AE(アナザー・エピソード)その水上街の霊獣を帝国兵は知りたくなかった
「うぅ……ふぐっ……ふえぇぇぇぇぇっ」
「ぶるひひひん」
泣くな小娘。
背中に乗せた水先案内人の少女が泣いているので、何とか慰めようとしているのは、ぺズンの守護獣オヒシュキである。
彼は今自身のテリトリーである湖の中央に陣取りぺズンに攻め寄せる敵軍の気配を探っていた。
既に戦端は開かれており、敵軍がぺズン入口へと攻め寄せようとしている。
とはいえ、アルセ神グッズの御蔭で壊滅的打撃を受けていないぺズンは、水路を上手く使うことで敵軍の行軍を妨害していた。
帝国軍もかなり攻めあぐねているようで、イラついて水路を横断しようとするモノが現れる。
だが、そこへ見越したような津波の一撃。
突然水路が盛り上がり、兵士を乗せた船を丸ごと飲み込む。
オヒシュキの能力だ。
彼が管理するこの水路でならば、不埒モノを水面の藻屑にしてしまうことが可能なのである。
湖に居ながらも街中の動きを察知するオヒシュキ。
水先案内人が泣きやむのを心配そうにしながらも敵軍を少しずつ削り取っていた。
だが、その耳がぴくりと動く。
別働隊だろう。
無数の兵士が湖に現れる。
水先案内人の少女がぴぃっと悲鳴をあげて泣きやんだ。
「お、おおお、オヒシュキ様……」
「ヒヒン」
落ち付け小娘。
「デルタ6より00(ダブルオー)へ。ぺズンの霊獣オヒシュキを発見した。これより捕獲、または撃破を試みる」
帝国兵の一人が小型の箱のようなモノに声を掛ける。
向こうから返答は無かったが、気にすることなく懐に仕舞うと、他の帝国兵へと指示を出した。
「これよりオヒシュキを捕縛する。生きたまま捕らえられれば動物園にでも入れておこう」
「凶暴な場合は?」
「抵抗するのは織り込み済みだ。無理そうなら射殺していい」
投網銃を持った帝国兵が湖へと入ってくる。
慌てふためく水先案内人。
オヒシュキはふんっと鼻を鳴らした後、不機嫌な顔で尻尾を水面に叩きつける。
途端、迫り来ていた帝国兵の元へ水がせり上がる。
「総員退避!」
隊長格が叫ぶが遅い。
気付いた兵士達が上を見上げた時には、既に迫り来た水に飲まれて消え去っていた。
水流を巧みに操り泳いで水面に出て来れないよう水底へと誘導しておく。オヒシュキの能力を今更ながらに知らされた隊長は、歯噛みして悔しがる。
とてもじゃないが生かして捉えるなど無謀もいいところであった。
「総員構え!」
捕縛から射殺に切り替えた隊長の言葉に、帝国兵が四方八方から銃口を向ける。
湖の中心に佇むオヒシュキ、その上に居る水先案内人の少女は両手を上げて放心していた。
既に白旗振っている彼女だが、当然ながら兵士達には無視されてしまった。
「撃ぇ!!」
一斉に銃口が火を噴く。
たしん。再びオヒシュキが尻尾で水面を叩く。
とたん、オヒシュキの周囲から水がせり上がり、銃弾全てが水の壁に阻まれる。
流石に抜け出る銃弾もあったが、水の中を移動したせいで速度は鈍り、オヒシュキに届くことなく放物線を描いて水底へと落下していく。
「ぐぅぅ、ランチャーを使え!」
「はっ!」
「放て!」
ロケットランチャーが発射。
先程と同じように水の柱が立ち上るが、砲弾はこれをぶち破り真っ直ぐに飛び、さらに柱を突き破って向こう岸に着弾する。
柱の中央にオヒシュキは居なかった。
何処に行った!? 驚く帝国兵たちの元へ、水柱の真上からオヒシュキが降ってくる。
気付いた時には既に迎撃出来る状況ではなかった。
「上だと!?」
「ヒヒーンッ」
クタバレ! 隊長に突撃するオヒシュキ。落下の風圧で凄い顔になっている水先案内人の少女と共に、隊長格に激突……の瞬間、真後ろから迫り来た大縄が彼の身体を包み込む。
「ブヒン!?」
「よくやった!」
恐怖で尻持ちを吐いた隊長がざまぁみろっと叫ぶ。
慌てて振り返れば、真上を通過した戦闘機が一機。
どうやら投網を投げ落したようだ。
まさか上から捕縛網を投下されるとは思っても居なかったオヒシュキは、無様に地面に転がる。
がんじがらめにされた水先案内人の少女がいろんなものを漏らしながら泣きだした。
「なんかおまけがついて来たな」
「せっかくだから楽しんでから殺すか?」
「いや、下手に縄を解いてオヒシュキに暴れられると困る。このまま揃って……いや、縄の間からならやれるか?」
「よっし、俺一番!」
「ぴぃぃ!?」
怯える少女に手が掛けられる。その瞬間、
「ムーちゃんッ!!」
上空より飛来する無数の鳥。
その一羽から、セネカが飛来する。
アルセ神オールを両手でしっかと握りしめ、群がる帝国兵の真上に落下した。
「忍!」
さらにもう一人、風神の舞いとでも言うべきか、印を結んだ影からニンニンがオヒシュキを捕まえた縄を切り裂いた。




