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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その裏切りを少女は知りたくなかった

 その男は連絡を聞いて溜息混じりに歩いていた。

 連絡係に選ばれた彼だが、出来れば突撃部隊か、東大陸で軍靴を鳴らして遊んでいる控え部隊に配属されたかった。

 同じ増殖の勇者であるのに、一部は随分と貧乏くじを引かされてしまっている。


 今回も、件の控え部隊から連絡が途絶えているということで、相方二人の増殖の勇者と共に確認にやって来たのである。

 だが、現場についた三人は呆然とせざるを得なかった。

 辺り一面を埋め尽す筈の100億にも上る増援部隊。

 その悉くが、消えていた。


 周囲を見回すが一人たりとも生存している様子が無い。

 そればかりか周囲の地形が何か高熱でも通り過ぎたかのようにガラス状に土が固まり、遠くの山が抉れ、左右を削られ切り立った崖と化していた。

 一体どのような攻撃を受ければこんな状況になるのか。

 生存者など見渡した限りいやしない。

 そもそも死体すらも残ってないのだ。


「これは一体……」


「お、おいアレ!」


 一人の兵士が見付けたのは、焼け焦げたトランシーバー。もう使い物にすらならず、半分融解してしまっている状態だ。

 確かにトランシーバーを扱っていた誰かがここに居た。その証明でもあった。


「アレは、戦闘機の破片じゃないか? あっちは戦車の砲塔の一部?」


「見ろ、アレは多分腕か足の欠片だ」


「ここで、何があったんだ……?」


 兵士は周囲を見回す。

 遥か遠くまで見回せるその光景の遥か先、鳥と思しき何かが山へ向って飛んでいるのが見えた。


「いや、まさか……な」


「どうした?」


「いや、気にしなくていい。とにかく報告だ。ψ3より東大陸指令部へ、東大陸に待機中だった100億の後詰軍勢消失を確認。現場では高温の巨大な連撃を受けたと推定される。跡形もなく消え去り連絡も不能」


 自前のトランシーバーで指令部の方へと連絡。後は勝手に総統へと連絡が行くだろう。

 とりあえず後詰部隊が消えたことが報告出来ればそれでいい。


「一応警戒しながら周囲を調べよう。追加報告があるかどうかは別だが」


「だな。しかし、本当に何をしたら100億の兵が消えるんだよ。軽くホラーだぜ」


「俺、ここに配属されて無くて良かったって、今は思うわ」


 兵士の言葉に二人も頷く。

 それからしばし、追加情報が無いかを探って兵士たちは戻って行った。




「ふぅ……疲れたわ」


「お疲れ様ですわ」


 山肌に腰掛け一息付いていたパルティの元へ、鳥に乗ってメリエが戻ってきた。


「あら、戻って来たの?」


「ええ。あ、回復道具全て預かりますわ」


「え? 全て? まぁいいけど」


 はいっとアイテムボックスから回復アイテム全てをメリエに渡すパルティ。

 何の疑問も持たなかった。

 メリエは魔銃に弾を込める。

 パルティは魔力が枯渇しかけているので魔力回復魔弾だと信じていた。

 信じて疑っていなかった。


 パンッ。

 銃から弾丸が二羽の鳥へと向かう。

 まさか自分たちが狙われると思っていなかった鳥は驚きながら凍結した。


「……え?」


「これで、貴女が援軍に駆け付けることは無くなりました」


 クスリ、メリエがにこやかにほほ笑む。

 意味がわからなかった。

 何が起こったのか理解したくもなかった。

 けれど、神々に鍛えられたパルティだからこそ、危機に対して身体を動かす。


「メリエッ、どういうっ」


「魔力が尽き回復する術を失った。空を飛ぶ術もこうして凍結。誰も貴女がそんな状況だと知りもしない」


「メリエッ!!」


 慌てて回復手段を奪い返そうと立ち上がる。

 しかしその時既にメリエは空へと舞い上がっていた。

 魔法で空に上がれるなど、メリエが出来るとは想定外だった。


「どういうことよッ! 今更何をするつもりッ!!」


「貴女が助っ人に来ると面倒なことになるんです。ここで全てが終わるまで待っていてください」


「全てって……待って、まさかッ!! あんた、アルセを裏切ったのかッ!!」


「私はカチョカチュア様に従ったまで。アルセを裏切ったんじゃないわ。初めから、彼女を利用するつもりだっただけ。世界の人々の犠牲を限りなく少なく・・・・・・・終わらせるために」


「ふざけるなッ、アルセを泣かせるために頑張ってた訳じゃないのよッ、あなた自分が何をしようとしてるか分かってるのッ!!」


 パルティは気付いた。気付いてしまった。

 彼女の行動を指示していたらしいカチョカチュア。そいつが目指していたのは確かにこの世界の平和だ。

 普通にやれば大勢の犠牲の元、今回の勇者達を撃退できるだろう。でも、それではダメだと、カチョカチュアが手を加えたのだ。

 それがアルセ。


 アンブロシアを食べ、知恵ある魔物になった彼女に、カチョカチュアは目を付けた。

 行動の指針を指し示し、大切なモノを守るためだとうそぶいた。

 もちろん、行動自体は正解だし、結果もアルセ達の為になるものだった。

 でも、違うのだ。神を名乗る悪党が求めたのは、アルセが守ろうとしたものではないのだ。

 この世界にとっての最善。その世界で生きるアルセ達のことなど考えない結末への道。


「騙したな……」


「貴女が現場に駆け付けてしまえば、また違った未来になるでしょう。それこそ、彼女の神化を引きとめ、彼を繋ぎとめ、結果この世界に多くの嘆きが生まれてしまう」


 だから、犠牲が必要だ。


「騙したなッ、騙したなメリエッ、カチョカチュア―――――――――――――――ッ!!!」


 反撃も行動手段を奪われた神々の使徒にできるのは手の届かぬ怨敵への咆哮だけだった。

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