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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 そのかけがえなき犠牲を彼女は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その飢餓の暴虐を帝国軍は知りたくなかった

「GAAAAAAAAAAAAAAAAA――――ッ!!」


 森が震撼した。

 エルフの少女が発した咆哮がビリビリと空気を振るわせる。

 男達が反応するよりも速く、ソレは突撃を始めていた。


 咄嗟に倒れたランツェルを回収するアニアとスクーグズヌフラ。

 アニアが妖精の鱗粉と回復魔弾でランツェルを回復する。

 便利ねぇと呟くスクーグズヌフラ。その視線の先では、無数の銃弾を避けながら木々を足場に飛び交プリカの姿。


 四足歩行で着地と同時に跳ね跳び、相手に狙いを付けさせない。

 銃口が彼女を捉えるより早く兵士が一人、血溜まりに沈み込む。

 首があらぬ方向に曲がり絶命する兵士に驚いたもう一人の兵士がへたり込み、尻から倒れる。

 その顎を肘で打ち抜き、頭を両手で持ったプリカは、次の獲物向けて武器を振り被る。


「「や、やめろぉぉぉっ!?」」


 襲われる獲物、振り被られる得物、双方から絶望的な悲鳴が漏れる。

 飢餓の暴虐状態と化したプリカに慈悲などありはしなかった。

 二つの肉塊が一つに交わる。


「え、えげつない……」


「食らいつかないだけまだマシだと……ひぃぃ!?」


「く、食らいついちゃったわよ。喉に……」


「す、捨てたからセーフ、セーフだよね!?」


「……全く、バカな孫ですまんな」


 傷が治ったのを確認し、ランツェルが起き上がる。


「大丈夫なの?」


「身体が動くなら問題は無い。もう敵の数も少ないしな、あそこに向かうまでに生き残りがいるかどうか。ちょっと行って来る」


 既に全滅間近の帝国兵に向け、ランツェルが走りだす。


00ダブルオーへ! エルフ村襲撃失敗、エルフ一人に部隊壊滅、俺しか生き残りが……」


「ほぅ、これで連絡を取っていたか」


「あっ、や、やめ、があぁぁぁぁッ!?」


 最後の一人がトランシーバーで連絡を取っていたところに、ランツェルが襲撃。

 軽く一捻りで撃破するとトランシーバーを叩き壊した。


「ランツェル、森の中の敵は撃破出来たわ。でも森の外に戦車部隊と戦闘機部隊が居るみたい」


「だろうな。だがこれだけ出来れば充分だ。我々も妖精郷に引っ込むとしよう」


「え? 妖精郷に戻るの!?」


「儂は一矢報いれば満足だったからな。それに、バカ孫をこれ以上危険に晒す訳には行くまい。年寄りの冷や水でもあるしな、そろそろ隠居しようではないか」


「んー。まぁそうか、あの戦車とかいうのは流石に手に負えなさそうだしねぇー」


 その通りだ。と頷いたランツェルは、獲物が無くなり、周囲を探すプリカを見る。


「さて、止めて来るか」


「大丈夫?」


「儂が喰われると思うかね?」


 くっくと笑い、暴走状態のプリカの前へと歩み出るランツェル。

 涎を垂らした肉食獣は、目の前に現れた存在を祖父、ではなくただの肉と認識したらしい。

 涎塗れの顔で笑みを浮かべる。


「GAAAAAAAAAAAAAAッ」


 地を蹴るプリカ。

 一撃必殺とばかりに涎垂らしてランツェルの首に噛みつこうとしてくる。

 そんなプリカに向け、ランツェルもまた前進。流れるような動きでプリカの懐に入り込み、顎を打ち抜き腕を取る。

 腕を引っ張り無防備な頸椎に一撃。プリカの意識を一瞬で刈り取った。


「まだまだだなプリカよ」


「いや、お爺ちゃんがバケモノ過ぎるだけだと思う」


「暴走状態のプリカさんを一撃かぁ……」


 アニアとスクーグズヌフラが呆れた声を出すが、ランツェルは気にすることなくプリカを背負うと、妖精郷向けて歩きだした。


「あ、でも向こうは完全封鎖しちゃってるけど、大丈夫?」


「その点は既に手を打ってある。気にする必要は無いさ」


「さすがだねーお爺ちゃん」


「なぁに、事前に打ち合わせをしていただけさ。さぁ、敵が来ないうちに妖精郷に向かってしまおう」


 ランツェル案内の元アニアとスクーグズヌフラが歩きだす。この森の魔物たちは放置するようで、彼らのみで妖精郷へと向かうようだ。


「ここだ」


「おお、フェアリーサークルだ」


 白いキノコが円状に生えた場所にやってきたランツェル、その円の中へと皆を誘い、そして懐から羽を一枚取り出し天へと掲げた。

 そしてしばらく。何も起こらないことに小首を傾げたスクーグズヌフラがランツェルを見る。

 凄く恥ずかしそうに震えるお爺ちゃんは、コホンっと咳を一つ。


「さて、残りの敵を駆逐しに行くか」


「手は、打ってあったんじゃ無かったの?」


「何事も予定通りに進まぬこともあるさ、さて、どうするべきか」


 どうやら妖精郷の道は完全に塞がれたままのようだ。向こうから迎え入れるつもりはもう無いらしい。

 私達のせいかなぁ。思ったアニアだったがソレをランツェル達に伝える気にはならなかったので口を塞いで墓場まで持っていく決意をするのだった。

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