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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのかけがえなき犠牲を彼女は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その友の死が齎すモノを帝国軍は知りたくなかった

「ごふ……ッ」


 どさり、地面に倒れ伏した音で、ミーザルは気付いた。

 眼を瞑ったままの彼には何が起こったのか正確に見ることはできなかったが、長年の感覚で理解出来る。

 宿敵が、自分を庇ったのだ。


「ウキィ!?」


「っしゃ! 一体撃破っ」


「馬鹿野郎横だッ!」


 イエイエ康へと駆け寄るミーザル。

 イエイエ康を撃ち取った男はヨイドレのお土産に頭をカチ割られて倒れ伏す。

 ミーザル達を守るように敵陣に迫る魔物達の御蔭で、しばしミーザル周辺に空白地帯が出来上がった。


「ウキィッ!?」


 無事かイエイエ康!?

 ミーザルは叫びながらイエイエ康の上半身を抱き上げる。

 イエイエ康の胸に一発の銃弾が貫いており、それは心臓に達していた。


「ふ……また、儂の敗北か」


「ウキィッ!!」


 そんな訳あるかっ、あんたが庇ってくれなければ俺は……

 死んでいた。そう告げるミーザルに、イエイエ康はイェイと力無く微笑む。

 震える手で彼の頬を触り、血を吐きながらも必死に声を出す。


「我が……宿敵ともよ」


「ウキィ」


 もう喋るな。必死に告げるミーザルを無視して、イエイエ康は最後の力を振り絞るように声を出す。


「自己主張の星と成れ、くや……しいが……儂が認めよう」


「うき?」


「そなた、こそ……自己主張の、頂……点……に向かえ、る……者」


「うきぃ……」


 お前だって自己主張の強さは負けてない。

 そう告げるミーザルに、満足げにイエイエ康は微笑む。


「そなたは、唯一つの……主張者と、なれ……次の、儂が……越えてやる」


「ウキィ!」


 ああ、それでいい。俺も負けない。自己主張はまた俺が勝つ。


「ああ、猿よ。そなたは猿だ。自己主張強き、猿となれ……」


「うきぃ?」


「名を、与えよう。サル。そう、そなたの、名は、サルだ。猿を冠す全ての物がそなたを差す、どの猿を告げてもそこにそなたの名が存在する。猿の中のサル。自己主張の強過ぎる猿の名よ」


「ウキァ」


 俺の名は……サル? 猿の中のサル。猿はサルを指し示し、常にミーザルその者を指し示す。他者が猿と呼べばすなわちサルを差すことになる。

 つまり、他者は知らず彼を認識し、彼の名を呼ぶのだ。全ての猿を呼ぶ時、自己主張強きサルが呼ばれ続ける。

 ああ、それは、まさに有名な存在だ。


「我が、宿敵ともよ……自己主張の先へ至れ、イェイ……」


 最後に開いた手でピースサインを作り、イエイエ康から力が抜けた。

 ミーザルは涙を流し、光の消えた彼の瞳を優しく閉じる。

 宿敵は去った。

 ミーザルに自己主張の星と成れと願いを託し。


 だから、ミーザルは決意する。

 我が名は、サル。猿のサル。全ての猿を呼ぶ時、それはすなわち、種族全ての名が彼を指し示すのである。

 彼を知らぬものすらも彼の名だけは知っている。ああ、なんと自己主張強きことなのか。

 宿敵ともよ。草葉の陰で見るがいい、生まれ変わって嘆くがいい。

 貴様の宿敵は、先へ行くぞ。


「……ん? お、おい、奴だ!」


「どうし……なんだ!?」


「存在進化し始めてる! 奴を殺せッ!!」


 光を発し始めたミーザルに気付いた帝国兵が銃を構える。

 しかし、ヨイドレが、キカザールが、イーワザルがシ・ザルが、他のミーザルたちが、彼らの銃撃を許さない。


 我は誓おう。我が宿敵ともよ。

 我が目指そう。自己主張の星を。

 この世全ての者の視界に、耳に、脳髄に、このサルの名を刻みつけることを、ここに宣誓する。


「我が名はサル。ミーザルであり猿でありサルである。ああ、吾輩・・は……」


 存在進化の光が消える。

 そこにミーザルという存在は居なかった。

 ただ、ミーザルだった新たな自己主張の猿がそこに居た。


「吾輩は、サルである!」


 長い手足に中華を思わせる服。帯で止められたそれは、まるで西遊記の孫悟空を思わせる服装だった。

 鳳眼を開く。手には一本の長い棒を持ち、ゆっくりと空を見上げる。

 そこに、イエイエ康が居るとでも言うように、そして緩慢な動きで視線を帝国兵へと向けた。


「な、なんだ貴様……は?」


「吾輩は、サルである! そう、ただの猿にしてサルである!!」


 クルリ、手にした棒を回して構える。

 さぁ、宿敵よ、空より見るがいい。

 我こそはサル。猿でありサルである。


 この身がこの世にある限り、吾輩は自分を見せつけよう。

 世界中に見せつけよう。全ての者に見せつけよう。

 さぁ、自己主張の始まりだ。吾輩の強さを、華麗さを、その姿を、存分に見つめてくれ。


 特殊進化、『吾輩はサルである』が走りだす。

 ユニークネームを得、ネームドモンスターとなった彼の動きは、先程までとは雲泥の差であった。

 帝国兵が銃を撃つが狙いすら付いていない連撃では、彼を捉えるに至らない。


 だからこそ、見せつける。そして主張する。

 吾輩が、サルであるっ。と。

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