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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
1287/1818

AE(アナザー・エピソード)その少女の到着を総司令官は知りたくなかった

 ……

 …………

 ……………………


「……っは!?」


 気を失っていた。

 リエラは思わず周囲を見回す。

 青い空にいくつもの雲が足早に通り過ぎている。

 真下はかなり遠くに地表。未だに流れて見えることから、飛翔状態であることは容易に想像できた。

 まだ空の上。否、まだじゃない。

 既に目の前には新日本帝国と呼ばれる国がある。

 アスファルトで固められた道、コンクリートで作られたビルが立ち並ぶ異世界の国。


 既にリエラ達のことは報告が行っているようで銃撃が前方から飛んでくる。

 だが、マホウドリのマホは気にせず銃弾の嵐へと突撃して行く。

 慌ててマントを使って前方の銃弾を弾く。


「ちょ、結界は!?」


 慌てたリエラの声に、しかしマホは応えない。

 ただ只管に飛翔して、新日本帝国中央付近で急降下を開始した。

 驚くリエラは、気付いた。

 マホの瞳は既に景色を映してはいなかった。

 マホの身体は動いちゃいなかった。

 風の流れるまま、重力に引かれるままに、マホは地面に向けて墜落を始める。

 地面に高速で近づくリエラはようやく事態を察した。歯を食いしばり、覚悟を決める。

 慌ててマホウドリの身体を抱きしめ身体を入れ替える。


「くっのぉぉぉぉっ!!」


 ズダン。思い切り両足で着地した。

 勢いを殺しきれなかったのか身体の芯が震える。


「なんてこと……」


 すぐさま物影に隠れ、近づいて来た兵士達から身を隠す。

 確認すれば、マホウドリの意識は既になかった。

 ただ気力だけで、飛翔していたのだ。きっと、リエラの声を聞いて、最後の気力を使い果たしたマホは完全に力尽きたのだろう。

 身体は無数の弾丸に穿たれ血を流し、霞んだ瞳は既に何も映してはいなかった。

 痙攣するその姿は、もう命すらも長くないと錯覚させる。


「ごめんなさい……そして、ありがとう」


 優しく頭を撫で、その場に寝かせる。

 少し調べたが、銃弾は全て貫通しているようだ。

 銃弾が体内に残っていないならば、そしてまだ死んでいないのならば、手はある。

 取り出した魔銃をマホへと向け、引き金を引く。


「後は、ゆっくり休んでてね」


 たった一度、発砲音が響いた。

 マホの身体から傷が消えていく。

 便利な魔弾だ。アルセと出会ってから殆どお世話になりっぱなしの魔弾に感謝を告げて、リエラは剣を引き抜く。

 銃声を聞いて様子を見に来たらしい帝国兵に向け、先制攻撃とばかりに走り寄る。


「マホウドリが休めるように、彼らを先に倒した方がいいわね」


「な、なんだ貴様は……ぎゃっ」


 黒き疾風のように近づいたリエラは現れた兵士を斬り倒す。

 遅れ、近づいて来た兵士達にマホを悟らせないように、一気に駆け抜け五人十人と撃破しながら市街地向けて走り出した。




「侵入者?」


 食堂に皆が会しての食事中。突然やってきた兵士の一人に、増殖の勇者は怪訝な顔をした。


「ほっほ、侵入者とはまた剛毅じゃな。なんじゃい、何処の軍が侵入して来たんじゃ?」


「はっ、それが……どうやら一人のようです」


「はぁ? 一人?」


「はい。鳥に乗って、女が一人。今物凄い勢いでこちらに向かっております」


 意味がわからず増殖の勇者は目を瞬く。

 気のせいだろうか? 今、たった一人で現れた女が帝国兵を薙ぎ散らしてここに向かっていると言う意味に聞こえたのだが。


「許しを請うて、帝国兵に連行されている、という訳ではなく?」


「はい、兵士を悉く薙ぎ散らしてやってきます!」


「ンなばかな。大して兵力を残してないっつっても数千の軍団だぞ。一対多数でどうにかできる数じゃないだろ」


「ふむ。余程自信のある相手かもしれないわね。この世界の勇者的存在かしら?」


「あ、そっか。それなら納得だね、兵士って言っても増殖の勇者だもんねー。鎧袖一触やっちゃうかも?」


「オイコラ、料理の勇者。テメェ俺が弱いってのか?」


「群れないと何も出来ないんだからそれでいいじゃない」


「ふざけんなっ! クソ、指令室に戻る!」


「はいはい、がんばってねー」


 料理の勇者に見送られ、増殖の勇者が去って行く。

 食事の殆どが手つかずだった。


「傷付くなー。もっと食べてけよーぅ」


「儂もそろそろ武器作りに籠るかの」


「はいよー。がんばってねー」


 どうでもいい錬成の勇者を送りだし、食事の後片付けを始める料理の勇者。

 その横で知識創造の勇者が本を閉じて立ち上がる。

 ダイニングテーブルに本を置いて歩きだした知識創造の勇者に、料理の勇者は小首を傾げる。


「どったの?」


「逃げるのよ。このままここに居てもアレだし、早めに行動に移るわ」


「いや逃げるって、女の人が一人突撃して来ただけでしょ? すぐ鎮圧されるって」


「だといいけどね。とりあえず、ご飯美味しかったわ。さよなら」


「えー、女の子友達いなくなっちゃうじゃんかー」


 料理の勇者がぶーっと唇を尖らせるが、知識創造の勇者はそのまま出て行ってしまった。

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