ごとバン。一瞬で消滅だ」
「そん……な」
「負けたんだよっ。テメーらは」
だから諦めろ。
愕然とするリエラに顔を寄せ、下卑た笑みで告げる増殖の勇者。
本当に? 皆死んでしまったのだろうか? そんなの信じられない。信じたくない。
心が揺れる。壊れてしまいそうになる。
誰か、生きてると、皆無事だと私に教えて、そしたら、頑張れるから。まだ、負けないから、だから……透明人間さん――――っ。
刹那、光の柱が立ち昇った。
デスク後ろの全身窓から強い光が差し込む。
まるで、こちらは大丈夫だ。そう告げるような、無数の光の柱。
「なん……だ?」
「何ってそりゃぁよぉ……好機だろ」
光に増殖の勇者たちが気を取られた一瞬。
そいつらは天井から降ってきた。




