AE(アナザー・エピソード)その司令官の種族を帝国兵は知りたくなかった
「て、敵襲――――!」
コルッカを攻めていた帝国兵から何度目かの敵襲という声が響き渡る。
部隊横合いから飛んでくる魔法弾に一気に倒れる帝国兵。
数自体は数十体なので数万の軍団にとっては大したダメージではないが、流石にちょくちょく散発的にゲリラ戦を行われると徐々に力が削がれるのは仕方無いことだった。
コルッカに攻め寄せようとした兵士達はさぁ行くぞ、と立ち上がった瞬間強襲され、いざ銃口を構えた時には相手が居らず、魔法だけが飛んで来て数名の兵士を薙ぎ散らす。
かと思えば逆方向から魔法弾が飛んで来て兵士を後頭部から襲う。
慌てて振り返るもそちらには誰もおらず、魔法だけが飛んでくる。
そんな状況が繰り返すこと十数回。
未だに敵の姿を見付けられないでいる。
「どうなってる!?」
「わからん。が、奇襲を受けてるのは確かだ。恐ろしく素早く動く部隊だ。視線を向けた時には既にそこには居ないしな」
「しかもそこかしこから飛んでくるぞ! 奴ら俺たちの待機中に既にゲリラ戦をする布陣を整えてやがるんだ。クソ、全体密集隊形、円陣を組め! 次に姿を現したら一斉射で仕留めるぞ!」
隊長が判断を下し、全員が外側に向いて中心を背にした。
だが、それをコルッカ部隊は待っていた。
指揮官葛餅がプレートを掲げる。
空へと飛翔する空軍カモメ。その足には一匹の兎モドキ。
にっくんが空を舞う。
兵士たちの真上から一発の火炎魔法。
帝国兵の中心に落下した魔法は、地面に着地する寸前で膨張する。
背後が急に明るくなったことに気付いた兵士達が後ろを振り向く。
「ば、馬鹿なぁ!?」
ファイアーボールが爆散した。
にっくんはそのまま次の配置まで空軍カモメに連れていかれ、葛餅はこれを見届け次の指示を出す。
「クソ、密集は的になる、散開しろ!」
帝国兵が散開する。
そこへ突撃していく少年少女。
影から影へと疾走するような彼らに、バラバラになった兵士達が慌てて銃口を向ける。
「ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!!」
「ジェノサイド! ジェノサイド! ジェノサイド!!」
「何だこいつ等!?」
眼の色を変えた少年少女がナイフを煌めかせる。
子供とは思えない突進力と脅威を振りまわし、敵陣を縦横無尽に駆け回る。
リファインとアルブロシアにより限界突破してしまったネフティアが保護した少年少女部隊であった。
言葉は要らず、ただ腕を振るい相手を倒すだけ。
帝国兵は反撃すら許されずその数を極端に減らしていた。
敵を見ればコルッカでこの方面を防衛しているのは学生服の男女と子供部隊だけなのである。
本来であれば即座に蹂躙出来る筈の雑魚でしかない。
だが、そうはならない。なる筈がない。
何しろ彼らを指揮するのは、マイネフラン救国の大英雄、軍師葛餅なのだから。
いつの間にか軍師の称号を皆に与えられた葛餅は、学生たちに適時指示を出しながら少年部隊の動向を見る。
突撃はさせたが無駄に死なせるつもりは無い。
またプレートを出しクァンティ、ラーダ、カルアを動かす。
葛餅三銃士が動き出す。
そんな光景を、まだ学園に入ったばかりのノノ、ロディアが憧れの表情で見つめていた。
カルアが指笛を噴き鳴らす。
戦場に響いた音で、突撃部隊の隊長となっていた戦闘教官ピルグリム・ボナパルトが少年兵に指示を出し下がらせる。
敵からの銃撃があったが、ほぼ食らうことなく全員が一斉に撤退した。
なんとか体勢を立て直した帝国兵が反撃に出るより早く、魔法部隊が一斉に魔法弾を撃ち放つ。
魔術教官ボナンザ・デカメロン指示の元、魔術師を目指す子供達が祖国のために杖を振る。
再び体勢を崩された帝国兵に葛餅三銃士率いる突撃部隊が再突撃。
銃撃を行おうとする者もいたが、魔法による炎や氷の温度変化に耐えきれず銃が暴発。自爆する。
「クソ、白兵戦に切り替えろ! 野戦ナイフで切り刻め!」
「弓攻撃来るぞ! 逆方向から突撃、なんなんだよこのガキどもは!?」
「見付けた! あいつだ! あいつが指揮を取ってる! あいつを殺せば終わるぞ!」
「あい……スライムじゃねぇか!? 馬鹿か!? あんなのが指揮出来る訳ねぇだろ!?」
「馬鹿はお前だッ! 見ろ、あいつがプレート掲げた瞬間周囲が動き出してる! 全ての行動が奴のプレートが掲げられた瞬間起こってんだよ!」
「マジかよ……ええい、撃て! 手が開いてる奴は一斉に奴を撃ち殺せ!!」
弓に対処する部隊、白兵戦を行う部隊、そして葛餅を狙う部隊に別れた帝国兵。
葛餅向けて一斉射が襲いかかる。
狙いなど付いていなくても、数千の銃口から発射された銃弾は間違いなく葛餅とその周囲を捉えていた。
だが、当る瞬間葛餅が膨張するように広がり周囲の生徒達の盾となる。
銃弾全てが葛餅の身体に命中し、だが液体鉱石である彼の息の根を止めるに至らない。
全ての銃弾を吸収し、一点に集めた葛餅が触手を振るう。
銃で撃ちだすよりも速度が付いた的確な銃弾が、兵士たちの脳天に突き刺さったのだった。




