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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
1282/1818

AE(アナザー・エピソード)その海上より迫る脅威を帝国兵は知りたくなかった

「何をしている! 弾幕を張れ! 機雷を落とせ、魚雷を込めろ!!」


 イージス艦の旗艦で、艦長が叫ぶ。

 兵士達が忙しなく動き攻め寄せる海洋生物たちを駆逐しようとしていた、その矢先の出来事だった。


「艦長。3番艦より入電、遠くの海上より、え? す、お相撲さん? あー、その、一人の男が猛然とバタフライでこちらに向かってきているそうです」


「は? 相撲? 力士か。なんで海に力士? しかもバタフライ?」


 イージス艦の窓からも、それは見えた。

 小粒の人間が徐々にこちらに迫り来る姿。

 意外と速い。


「魚雷でも撃ってやれ」


「3番艦に連絡、魚雷発射。対象を撃破後報告せよ」


 オペレーターの言葉に了解と返ってくる。

 程なく打ち出された魚雷が力士に直進する。

 しばし後、盛大な水柱が立ち上る。


「力士に命中。なんだったんでしょうねあの……バカな!? 力士生存!? 速度止まりません!」


「ッチ、なんだってんだ。連続射出。ブチ殺せ」


「3番艦、駆逐せよ!」


 オペレーターの言葉より数秒。無数の弾丸が力士へと飛んで行く。

 無数に上がる水柱。

 しかし、当の力士、おいどんは自分の道を行くでゴワスにそんなモノが効くはずもない。

 ただひたすらに、前へ。どれ程のダメージを喰らおうとも構わない。

 彼の目の前にある全てを破壊して、行きたい場所へと進むだけだ。


「ごっつぁんですッ」


「さ、3番艦に接敵!」


 接触の瞬間、イージス艦に思い切り張り手を打ち込むゴワスさん。徐々に船体にめり込み身体ごと強引にねじ込んでいく。


「どうなった! やったか!?」


「いえ、その……」


 オペレーターが返事に迷った次の瞬間、3番艦が真っ二つに裂けた。

 驚く艦長、操船の勇者が思わず身を乗りだす。


「なんだと!?」


「さ、3番艦撃沈……沈んで行きます」


「奴は、あの力士みたいなのは何処だ!?」


「奴は、あ、真っ直ぐです、4番艦に接敵!」


「なんなんだあいつは! さっさと殺せ!」


「駄目です4番艦に入りました!」


 ただ敵を倒すだけならばやりようなど幾らでもある筈だった。

 相手はたった一人なのだ。

 だが、接敵された今ではかなり難しい。

 砲弾をブチ込もうにも彼が居るのは味方の船内。


「4番艦、撃沈……5番艦も……撃墜されました」


「クソ、殺せ、あんな訳の分からん敵に負けるな! ええい、6番艦ごと爆殺だ!」


 操船の勇者が手温いとばかりに砲撃主のもとへと向かい、砲撃を巧みに操作。的確に6番艦を打ち抜き爆散させる。

 飛び散る無数の破片がデッキに突き刺さる。

 だが、ゴワスさんは動じない。

 目の前に居た7番艦へと突撃する。


「くそっあの質量の爆発をどうやって!?」


「艦長、7番艦、8番艦が沈没! 9番艦より救難信号!」


「クソ、クソ、船の操舵は完璧なんだぞ! 戦艦だってこんなに自由に使える、なのに、なのにあんな人間独り相手に艦隊が……本部に連絡しろ! このままじゃ……」


「10番艦、2番艦、12番艦壊滅! 13番艦浸水!」


「ヤバい、こっちに来た! 残りは旗艦と11番艦、14番艦しか……11番艦撃沈! この船に来ますッ」


 力士が止まらない。

 張り手一撃で分厚い装甲を粉砕し、海水を含んだイージス艦が沈んでいく。

 そして逆方向までの一直線を貫かれることで修復不能となった戦艦が沈み、水圧で真っ二つに裂け、時間を掛けて沈んでいくのである。


「奴がこちらにっ! ばかな!? 動力炉に頭突き直撃!」


「なぜ海洋に力士なんかがっ。12機だぞ!? 12機のイージス艦が一瞬で? 総統閣下が、総統閣下が聞いているのだぞっ!」


「か、艦長、この艦も持ちませ、うわあああああああああああああっ!?」


 ベキベキベキと戦艦自体が悲鳴を上げる。

 旗艦までもが力士の前に破れ去り、最後の14番艦が慌てて逃走を試みる。

 だが、そこに海中より現れた無数の触手が絡みつき、吸盤でひっつき船体を圧し折る。


「くはは、大物ゲットだ。どうだ若いの。虹色蝦蛄の分際でこのクトゥールフに勝てるとでも思っているのか」


「やるじゃねぇーか。古参の実力って奴か」


「ええい、奴に抜けがけされたままではおれん、残りは儂らで駆逐するのだ!」


 沈むイージス艦の群れ。その真下の海中で、魔王達が先を争うように他の戦艦や潜水艦に群がって行く。

 そんな彼らに視線を向けることすらせずに、おいどんは自分の道を行くでゴワスは東大陸向けて一心に泳ぎ続けるのであった。


 ゴワスさんの背後には二つに分かたれ海上に斜めに突き立つイージス艦の群れ。もはや沈むのを待つだけの戦艦からは、人々の脱出する姿が見えていたが、そのほとんどが魔王達により海の藻屑へと替えられて行く。


 リフィは一度海上に顔をだし、大艦隊を撃破してくれたゴワスさんに視線を向ける。

 ありがとうございました。頭を下げる少女の感謝を背に、ゴワスさんは今日も自分の道をひた泳ぐのであった。

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