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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十六部 第一話 その集う者たちを彼らは知りたくなかった
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その光る流星雨の正体を誰も知りたくなかった

「おお……おおぉ――――――――……」


 少女の嘆きが世界を掛けた。

 仲間を目の前で失った少女の慟哭。

 その切ない悲鳴に、彼らは空を見上げた。


 泣いている。

 あの少女が、泣いている。

 ああ……行かなければっ。


 世界中で、彼らは動き出した。

 彼らの出陣に、居残ることを決意した者たちは盛大に声援を送る。

 頑張って、あの子を救ってきて。

 そんな思いを込めた、歌を。




 少女は空を舞っていた。

 ダーリティアの戦場で、撤退したリファイン、そして満足に指揮が出来ないメイリャの為に、戦車部隊の中にいた凶悪な二重戦車を倒すため、彼女は犠牲になる決意をしたのだ。


 ローアの炎熱とハイネスの暴風。

 暴風に巻き込まれた彼女、テッテは空に舞いあげられていた。

 自分以外にも沢山の兵士が巻き添えになり、炎熱に焼かれて息絶えている。

 運がいい事にテッテは早々巻き上げられたのでまだ炎熱が彼女にまで襲いかかっていないだけで、きっと時間の問題だろう。


 そもそも竜巻に巻き上げられた状態なのだ。上まで行ってしまえばあとは落下するだけ。

 暁に染まる空を見る。

 私、死ぬんだ……

 あの人に、結局告白、できなかったなぁ……


 涙がこぼれる。

 風に煽られたツインテールがばしばしと頬を叩く。

 それでも彼女は空を見ていた。

 ずっと見ていた。最後まで見ているつもりだった。

 この綺麗な夕焼けを、目に焼き付ける。

 どうせ死ぬなら、ここで死ぬのなら、せめて、このくらいの我儘くらい、やらせてほしい。

 だから神様、皆を……救って。


 彼は大丈夫だろうか?

 私が死んだら悲しんでくれるだろうか?

 いや、もしかしたら、リエラと一緒に幸せになるだけかもしれない。


 リエラと一緒に笑い合う、姿すら見えない誰かに思い馳せ、ふと、気付く。

 光の柱が、登っていた。

 遥か遠くの空に、無数の光が尾を引いて立ち昇っていた。

 まるで無数の魂が空へと消えて行くような、幻想的な風景。


 なんだろう? 思った瞬間、浮遊感。

 ついで落下が始まった。

 直ぐ横を炎熱が駆け上がって行く。

 一瞬でも遅れていれば、あの炎に巻き込まれて焼死していただろう。


 炎熱からは逃れられたが、落下すればこの高所、確実に死ぬだろう。

 近接の物理攻撃は効かない、でも落下ダメージは? きっとハイネスの魔法攻撃のダメージとして普通に通ってしまうだろう。

 つまり――死ぬ。


 光が爆ぜた。

 無数の光に分かたれ、世界各地に拡散していく。

 綺麗な光景だった。

 これは、もしかしたら御褒美なのだろうか?

 自己犠牲で皆を救った、神様からの御褒美……?


 ――おまえとばばぁのやくそくさぁ おまえがなげきかなしむときは、いーつでもどーこでもやってくる――


 歌が、聞こえた。

 遥か遠くから世界中に向けて、耳障りな老婆たちの声がする。

 光の一つが自分に近づいてくる。

 光の姿が露わになるにつれ、テッテはぞっとした。


 ――まごをなかせたわるいやつ、ばばぁはけっしてゆるさない――


 光の中に、老婆が見えた。

 駆け寄ってくる老婆。慌てて逃げようとするが空中なので身動きが取れない。

 嫌だ。何か嫌だっ。


 ――ばばぁがくるぜ、ばばぁがやるぜ、せっかいのはてからむすうにくるぜ――


 無数のババァが光を纏って世界を駆ける。

 その一人が、テッテの身体を抱き上げた。

 あの人だったらどれ程良かったか、他の男でもまだマシだった。

 でも、お姫様抱っこされる相手が、しわくちゃの老婆は、無い。これは無い。


 ――ばばぁはくるぜ、ばばぁはやるぜ ひっかりのはやさでふってくる――


 老女たちの声が世界に響く。

 無数の老女が戦場を光の速さで駆け廻り、空より降りて兵士の唇を奪って行く。

 絶望的な悪夢が、そこにはあった。


 ――きょぉはばーばぁのりゅーせいうー。わーあるいやーつはばばぁにまかせ、おまえはただただみていーろよ――


 地上に下ろされたテッテにウインク一つ。ババァは他のババァに合流して敵兵士を撃破していく。


 ――ばばぁがくるぜ、ばばぁがやるぜ、うっちゅうをこえていせかいまでも――


 世界中に、光のババアが降り注ぐ。

 それはまさに世紀末のような光景だった。

 救われたテッテは完全に力が抜け、その場に座り込む。


 ――ばばぁはくるぜ、ばばぁはやるぜ ひっかりこーえてとんでくる――


「テッテ!」


 コータとローアが駆け寄ってくる。

 ローアに抱きしめられるテッテ。

 その虚空をさまよう視線の先には、無数のババァが飛び交っていた。


 ――あーあー、ばばあ。ばーばぁ、ばーばぁ――


 光が帝国兵を駆逐していく。

 折角現れた第三部隊も、光速で飛来するババァの群れになすすべなくその唇を奪われ消え去るのであった。

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