AE(アナザー・エピソード)その勇者が居ることを帝国兵は知りたくなかった
「真空波斬!」
マイネフラン王城の屋根で剣を振るカイン。その前方に迫っていた戦闘機が真っ二つに引き裂かれ、王城の屋根を中心に裂けながら墜落して行く。
「っし、次だ!」
「ピーッ!」
どうやら敵軍を押し返したらしい。
闘う相手が居なくなり暇になったハーピー達が飛び立ち、戦闘機の群れへと向かい始めた。
さらに空軍カモメ、ウミネッコ、ペリルカーン、マホウドリの大軍が戦闘機向けて飛翔する。
「流石アルセだな。ありがたいこった」
人差し指で鼻をこすってカインは笑う。
本来であれば絶望的な闘いだった。
空を舞う数百の戦闘機。
敵対出来るのは自分だけ。
死力を尽くしてもまだ届かない。そんな気分を味わう筈だった。
けれど今は違う。
魔物達が手伝ってくれているのだ。
魔物の王国マイネフラン。そんなふうに呼ばれている真価が発揮された気分である。
それもこれもアルセの御蔭だ。
彼女と冒険していたから、自分は勇者の高みに至れた。課金勇者ではなく、本当の意味での勇者。そして沢山の仲間が増えた。
ネッテと二人だけだったならこんな結末には至らなかっただろう。
二人しか居なかったから、きっとただの冒険者としてマイネフラン城門を守る部隊に配属されていた筈だ。否、そもそもゴブリン大襲撃で死んでいたかもしれない。
「ああクソ、俺なんかよりホント、救国の英雄だよな」
カインは知っている。
本当に凄いのはアルセじゃないってことに。
カインは知っている。
誰も彼も気付いていない、存在すら知られていなかった誰かがいることに。
カインは知っている。
アルセを守りながら、同じ仲間になったカイン達を、国を、世界を守っている名も知らない誰かが居ることに。
「……負けられねぇよな」
あいつに比べれば自分を勇者なんて呼ぶのはおこがましい。
でも、自分は勇者だ。たった一人を守るための英雄だ。
彼女が幸せに笑っていられる世界の為にも、負けるわけにはいかなかった。
迫る戦闘機を叩っ斬る。
ペリルカーンたちが戦闘機に突撃してバードアタック。フロントガラスというべきか、ハッチ部分が割れた機体から墜落を始める。
傷付き倒れた鳥たちは、地面に待機していたアルセ教信者達が抱きとめ、回復魔弾を打ち込んでいる。
即死には効かないが、少しでも息があれば再び動き出し、バードアタックを再敢行するペリルカーンたち。
決死の覚悟で国を守ってくれる鳥たちに、感謝の念が絶えない。
あいつらの決意にも、負けてなどいられない。
全力で、この国を守り切る。
背中に感じる、アルセ教教会に居る最愛のネッテの気配がカインの実力をさらに引き上げる。
負ける気はしない。
どれ程長引こうとも、どれ程絶望的になろうとも、彼女さえいれば闘える。
「我が名はマイネフラン国王カインだっ、覚悟しとけよ新日本帝国兵ッ、この国にちょっかい掛けた報いってものを味あわせてやるッ」
ピッカ率いるハーピーの群れが機銃に対抗して射撃を行う。
まさか向こうから銃撃を受けると思っていなかった戦闘機部隊。
間横からの連撃にはなすすべなく撃破されて行く。
どうやら地上部隊だけだろうと高をくくって対空戦の用意はしてこなかったようだ。
一部機銃を横に向けようとした者もいたが、操縦を誤り自分から墜落をして行った。
さらにハーピーの一人が巨大な砲塔を持って飛び上がり、戦闘機に発射。
巨大弾頭がヒュルヒュルと音を鳴らしながら着弾。盛大な爆発が起こる。
「おお? ありゃなんだっけ、ロケットランチャー? 凄いの撃ちやがったな」
「足、外れた、痛い」
撃ったハーピーがよろよろとカインの元へやってきた。
どうやら撃った衝撃に耐えきれず大腿骨がずれたようだ。
両足で撃ったせいだろうと当りを付けて、骨を嵌めてみる。
ピィーッ!? と叫びをあげたハーピー、噛みついて来ようとしたが、すぐに足が痛くなくなったのに気付いたようで、動く動くと喜びながら去って行った。
「相手の武器は反動が強いみたいだな、まぁどうでもいいが」
使う気が無いので本当にどうでも良かった。
しかし、ロケットランチャーを使い始めたハーピー達が、カインなら外れても直せるということで何匹もやってき出したのでカインが攻撃する暇が無くなってくる。
その分ハーピー達が頑張ってくれているのだが、ハーピーの脱臼を直す作業員になってしまっているカインとしては複雑な気持ちでいっぱいだった。
「うおおおおお、ダブルロケットぉぉぉ……」
「止めとけハーピークイーン、それで脱臼しても填めねーぞ」
「えぇ!? 理不尽」
「お前がな」
はぁ。と溜息を吐くカイン。だが、次の瞬間言い知れぬ悪寒を感じてばっと顔をあげる。
遥か遠く、一機の戦闘機が見えた。
ただの戦闘機とは違う。黒塗りの平べったい形をした戦闘機。
そいつが近づいてくるほどに、全身を危機感が駆け抜ける。
悪夢近づいてくる。そんな予感に、唇を噛みしめるのだった。




