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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十六部 第一話 その集う者たちを彼らは知りたくなかった
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その少女の侵入を男は知る気がない

「なんじゃい小娘」


「えー、っと、あなたは勇者、ですか?」


 開けた扉の先にあったのは鍛冶場だった。

 真っ赤に燃えた竈と、灼熱した鉄か何かを加工している老人が一人。汗を流しながら手にしたハンマーで金属を打つ。


「錬成の勇者だ。それがどうした」


「私はリエラ。アルセ姫護衛騎士団をリーダーをしてます」


「ああ、この世界の抵抗勢力か」


 それだけ告げて再び金属を叩きはじめる。


「え……と。敵、ですよ?」


「だからどうした? 儂がやるのはこうして武器を作るだけ。使うのは他の勇者ども、儂は武器を作るだけなんじゃ」


「だから、見逃せ、と?」


「見逃せなど言うつもりは、ないわいっ」


 がんっとハンマーを打ちおろし、汗を拭う。


「儂には作るしか能が無い。じゃから死ぬまで作り続ける。女神との契約はそれだけじゃ。作ったもんを誰が使いどうしようと儂は知らん。お前さんに殺されようと、息絶えるその時までただ作るだけ、殺すなら好きに殺せ」


 それだけ告げて、錬成の勇者はただひたすらに武器を作る。


「……総大将の居場所を教えてください」


「右の扉から真っ直ぐ、突き辺りの部屋じゃ」


「後でまた、来ます」


「ふん、好きにしろ」


 リエラは静かに扉を閉めた。

 彼は本当に、武器を作ることしか頭にないのだろう。

 リエラとは最初に入った時以外視線すら合わせようとしなかった。


 鍛冶場を後にして言われた扉から通路に侵入、そのまま突き辺りの部屋まで各部屋の確認すらせずに向かう。

 場所が分かっているならばさっさと決着をつけたかったのだ。

 こうしている間にも世界各地で悲劇が生まれている。

 敵の首魁を早々叩くのがリエラの使命であるのだから。


 総統室と書かれた場所に辿り着く。

 どうやら彼は真実を告げていたようだ。

 本当にリエラが自分を殺しに来ようが、首魁を討とうが関係ないらしい。


 職人だなぁ。と苦笑して、リエラは扉を開いた。

 鼠色の絨毯が敷かれた部屋だった。

 リエラの前方には来客用のテーブルとそれを囲むソファ。

 そしてその奥に、一つのデスクとガラスでできた床から天井まである大型の窓。


 窓を背にして座る男が一人。

 デスクに両肘を突き、両手を顔の前で組み合わせ、じぃっとリエラを見つめていた。

 先程まで相手をしていた兵士達と同じ顔の男だ。


「よくぞ来た。この世界の勇者よ」


「勇者ではありませんけどね。貴方が、首魁ですか」


「然り、俺こそが増殖の勇者にして新日本帝国総統。まさかここに一人で来るやつが居るとはな」


 ゆっくりと、男は立ち上がる。

 軍服にサーベルを帯剣し、男はデスクを迂回しリエラの前にやってくる。


「いい女だ。若々しく血気盛ん。どのような声で鳴いてくれるか楽しみだな」


「何を想像しているか知りませんが、貴方の思うようには行かないと思いますよ」


 リエラの宣言に、増殖の勇者はニヤリと笑みを浮かべる。

 鞘からサーベルを引き抜き、リエラに突きつけた。


「掛かれ!」


「っ!?」


 ソファを突き破り、テーブルを跳ねあげ、無数の兵士が部屋に出現する。

 先程まで居なかった筈の男達。

 その全てが目の前の増殖の勇者と瓜二つだった。


「これが、貴方の能力!」


「増殖さ。自分自身をコピーして同じ存在を無数に作りだす。最高だろう? 俺はここで高みの見物していれば増殖した俺達が勝手に他国を侵略してくれる」


「ですが、貴方を倒せばそれで終わり、でしょう!」


 剣閃が煌めく。

 瞬きすら許さぬ間に飛びかかった数人が切り裂かれ、霞みのように消えて行く。


「はっ!」


 一息で五体、否、六体を撃破し、息を吸い込む瞬間で四体を屠る。

 しかし出現する増殖の勇者は徐々にその人数を増やし、十、二十と増えて行く。


「どうしたどうした? 俺はどんどん増えるぞ? 既に部屋は俺だらけ、孤軍奮闘大いに結構。お前が無様に倒れる姿が今から楽しみだ。いいか、最初は俺だ。俺が満足したらお前らが遊んでいいからな」


 増殖の勇者の言葉にコピー体が不満を漏らす。

 皆が増殖の勇者のため自己主張は強いようだ。

 一部が喧嘩を始めるが、他のコピー体諸共リエラが一薙ぎにして消し去った。


「無限斬応龍煉舞!」


「うお!? 見えないっ!?」


「お、お前ら俺を守れ!」


「いや俺だろ。俺を守れよ」


「つか俺が本物だから守……ぐあぁ!?」


 次々に生まれては消えて行くコピー体。

 折角増えたのに一気に数が減り、リエラの剣先が増殖の勇者の鼻先をかすめる。


「あぶねぇ!? なんつー速度だ」


「こ、拘束だ! この人数なら女一人訳ないぞ!」


「だが、斬り殺されるだろ、俺は嫌だぞ!?」


「どうせコピー体だろうが! さっさとやれよテメーらっ!!」


 一斉に、武器を投げ捨てリエラの拘束に切り替えたコピー体の群れ。

 涅槃寂静にブースト系を全て重ね掛けしたリエラを相手では、ド素人な動きを見せる彼らはただただ薙ぎ散らされるだけの存在にしかなれなかった。

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