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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その西大陸の闘いを総統閣下は知らない
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AE(アナザー・エピソード)その海洋を統べし魔王たちを帝国兵は知りたくなかった

「ああもう、どうして……」


 もはや収拾がつかなくなっていた。

 魔王と眷族が一人、また一人、やられる先から次は俺が本当の魔王を見せてやる、とばかりに突撃していく。

 全員が協力すれば早いのだ。

 なのに一つの魔王と眷族だけで向かって行くから格好の的となって船底に辿り着く前に駆逐されてしまう。


 潜水艦の方も同じだ。

 一魔王と眷族のみが近づいてくるため敵も楽に迎撃できているらしく、まだまだ余裕が見える。

 海上のイージス艦も20隻程見える。

 潜水艦は三隻程だろうか。

 ここに居る魔王達が囲みさえすれば駆逐も可能な数だ。


 だからこそ、どうして?

 協力さえすれば勝てるのに。

 リフィは隣に居たアルセ二号を抱きしめる。


「どうして……」


「そもそもが我の強い魔王共。協力など考えにも無いだろうな」


 四聖獣プレシオの言葉にリフィは落胆を隠せない。

 だが、このままではいけない事だけは分かる。

 なんとか、なんとか彼らを結束させなければ、この海洋が突破されてしまう。


「お願いしますっ。皆さん、協力してくださいッ。あの敵を倒すには皆さんの結束が必要なんですッ、だから、だからどうか……」


 リフィが叫ぶ。この海洋に居る魔王全てに向けて。

 しかし、その声は彼らに届かない。

 取るに足らないぽっと出の魔物娘の主張に耳を傾ける馬鹿は居ないのだ。


「お願いっ、お願いしますっ。お願いだからっ」


「リフィッ!」


 プレシオが叫んだ時には遅かった。

 ハッと気付いたリフィの側面から、魚雷が一つ迫っていた。


「あ……」


 何も、できなかった。

 リフィは思わず目を見開き、でも動くことすらできず迫る魚雷を見つめる。

 自分では、アルセ達の役に立つことも出来ないのか、海洋から迫る増援部隊をただ通り過ぎるのを見ている方がよかったのか、やりたいこと、後悔、諦め、様々な感情が湧き起こり頭が真っ白になる。

 迫る魚雷を無防備に見つめ、己の終わりを自覚する。


「馬鹿がッ」


 着弾の瞬間だった。

 背後から誰かに引っ張られ、割り込むように虹色の拳が魚雷を打ち抜く。

 強力な一撃を受けた魚雷は海底に突き刺さり盛大に爆散した。


「……え?」


「馬鹿リフィッ! 死にたいのッ」


「え? ……ヲル、ディーナ?」


 それはここに居る筈の無い二人であった。

 スキュラのヲルディーナ。そして、虹色蝦蛄の魔王、ファラム。

 リフィを引っ張り抱きしめるヲルディーナと、拳を引き戻し、軽く振るって振り向いて来るファラム。

 心強き仲間たちが海洋の援軍に駆け付けてくれたのだった。


「あ……ぅ……」


「全く、同じアルセ姫護衛騎士団の一人として不甲斐ない」


「あらファラム。貴方既にパーティーに入ってる自覚あったのね」


「う、うるさい。お前こそどうなんだ」


「私? 私は恋人が冒険者見習いってだけよ。それよりもほら、魔王様、さっさとあいつら纏めて来なさい」


「チッ。そっちは任せるぞ」


 舌打ちを残し、リフィをヲルディーナに任せたファラムが闘う魔王を観戦する古参の魔王たちの元へと向かう。


「魔王共ッ」


「ん? なんだ貴様は。次はお前が行くのか?」


「笑わせるな馬鹿共」


「なんだと?」


「あんな雑魚共に良いようにやられている場合か。同じ魔王として不甲斐ない」


「言ったな小僧ッ」


「貴様等は恐いのだろう? だから雑魚の雑魚から小出しで相手を疲れさせて弱らせてからでないと闘えん」


「黙れッ。儂が負け魚とほざいたか!」


「相手が弱るまで待っているのであろう? 負け魚? いいや負けクラゲにも劣るかもしれんなぁ」


「いい度胸だ貴様! 我を怒らせるとは余程死にたいらしい」


「はっ。俺ならばあんな雑魚共楽に倒せる。お前らはそこで震えて居ればいい。倒しきった後にここの支配権は貰うがなぁ。古参というからどれ程の実力かとも思ったがあいつらを駆逐するのも怖がる腰抜け共ではな、そんなモノ共にこの海域を支配などさせておくのはもったいない。ここは今後、俺が支配し、いや、俺の配下のヒトデにでも支配させようか」


「貴様ッ、この我の領域をヒトデなぞに収めさせる気か!?」


「なんだ。嫌なのか。では競争と行こうではないか、多く撃墜したモノが海域の主、とかどうだ?」


「「「「乗った!!」」」」


 古参の魔王達がくくっと笑って動き出す。

 皆、本当にイラついている訳ではなかった。

 古参魔王としていきなり闘いに向かうには理由が無かったのだ。

 他の魔王共がどうかは知らないが、この地に古くから住まう魔王達はすでに協定を結んでいる。

 ファラムがどれ程あがこうが赤子の手を捻る如く倒せる存在たちだ。彼らが動くにはそれ相応の脅威でなければ他の魔王達が危機感を覚えてしまうのだ。


 だが、ここに彼らが動くべき理由が与えられた。

 ぽっとでの小娘による協力願いなどではない。

 この海域を自分の物にするための我欲。

 もともとこの海域は彼らのものなのでファラムに取られぬよう動くという理由があれば、他の魔王たちが邪推することもない。


 下手にバランスが崩れることもないし、古参同士なら後々領地を掛けて賭けでもしながら元の状態に戻せばいいのだ。

 古参の魔王が動けば他の魔王達も動かざるをえない。

 もとより彼らの地位を狙う野心家も、追随するつもりの腰巾着も、皆が揃って敵に殺到する。

 我が倒すとばかりに魔王全員、眷族全員が一丸となって三機の潜水艦へと殺到するのだった。

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