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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十六部 第一話 その集う者たちを彼らは知りたくなかった
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その少女の耐性を彼女は知りたくなかった

「無限斬応龍煉舞!」


 その光景を、彼らは実際に体験しながらも、誰も彼もが理解できなかった。

 ただ、無数の斬撃が周囲に飛び交った気がした。

 次の瞬間には近くの兵士が細切れになり、自身もまた細切れになって消失していた。

 帝国兵たちはそのくらいしか理解できなかった。


 知覚範囲外の超高速で動くリエラは残像を残しながら無数の斬撃を放つ。

 周囲全ての兵士と銃弾を切り裂き、彼女が中央に戻った時には、既に周囲全ての敵を斬り終えた後だった。

 遅れ、時間が戻ったように兵士達が消え去る。

 銃弾が割れ、地面に落下し、ランチャーの弾がその場で爆散する。


「ふぅ、とりあえず、しばらくは敵居ないかな」


 息を整え周囲を見回す。

 とりあえずの危機は去った。

 危機と呼べるほどの物ではなかったが、落ち付いて探索が出来るのはありがたい。


「広いから敵の首魁を探すのは骨かなぁ。とりあえずあそこの大きな扉に居ないかな?」


 と、巨大な扉を開いてみる。

 食堂だった。

 非常事態なのは伝わっていたようでここには誰もいない。

 食べかけの食事がいくつか残されている程度だ。


 そのまま食堂を通り過ぎ、向いにあった扉を開く。

 そこに、一人の女性が居た。


「ありゃ、何か用かな?」


「ここは……厨房」


「ちょうどいいや、お姉さん、新作作ってみたんだけど試食してくれない?」


 と、そこにいた女性がリエラの元へスープを持って来る。

 自分はこの国の住民じゃない。告げようとしたリエラだったが、料理人と思しき女性は気にせず皿を差し出しスプーンをリエラに持たせる。


「はい、どうぞ」


「え、えーっと、じゃあ一口」


 結局笑顔の圧力に負け、リエラはスープを掬って飲んでみる。

 結構おいしい。

 と、思ったのもつかの間、全身に痺れが走った。

 思わずスプーンを取り落とす。


「あは。飲んだ? 飲んじゃった?」


 嗤いがあった。

 驚いたリエラが振り向けば、目の前の女が下卑た笑みを浮かべていた。


「バッカだねぇ。敵陣真っ只中で出された食事だよ、普通素直に食べる? この世界の勇者さんはおめでたいねー。バーカバーカ。お味はどーお? 新作のクラーレスープ。マチン科マチン属の毒薬の王」


「クラー……レ?」


「うん。そう、効能は意識を残したまま麻痺させて、そのまま死んじゃうってところかな。物凄い強力だから数年経っても毒が有効になるのだよ」


 そんなモノを、食事として出した。

 それはすなわち侵入者であるリエラを毒殺するために。

 なぜならば、彼女は……


「初めまして、私は料理の勇者。そしてさようならこの世界の勇者様」


 くすくすと笑う。

 あはははと哂う。

 バカな奴と嗤う。


 料理の勇者の声を聞きながら、次第身体が麻痺して……いかないので、リエラはアルセ神ソードで思い切り料理の勇者を切り裂いた。


「がぁ!? え? あれ?」


 衝撃で倒れた料理の勇者。

 袈裟懸けに斬られた身体を触り、両手に着いたおびただしい量の血を見て愕然とする。


「あれ? あれれ?」


「油断したのは認めます。ですが迂闊だったのではありません」


 ふぅっと溜息を吐き、リエラは剣を仕舞う。


「差し出された食事は食べる。相手が本当に好意からであれば好意で返すために、です。でも、残念ながら、貴女は結局敵でした。だから、遠慮の必要が無い」


「な、なんで? なんでっ!? クラーレよ!? 一口食べれば即死物の劇物よ!? なんで……」


「ごめんなさいね、私、超健常ですので」


 リエラに毒物は効かない。

 常に健康体の彼女に毒殺は無効化されるのだ。

 つまり、初めからどれ程毒を入れていようとリエラをどうにかするのは不可能だった。それを知らず行った料理の勇者は自分から斬り殺されに来たようなモノであった。


「ま、待って。味噌汁、これから一生貴女の為にご飯作るから、だから見逃し……」


「雷鳥……瞬獄殺ッ!!」


「い、いやああぁぁぁ――――――……」


 ライジング・アッパーからの斬撃が料理の勇者を直撃した。

 すたり、地面に降りたリエラが再び剣を仕舞うのと、ボロ雑巾のように地面に落下した料理の勇者がどさりと倒れ伏したのは同時だった。


「ふぅ、私もまだまだ甘いですね。とりあえず、この人は危険だから縛っとこう」


 ついつい手加減してしまった。

 自分の甘さに被りを振って、リエラは女性を拘束、調理場にはもう用事が無いのでその場に料理の勇者を蹴転がし、別の部屋探索を始めるリエラであった。

 食堂を抜け、怪しい場所を探す。丁度頭上にあった扉を見て、二階が怪しいと踏む。

 エントランス部分から緩やかなカーブを描く階段を上り、二階の大きな扉を開いた。


 そこでは、半裸のおっさんが熱心に鉄を打っている姿があった。

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