その少女の侵入を彼女は知りたくなかった
新日本帝国軍本部。
無数のビルが立ち並び、アスファルトによって舗装された道路が張り巡らされたコンクリートジャングルを、一人の少女が走っていた。
リエラ・アルトバイエ。
それが彼女の名だ。
たった一振りのアルセ神ソードを手に、アスファルトの大地を踏みしめ走るその少女に、ビルの角から軍靴が迫る。
右から、左から、無数の帝国兵が現れる。
手に持っているのは様々な武器。
そのどれもが銃器と呼ばれる鉄製の物で、遠く離れた場所から相手を狙撃し、無抵抗の状態で蜂の巣にしてしまう凶悪な武器であった。
発砲音と共に無数の銃弾が少女を襲う。
しかし走る少女は意に介さない。
ただ一点だけを見つめ、ひたすらに走り続ける。
否、よくよく見れば分かるだろう。
少女は常に、声を出し続けていた。
小さく、聞き取れない程に小さい声で、繰り返す。
「私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ私がやらなきゃ……」
ただひたすらに、自身を追い詰め続ける。
プレッシャーを掛け続け、常に胃に穴を開け、重圧にまさる重圧を自身に掛けて行く。
だが、それこそが彼女のスキル。
自身を追い込むことで、涅槃寂静へと至る方法なのである。
リエラの周囲から音が消える。
自分以外が止まった世界。
迫る銃弾の雨嵐に、リエラは迷わず突っ込んだ。
四方八方から迫る銃撃をわずかな隙間を潜り抜け、時に弾き、時に避け、ぶれることなく敵陣を突破する。
「クソ、包囲を突破されたぞ!」
「逃すなッ、総指令本部に辿り着く前に殺せッ!」
「殺せったって、あんな動きする奴どうしろっつーんだよ!? マ○リックスかよ!」
空中で身を捻り全ての銃弾を躱しながら投げナイフを投げて来る。
兵士はこれを避けることすらできずに数体撃破され、リエラを取り逃がす。
「追ってる俺達が死んでどうするっ! つかマジでバケモノかよあの女!」
「クソッ、これだけ銃弾が飛び交ってんだぞ!? 一撃も掠らないってどうなってんだよ!?」
「幻影斬華!」
「三人に別れた!?」
「幻覚だ阿呆っ、とにかく撃て!」
リエラが幻影を使い三人に別れる。
当然狙いを分散させた為に兵士達からの銃撃が少なくなり、避けやすくなった。
リエラは彼らを撒きながら総本部が存在する国会議事堂へと辿り着く。
そのまま止まることなく前門へ。
「双牙斬」
カギ穴を二連撃で破壊して、蹴りでドアをブチ破る。
丁度脱出しようとしていた女と眼が合った。
「え?」
「っ! スタンラッ……」
「こ、降参っ!」
慌てて両手を上げてホールドアップ状態になる女に、リエラは慌てて剣を押し留める。
動きが止まったせいで兵士達が追い付きリエラ達を取り囲む。
銃撃を行って来るかと思ったリエラだったが、何故か皆銃撃を止めて包囲に切り替えていた。
どうやら目の前にいる女を傷付けないようにしているらしい。
「あなたが、この世界の勇者ね」
「勇者かどうかは分かりませんが、貴女は?」
「知識創造の勇者。この国がもう持ちそうにないから出て行くところよ。素直に見逃してくれないかしら」
見逃せる訳が無かった。
相手は女神の勇者の一人。
ならば今ここで打ち倒すのが一番いい。
「いいのかしら? 兵士達が貴女を撃って来ないのは、私と話しているからよ、私達勇者に同じ勇者の攻撃は効かない。つまり、銃弾を今撃たれても、貴女だけが死ぬのよ」
「そうですか。つまり、彼らよりは上位ということですね、貴女は」
ならば、やはり倒すしかない。
剣を握り直すリエラにふっと女は笑みを浮かべた。
「いいえ、彼ら増殖の勇者と私は同位よ。勇者たちに上位は無いわ。私は平穏無事に本だけ読んでいたいだけ。貴女の邪魔にはならないわよ」
「……」
女の言葉が本当であれば、彼女は見逃しても構わないだろう。
だが、嘘であったなら? この者こそが首魁であったなら?
リエラは迷う。
このまま見逃していいものか。
「行ってください。私の気が変わらないうちに」
「あら、ふふ。物分かりが良い人は好きよ。ありがとう、優しい勇者さん」
不敵に笑って女が去る。
そして残されたのは、兵士達に包囲されたリエラのみ。結局彼女が居てもいなくても銃撃が始まることは確定だった。
「追い詰めたぞ、女っ」
「さんざん手こずらせやがって!」
「俺の奴隷にしてやるっ、生け捕りだ!!」
「生け捕りになどなる訳ないでしょう。これ以上は面倒なので早々駆逐するために立ち止まっただけです」
ふぅ、と息を吐くリエラ。
無数の銃口が構えられる。
「ってぇ!!」
「ステータステラブースト、光速突破……涅槃、寂静ッ!! ミックススキル発動、弾指那由他斬、角龍乱舞、ミックス!」
リエラが走る。
自身の最高の力をさらに高め、敵陣真っ只中へと飛び込んだ。
「無限斬応龍煉舞!」




